「嫌われ松子の一生」を読んだ! | とんとん・にっき

「嫌われ松子の一生」を読んだ!


2003年2月10日の第1刷発行だから、3年半前ということになりますが、その頃から気になっていた本でした。たまたま1ヶ月ぐらい前にブックオフで買っておいたものを、つい最近読み終わりました。幻冬舎創立9周年記念特別作品、とあります。9周年とは、これまた中途半端ですが。書き下ろし、原稿枚数1071枚(400字詰め)、上下2段組、なにしろ長編です。


重松清が僕はどういう作家なのか知りませんが、「嫌われ松子の一生」について、次のように書いています。一晩で読了した。ページを繰る手を止められなかった。夜明けの訪れとともに本を閉じて、泣いて、惚れた。どうしても幸せになれなかった松子さんに。かなしくて、せつなくて、いとおしい彼女の物語に。そして不運な一人の女性の「生」を描ききって、愛しきった山田宗樹さんに、ぼくはいま、猛烈に嫉妬しているのだ。と、ありますが、さすがに僕は一晩では読了できませんでしたが、それでも2日半ぐらいで読み終わりました。2段組、長さだけでいえば、世界文学全集のロシヤ文学、といったところでしょうか。


以下は、本の帯の引き写しですが。30年前、松子24歳。教職を追われ、故郷から失踪した夏。その時から最期まで転落し続けた彼女が求めたものとは?一人の女性の生涯を通して炙り出される愛と人生の光と影。気鋭作家が書き下ろす、感動ミステリ巨編。とあります。30年前、美人教師、松子24歳。泣きながら故郷を捨てたあの日。一瞬にして人生の歯車が狂った。教職を追われた松子を待ち受けるどこまでも数奇な運命。一人一人の男とのであいが、松子を出口のない闇へと落としていく。残酷なまでの人生に誘うのは、不幸を呼ぶ業か、偶然の悪戯か。懸命に松子の軌跡を追う19歳の甥が最後にたどり着いたのは、遺骨に刻印された松子の精一杯生きた「生の証」だった。


九州から上京し2年目の夏を迎えた大学生・川尻笙は、突然の父の訪問で30年以上前に失踪した伯母・松子の存在と、その彼女が最近東京で何者かに殺されたことを知る。松子の部屋の後始末を頼まれた笙は、興味本位から松子の生涯を調べ始める。それは世間知らずの彼にとって凄まじい人生との遭遇だった。殺人歴を持つ男やかつての友人との出会いを経て、松子が聖女ではなく小さな幸せを求め苦闘した生身の女性であったことに気付いていく笙。いつしか彼は、松子の彷徨える魂を鎮めるために、運命の波に翻弄され続けた彼女の人生の軌跡を辿っていく。(カバーの見返しより)




著者の山田宗樹がどういう作家なのかは、僕はまったく知りません。山田宗樹の経歴を調べると、1965年愛知県生まれ。98年「直線の死角」で第18回横溝正史賞受賞。「嫌われ松子の一生」の他の著書に「死者の鼓動」「黒い春」などがあるとあります。「書き下ろし」でこれだけの読ませるものを書けるというのは、相当な力量なのではないでしょうか。「感動ミステリ巨編」とありますが、まったくミステリを読まない僕にとっては、この作品がミステリなのかどうか、判断が付きません。もしかして、これってノンフィクション?と感じさせる内容です。ミステリはグイグイ読ませなくてはならない?


その辺がエンターテインメント系の作家は上手い。この物語は現在に生きる笙と、過去に生きた松子のふたつの視点から語られているところが構成の特徴で、それが物語をドラマチックなものにしていると思います。単に松子を時系列的に単線的に描いただけでは、こうした効果は期待できなかったでしょう。しかし、読ませるけどやっぱり浅い感じ、薄っぺらな感じが最後までつきまといました。人間が描き切れていない。松子の父親、そして、笙の父親、つまり松子の兄、について描き切れていない。松子の病弱な妹についても、なぜ父親がなぜ、松子でなく妹の方を愛したのか。笙の彼女である明日香についても同様。肝心の松子の心の動きもほとんど描かれていません。ただやるせない事件が推移するだけで。


波瀾万丈の「女の一生」ものか?自業自得だろ。簡単に男に騙される。こんな馬鹿な女がいるんだ。やることなすこと、みんな裏目に出る。松子が教師を辞めてからの転落の人生、40歳から以降、亡くなるまでがさっぱり描かれてなく、またどうして無惨にも若者の集団に殺されなければならないのか、疑問だらけ。どうしてタイトルが「嫌われ松子」なんだろうという疑問も。松子は、人から嫌われるような人柄には描かれていません。実直な家庭に生まれ、成績優秀で真面目。中学校の教師として人生のスタートを切った松子を襲う不幸の数々。なぜ彼女は殺されたのか、なにが彼女を転落させたのか。「東電OL殺人事件」を思い出します。桐野夏生は東電OL殺人事件をも出るに「グロテスク」を書いています。


「祈り」と題された終章、現代の若者である笙と明日香が、人生について、生きるということについて、真剣に考え立ち向かっていこうとする姿勢に変化していく様が描かれています。明日香は一応、笙と分かれて医者を目指します。松子の転落の原因をつくった龍が、哀しそうな目でこう言います。「許せない人間を許す。それが・・・」。聖書かよ。教会かよ。神様かよ。これはちょっと猪突で、しかも、陳腐な感は否めません。物語の終わり方として、それでいいのか?


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