『ここに泉あり』 | トナカイの独り言

『ここに泉あり』

 長いあいだ興味を持っていたにもかかわらず観ることのできなかった映画を、ついに鑑賞することができました。
 タイトルは 『ここに泉あり』 。
 群馬交響楽団の前身となる高崎市民オーケストラの創生期を描いた物語で、当時の実話をもとに作られた作品です。

 この映画が封切られたのは1955年(昭和30年)。わたしの生まれた年になります。
 白黒で映像は古く、音響もモノラル。

 

 この映画を観ようと思い立ったのに、二つの出来事が関係しています。

 

 ひとつは先日上田でおこなわれた群響の定期演奏会です。
 ここで演奏された武満徹とブルックナーの7番に、とても感動したのです。ついその数週間前、ウィーンフィルでブルックナーを聴いたばかりだったにもかかわらず、わたしは群響の演奏により心を打たれました。そんな謎のひとつが、この映画から解けるのでは・・・・と思ったからです。

 

 もうひとつは、群響についてわたしが書いた文章に、友人が 「『ここに泉あり』 を忘れられない」 と書いてくれたからです。正確には 「高校生の時に見た 『ここに泉あり』 は、ずっと私の心にあります🎼」 という文章でした。
 この言葉に強く後押しされて、DVDを買ったのです。

 

 

 やはり群響の設立には、凄いドラマがあったのですね。
 映画は昭和22年の出来事から始まっています。ですから終戦2年後のことで、食べるものも、住むところも、着るものも、すべてが足りないたいへんな時代です。そんな時代に、音楽の素晴らしさを人々に伝えようというのですから、今から想像してもそれがどれほどたいへんなことだったか簡単に理解できます。
 劇中でオーケストラのマネージャが、彼の母から 「もう勝手なことは止めて、まっとうな仕事に就いてくれ」 と訴えられる台詞があります。

 音楽に限らず芸術の道を歩む人たち、そしてスポーツなど自分の夢を追いかける人たちが、「これでもか」 というほど聞かされてきた言葉でしょう。わたし自身、いったい何度こうした言葉を聞いたことでしょうか。
 笑い話になりますが、もう90才に近いわたしの母は、65才になろうというわたしに、「スキーじゃ食べていけないから、早く止めなさい」 と、今でも言いますから。
 芸術家の友人のほとんどが、同じ言葉の槍と矢が飛び交うなかを、切り開いて生きてきたのではないでしょうか。
 

 余談になりますが、わたしは今も水泳の大会に出場しています。しかし、わたしには順位や勝利にこだわる気持ちはありません。わたしが続けている理由は、まず 「生涯現役でいたいから」、そして自分の信じる道を歩み続けたなら、「いったいどこに辿り行くのか」 を知りたいからです。
 この映画には、道を歩み続けて辿り着く、ひとつの理想の場が描かれているように感じました。
 未来の見えない現代社会を生きて行くのに通じる 迷い。そこからの脱却方法が描かれているようにも感じました。


 もうこの映画を知る人も少なくなりました。
 だからこそ、ぜひみなさまに観ていただきたい名作です。
 モノラルでも、十分な説得力を持つ音楽も素晴らしいです。


 日本を代表する指揮者・作曲家の山田耕筰氏が本人役で出演されていますし、ピアノストの室井摩耶子さんも素晴らしいチャイコフスキーを聴かせてくれます。
 室井摩耶子さんのチャイコフスキーを聴きながらヒロインの見せる表情は、真剣に道を究めようとする芸術家やスポーツ選手にとって、特別な意味を持って迫ってくるに違いありません。
 ぜひご覧頂きたい作品です。

 自分の歩いている道を肯定されたようで、わたしも少し心が暖かくなりました。
 群響のみなさま、どうかこの歴史と伝統を引き継いで、これからも素晴らしい音楽を奏でてください。