海老坂武の「加藤周一―20世紀を問う」を読んだ! | とんとん・にっき

海老坂武の「加藤周一―20世紀を問う」を読んだ!

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海老坂武の「加藤周一―20世紀を問う」(岩波新書:2013年4月19日第1刷発行)を読みました。海老坂武については、管野昭正編「知の巨匠 加藤周一」を読んで、僕は初めて知りました。その辺の事情は、過去に以下のように書きました。


菅野昭正編「知の巨匠 加藤周一」を読みました。昨年、2010年9月18日から9月26日まで、世田谷文学館で開催された「知の巨匠 加藤周一ウィーク」の講演会を取りまとめたものです。講演会は大江健三郎(9月18日)、姜尚中(9月19日)、高階秀爾(9月23日)、池澤夏樹(9月25日)、山崎剛太郎・清水徹(対談、9月26日)の計5回、僕はすべてに出席することができました。この講演会とは別に、恵比寿の日仏会館で「加藤周一記念講演会」が開催され、その第1回に海老坂武の「加藤周一とフランス」と題する講演が行われ、その講演もこの本に収載することになりました。この講演会シリーズを企画した世田谷文学館館長の菅野昭正も、一文を書くことになり、それが巻頭に「思い出すままに」として載せられています。


加藤周一:略歴

1919年、東京に生まれる。東京帝国大学医学部を卒業。医学博士。在学中より中村真一郎、福永武彦らと交友し、「1946文学的考察」「マチネ・ポエティク詩集」などを刊行。1951年に留学生としてフランスに渡り、医学研究のかたわら西欧各国の文化を吸収。その後は、東西文化に通じた旺盛な評論・創作活動を展開。カナダのブリティシュ・コロンビア大学をはじめ、ドイツ、イギリス、アメリカ、スイス、イタリアなど各地で教鞭を執る。2004年発足の「九条の会」呼びかけ人の一人。2008年12月、逝去。著書に「雑種文化」「羊の歌」「日本文学史序説」「日本 その心とかたち」「夕陽妄語」「日本文化における時間と空間」など多数。


加藤周一については、どのような人かはほとんど知らないまま、毎月1回朝日新聞に連載されていた「夕陽妄語」と題された文章を、気がついたら読んでいました。1984年5月までは「山中人閒話」と題されていたようですが、その頃のことはあまり記憶にありません。加藤周一のことをもっと知りたいと思い、2010年9月から世田谷文学館で開催された「知の巨匠 加藤周一ウィーク」という講演会に参加したというわけです。正直言ってその時は、講演会の講師の方々の方に大きな興味があった、というのが実際のところでしたが・・・。


それがきっかけで加藤周一の著作を数冊購入しましたが、ちゃんと読んだのは「羊の歌」「続羊の歌」のみで、その他の著作はほとんど途中で投げだし挫折したままでした。「日本文学史序説 上・下」にいたっては、講演の際に大江健三郎から「時間をとって一月に1章ずつ読んでいかれたらいいと思います。そのようにして全11章を1年間通してお読みになると、そしてもう一度再読されると、実に多くのことが自分に納得できます」と言われながら、未だに実行できずにいます。また、講師の一人である清水徹の「ヴァレリー―知性と感性の相克」(岩波新書:2010年3月19日第1刷発行)も中途で読むのを止めています。


そうそう、思い出しました。加藤周一の「日本の内と外」(文藝春秋:昭和44年10月1日第1刷、昭和52年7月10日第6刷)という本を持っていました。海老坂の「あとがき」で、加藤の作品は、まず新聞か雑誌に発表され、ついで単行本としてまとめられ、最後に「著作集」や「自選集」に収められる、といったケースが多い、としています。この本も幾つかの寄稿した論文を集めて単行本としたものです。第7章の「希望の灯をともす」の項で、「ウズベック・クロアチア・ケララ紀行」を取り上げています。加藤が考える三つの型の社会主義を論じているものですが、今目次を見ると「日本の内と外」にしっかりと載っていました。海老坂の取り上げた加藤の文章が、例えば「日本文化の雑種性」とか、「知識人について」や「戦争と知識人」等々、他にも載っているのに驚き、どうしてちゃんと読んでいなかったのか、今さらながら悔やんでいます。


