古き友から、新しき友 | トナカイの独り言

トナカイの独り言

独り言です。トナカイの…。

 高校生から二十代の長きにわたって、マーラーはわたしの親しい友人でした。

 もしかしたら、いちばんの親友と呼んで良いくらいに。

 当時、異端扱いされ、狂人、変人扱いされていたマーラーは、わたしにとって決して偉大なる作曲家ではなく、まわりから 「好きになるのがおかしい証拠」 くらいに思われた作曲家だったのです。
 そんなマーラーの音楽から、わたしはいろいろなものを学びました。
 それこそ、坂本龍馬の 「世の人は我を何とも言わば言え 我なす事は我のみぞ知る」 という感覚で、皆が何を言おうが、わたしはマーラーが好き。だから、親しい友人感覚で音楽を聴き続けていました。
 

 人生の中で何回か、激烈なマーラー熱に侵され、ここまで生きてきました。
 ですから直接お会いした誰よりも、マーラーについてなら知っていると信じていました。
 

 そんなふうに生きて来た五十代の入り口で、不思議な縁から土井尊博さんにお逢いしました。

 わたしなど足元にも及ばない、素晴らしいマーラー愛好家でした。
 わたしはマーラーの音楽を好きだというだけのことから、マーラーを知りたいと思って生きて来ましたが、土井さんはそれだけに留まらず、ほぼ手に入るすべてのマーラー録音をお聴きになり、かつアマチュア演奏家としても活躍されていらっしゃいました。
 そんな土井さんとの出逢いが、クラシックジャーナル041号 『マーラーを究める』 を生み出すことになります。この本は二人のマーラー好きが出逢ったことで生まれたのです。 

 

 

 そこで、土井さんからこんな言葉を聞くことになります。

「名古屋に素晴らしいマーラー研究者がいらっしゃいます。わたしなど足元にも及びません」

 五十代半ばにして、土井さんのおっしゃったマーラー研究者の前島良雄先生にお逢いすることができました。
 こうして前島先生の輝かしい書籍群が生まれることになります。

 

 

 前島先生は、現在世界に生きていらっしゃる最高のマーラー研究者でしょう。
 マーラーへの愛情に始まり、その学術的研究は、自ら天文学的資料に当たられ、検証してきた方だけに許される権威と説得力に満ちています。

 マーラーという古い友人を通して、わたしは土井さんや前島先生という素晴らしい新しい友人にお逢いすることになったわけです。

 そんな前島先生から、こんなCDが届きました。 

 

 

 先生自ら解説と訳詞をなさっています。
 交響曲や大地の歌、そしてさすらう若人の歌など、大曲ばかりが知られているマーラーですが、ここに比較的小さな歌曲が集められています。
 このCDに納められているリュッケルトの詩による歌曲は、わたしの大好きなものです。
 かつて、もう五十年も前、キャスリーン・フェリア盤でそれこそレコードがすり切れるほど聴きました。
 もっとも好きな曲は、カルク盤の14曲目「わたしはこの世からいなくなった」でしょうか。
 あれだけ精力的に生きたマーラーですが、終生、こうした孤独や疎外感を抱えていたのでしょう。
 そんな孤独が、彼の芸術には結晶化され、それが人を鼓舞してくれるのでしょう。
 悩みも孤独も、すべては意味があり、それが次へのエネルギーとバトンタッチされていきます。



 

 前島先生、素晴らしい贈り物を、ありがとうございました。
 お体に気をつけて、これからもマーラーを掘り下げてください。