木下恵介監督の「楢山節考」を観た! | とんとん・にっき

木下恵介監督の「楢山節考」を観た!

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木下恵介監督の「楢山節考」(放映は2011年11月27日)を観ました。NHKBSプレミアム、毎週日曜日の22時から放映されている「山田洋次監督の選んだ日本の名作100本・家族編」を、気に入ったものがあったときは録画しています。直接観ることはほとんどありませんが、録画しておいたものは後で時間があるときに少しずつ観ています。「楢山節考」はその中の1本で、録画しておいたものを観ました。「楢山節考」は深沢七郎の作品だということは知っていましたが、読んだことはありませんでした。


「楢山節考」の映画は、木下恵介監督(1958年)のものと、今村昌平監督(1983年)のものとあります。今回僕が観た「楢山節考」は木下版で、おりんを田中絹代、その息子の辰平を高橋貞二、その嫁を望月優子が演じています。この映画の最も特徴的なのは、「セット撮影」にあります。いかにも書き割り的なセットですが、場面転換などには「楢山節考」らしい効果を上げていました。木下監督が最も力を注いだところです。ちなみに「富士フイルム社のカラーネガフィルムが、長編劇映画で初めて使用され、以降、各社の映画の製作に使用されはじめた」と、ウィキペディアにあります。


村では70になると「楢山まいり」に行くことになっています。要するに「姥捨て」、「口減らし」です。隣村から辰平の嫁が来ます。しかし、子どもたちに歌われるようにおりんの歯は丈夫に出来ていて、食料の乏しい村ではそれが恥ずかしい。そこでおりんは自分の歯を石臼にぶつけて欠いてしまいます。田中絹代は演技の必要上、自分の歯を欠いたと言われています。


圧巻はラスト、辰平が母を背負って、荒涼とした楢山へ登るところです。楢山の山頂に母をおいて涙ながらに山道を戻った辰平、雪が降り出します。辰平は山頂まで駈け登り、念仏を称えているおりんに「おっかあ!雪だ!雪だぞ!良かったなぁ 良かったなあ…」と呼びかけます。おりんはうなずいて帰れと手を振ります。村に帰りついた辰平は、玉やんと並んで楢山をのぞみ見ながら、「わしらも70になったら一緒に山へ行くんだね」とつぶやきながら合掌します。


劇中、深沢七郎が作った歌が20数曲流れます。松岡正剛は、「楢山節考」は歌物語だと述べています。


かやの木 ギンやん ひきずり女
アネさんかぶりで ネズミっ子抱いた
塩屋のおとりさん 運がよい
山へ行く日にゃ 雪が降る
楢山まつりが 三度くりゃ
栗の種から 花が咲く
山が焼けるぞ 枯れ木ゃ茂る
行かざなるまい しょこしょって


以下、「goo映画」より

解説 - 楢山節考('58)

中央公論新人賞を受賞した深沢七郎の同名小説の映画化。脚色、監督は「風前の灯」の木下恵介、撮影も同じく「風前の灯」の楠田浩之が担当した。主演は「悲しみは女だけに」の田中絹代、望月優子、「その手にのるな」の高橋貞二、その他東野英治郎、宮口精二、伊藤雄之助などのベテラン。色彩は富士カラー。


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あらすじ - 楢山節考('58)

山また山の奥の日陰の村。--六十九歳のおりんは亭主に死に別れたあと、これも去年嫁に死なれた息子の辰平と孫のけさ吉たちの世話をしながら、息子の後妻をさがしていた。村では七十になると楢山まいりに行くことになっていた。楢山まいりとは姥捨のことである。働き者のおりんはお山まいりの支度に余念ない。


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やがて村一番の行事である楢山祭りの日、隣村から辰平の嫁が来た。お玉といい、年も辰平と同じ四十五である。気だてのいい女で、おりんは安心して楢山へ行けると思った。だがもう一つしなければならぬことがある。おりんの歯は子供たちの唄にうたわれるほど立派だった。歯が丈夫だということは、食糧の乏しい村の年寄りとしては恥かしいことである。そこでおりんは自分の歯を石臼にぶつけて欠いた。


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これで支度はすっかり出来上り、あとは冬を待つばかりである。おりんの隣家は銭屋といい、七十才の又やんと強欲なその伜が住んでいた。又やんはなかなか山へ行く気配がなく、村では振舞支度が惜しいからだと噂していた。


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おりんの家では女がまた一人ふえた。けさ吉の子を姙っている松やんである。彼女は家事は下手だが食物だけはよく食った。木枯が吹く頃、雨屋の亭主が近所に豆泥棒に入り、捕って重い制裁をうけた。そして雨屋の一家十二人は村から消された。おりんはねずみっ子(曽孫)が生れるまでに楢山へ行かねばと決心し、あと四日で正月という日、「明日山へ行く」といい出した。辰平をせかして山へ行ったことのある人々を招び、酒を振舞ってお山まいりの作法を教示された。


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次の夜、おりんはしぶりがちな辰平を責めたてて楢山へ向った。辰平に背負われたおりんは一語も発せず、けわしい山道をひたすらに辿った。楢山の頂上近く、あたりに死体や白骨が見えはじめた。おりんは死体のない岩陰に降り立った。顔にはすでに死相が現われていた。おりんは辰平に山を降りるよう合図した。


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涙ながらに山道を戻った辰平は、七谷という所で銭屋の伜が又やんを崖からつき落そうとするのを見た。憤りが辰平の身うちを走り、又やんの伜に躍りかかった。銭屋の二人を呑んだ谷底には鳥が雲のように群っていた。雪が降り出した。辰平は禁を犯して山頂まで駈け登り、念仏を称えているおりんに「雪が降って来て運がいいなあ」と呼びかけた。おりんはうなずいて帰れと手を振った。


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--村に帰りついた辰平は、玉やんと並んで楢山をのぞみ見ながら、「わしらも七十になったら一緒に山へ行くんだね」とつぶやきながら合掌した。


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とんとん・にっき-nara9 「楢山節考」

著者:深沢七郎

発行:1964年7月

新潮文庫
お姥捨てるか裏山へ、裏じゃ蟹でも這って来る。雪の楢山へ欣然と死に赴く老母おりんを、孝行息子辰平は胸のはりさける思いで背板に乗せて捨てにゆく。残酷であってもそれは貧しい部落の掟なのだ―因習に閉ざされた棄老伝説を、近代的な小説にまで昇華させた「楢山節考」。