そうこうしているうちに、海老坂武の「加藤周一―二十世紀を問う」が発売されたので、さっそく読んでみたというわけです。


この本のカバー裏には、以下のようにあります。

言葉を愛した人・加藤周一は、生涯に膨大な書物を読み、書き、そして語り続けた。それはまた、動乱の20世紀を生き抜きながら、これを深く問い、表現する生でもあった。その全体像はどのようなものであったか。同時代を生きてきた著者が、加藤の生涯をたどりつつ、我々の未来への歩みを支える力強い杖として、今ひとたび彼の言葉を読み直す。


海老坂武:略歴
1934年東京都生まれ。東京大学文学部仏文科卒業、同大学院博士課程修了。一橋大学教授、関西学院大学教授を経て、現在は執筆に専念。専攻は、フランス現代文学・思想。著書に、「パリ―ボナパルト街」(晶文社、ちくま文庫)、「戦後思想の模索」(みすず書房)、「シングル・ライフ」(中公文庫)、「〈戦後〉が若かった頃」、「かくも激しき希望の歳月―1966~1972」、「祖国より一人の友を」(以上、岩波書店)、「サルトル―「人間」の思想の「可能性」」(岩波新書)、「戦後文学は生きている」(講談社現代新書)ほか多数。訳書に、「黒い皮膚、白い仮面」(ファノン、共訳、みすず書房)、「文学とは何か」(サルトル、共訳、人文書院)ほか多数。


海老坂は、「彼は言葉を書き続け、言葉を語り続けた。そして多くの言葉を残した」として、加藤周一を「言葉人間」と位置づけています。多くの言葉を残しただけではなく、扱ったテーマの幅の広さ、20世紀日本の言葉の歴史の中で、加藤周一ほど多岐な分野にわたって文章を書き、発言してきた物書きはいないのではないか、と問います。ではこれらの言葉によって、加藤周一は結局のところ何をなしたか。何をなし得たか。何をなし得なかったか。この本で意図したのは、こうした「言葉人間」の歩みの全体を辿ることだと、「はじめに」で解題しています。


海老坂は、加藤周一の代表作を一つあげろと言われたら、私は躊躇なく「羊の歌」をあげるだろうと述べて、当然のことながらこの本でも「羊の歌」から始めています。「羊の歌」には、加藤周一という作家を解き明かす幾つもの手がかりが与えられている、という。加藤周一は、「文学とは何か」の文学批評家であり、「運命」の小説家であり、「雑種文化論」の文明批評家であり、「日本 その心とかたち」の美術史家であり、「日本文化における時間と空間」の思想史家であり、「夕陽妄語」の時評かであり、「九条の会」の政治的行為者であり、エトセトラ、いわば多面体の存在である、としています。


28年に及んだ、総計にしておよそ2400枚という「山中人閒話」「夕陽妄語」を取り上げ、新聞で読み始めた時は、政治と文化にわたる一種の時評として面白く読んでいたが、全体を通読してみて、月1回の付き合いでは見えなかった精神の巨大な営みを感じ、その文字群に圧倒されたという。そこにあるのは衰えをしらぬ好奇心であり、鋭敏な批判精神であり、何よりも持続する志である、と述べています。


海老坂はまた、加藤周一はある意味で遠く、ある意味で近い存在だったとして、「一つの大きな事件が起きたときに、この人はどう考えているだろうと気になる人、そして同意するにせよ違和感を覚えるにせよ、確実に指標を与えてくれる人、それが同時代人としての加藤周一だった」と告白しています。


目次

はじめに―加藤周一を読むこと

第1章 〈観察者〉の誕生

第2章 戦後の出発

第3章 〈西洋見物〉の土産

第4章 雑種文化論の時代

第5章 1960年代―外からの視線

第6章 〈日本的なもの〉とは何か―〈精神の開国〉への問い

第7章 希望の灯をともす

あとがき

加藤周一略年譜


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とんとん・にっき-tino 「知の巨匠 加藤周一」

2011年3月10日第1刷発行

編者:菅野昭正

発行所:株式会社岩波書店

定価:本体2200円+税




とんとん・にっき-bun1
「日本文学史序説 上」

ちくま学芸文庫

1999年4月8日第1刷発行

著者:加藤周一

発行所:筑摩書房






とんとん・にっき-bun2

「日本文学史序説 下」

ちくま学芸文庫

1999年4月8日第1刷発行

著者:加藤周一

発行所:筑摩書房





とんとん・にっき-hitu1 「羊の歌―わが回想―」
岩波新書

1968年8月20日第1刷発行

著者:加藤周一

発行所:株式会社岩波書店





とんとん・にっき-hitu2 「続羊の歌―わが回想―」
岩波新書

1968年9月20日第1刷発行

著者:加藤周一

発行所:株式会社岩波書店