ブラームス交響曲第1番 | トナカイの独り言
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ブラームス交響曲第1番

 ここ二ヶ月間ほど、ずいぶんベートーヴェンの交響曲を聴いてきました。すると、なぜかブラームスの交響曲第1番を聴きたくなって、ここ一週間ほどたくさんのCDをプレーヤーに載せることになりました。

 ブラームスの1番が、ベートーヴェンの第10交響曲と呼ばれるゆえんを感じ、自然に辿りついたようなのです。


 所有している1番を数えてみると、ちょうど30種類。たぶんブラームスのピアノ協奏曲1番と並んで、いちばんたくさんCDを持っている曲の一つかもしれません。

 

 この曲を実演で初めて聴いたのは、16才前後で群馬交響楽団のはず。しかし、まったく覚えていません。その理由は、高校時代のわたしがブラームス嫌いだったからでしょう。

 その頃はヘルマン・ヘッセの描くブラームス像を、そのまま自分のイメージとしていました。伝統という重い鎖を引きずって歩くブラームスの姿です。

 

 実演で最初に覚えているのは、上智大学のオーケストラになります。親友がフルートで参加した演奏で、ミスも多かったのですが、とても大きな感動をいただきました。

 

 ブラームスに開眼したのは、25才の時になります。どのようにしてブラームスに目覚めたのか、すでにブログや本に書いてきました。ですから、ここには書きませんが、ブラームスを理解出来るようになったのは、「大きな挫折を経験したから」とだけ記しておきましょう。

 半年に渡る長い入院中、カラヤンの1970年代の録音を何度も聴きました。ですから、いちばん聴いたブラームスのレコードは、カラヤンの1977年盤になります。しかし、もし今お勧めを問われたら、1988年のサントリーホールにおけるライヴの方を挙げたいです。素晴らしくバランスの良い演奏で、ベルリンフィルの素晴らしさも光っています。

 

 聴いてきたなかで印象に残っているレコードについて簡単に書いてみましょう。
 まず、フルトヴェングラーを忘れることはできません。「これしかない」という気持ちで聴き続けた時期があります。
 ブルーノ・ワルターも素晴らしいです。ベートーヴェンのところでも書きましたが、ワルターの演奏を聴くと、自分の心が浄化されるような何かを感じるのです。ワルターという人の人格が、ヴァイブレーションとなって自分の胸を叩き、深い共感を呼び起こすように感じるのです。

 この時代の演奏で忘れてならないものに、トスカニーニもあります。素晴らしい推進力とエネルギー、そして深い歌に満ちた演奏です。ただ、NBC盤もフィルハーモニア盤もどちらもモノラル録音なので、音という点で物足りなさを感じてしまうのが残念でなりません。若い頃は想像力で音を補いながら聴けたのですが、近頃はどうしても現実に良い音を求めてしまいます。フルトヴェングラーの録音には、人工的にステレオ化された盤(ブライトプランク・ステレオ)があり、これらはかなり音の広がりが感じられるものになっています。

 

 ベームも好きな演奏です。全集としてはウィーンフィルを選びますが、こと1番だけなら、わたしは古いベルリンフィル盤を選びます。音も1959年録音とは思えないほど素晴らしいです。

 

 大学時代、親友の指揮者・三澤洋史君に勧められて、クルト・ザンデルリンクもずいぶん聴きました。こちらはゆったりめのテンポで、しっとりとした深さを感じさせるブラームスです。こうした優しさ(英語のGentleness)は、ワルターやカルロ・マリア・ジュリーニに感じられるもので、そんなジュリーニにも素晴らしい演奏が残っています。
 先日、たまたま愛知祝祭管弦楽団のヴァイオリニストである上北さんとお話しして、ブラームスの話になると、彼女はジュリーニのウィーンフィル盤を愛聴されていると教えてくださいました。ジュリーニ盤にはロスフィル盤もありますが、どちらもゆっくりめのテンポで、高らかに歌う演奏です。

 

 こうしたしっとりとしたブラームスに傾倒した時代もありましたが、現在のわたしはもっともっとエネルギーに満ちた演奏に惹かれます。もしトスカニーニがステレオ化されたなら、今のわたしにとって一番となるかもしれません。

 最後に、今のわたしがもっとも惹かれる演奏を二つ挙げさせてください。
 

 まず、ゲオルグ・ショルティ&シカゴです。最初から最後まで緊張が途切れず、力強く推進していく音楽は、重い鎖を断ち切るほどの力強さに満ちています。もうつぶれるギリギリのところで、もう一度バーベルを差し上げるようなエネルギーを感じさせます。 「ショルティのブラームスなど」と言わず、ぜひ聴いていただきたい演奏です。

 

 

 最後に、今のわたしがもっとも感動する録音を挙げておきます。
 それは死の前年、カラヤン最後のイギリス公演となった1988年のロンドンでの記録です。
 先ほど挙げたサントリーホールでの演奏が、彼の日本最後の演奏会となりました。日本は1988年の5月、ロンドンは10月です。

 初めてブラームスを聴くのなら、もしくはブラームス1番の見本となるような演奏を聴きたいのなら、わたしはサントリーホール盤をお勧めします。しかし、途方もない何かを感じたいのなら、圧倒的な何かを感じたいのなら、ぜひロンドン盤を聴いてみてください。
 これはカラヤンらしい調和から外れています。荒れ狂っています。そして、なぜか涙が流れてきます。