三澤洋史のブラームス・ヴァイオリン協奏曲 | トナカイの独り言
2018年09月17日(月)

三澤洋史のブラームス・ヴァイオリン協奏曲

テーマ:感動

 素晴らしいヴァイオリン協奏曲はたくさんありますが、個人的にいちばん好きな作品はブラームスです。

 わたしがこの曲に惹かれる理由は、そこに大きな葛藤が感じられるから・・・・。そう書いたらおかしいでしょうか。一見、大きな構築物に見えますが、そこに情念と意志の深くて複雑な葛藤をわたしは感じるのです。
 一楽章における渾々と湧き上がる情念。それに流されまいと抵抗する意志や自制の葛藤に、深く共感してしまうのです。

 

 それらの点で、昨日の三澤洋史指揮、牧野葵独奏のブラームス・ヴァイオリン協奏曲は、まさにわたしが望むブラームスでした。そんな名演が親友の指揮によって生み出されたことで、生涯の音楽体験のなかでも、特筆すべき出来事となりました。

 

 

 素晴らしい音楽や歌、そして詩が創造される際、愛や恋愛の感情が原動力としてかかわっていると感じることがあります。愛というものこそ、誕生の秘密だと信じられることがあります。

 わたしにとってこのブラームスは、そんな恋愛感情を感じる曲の一つです。ブラームスの作品のなかで、ピアノ協奏曲第1番と同じくらい強い恋愛感情を感じます。ただし、ピアノコンチェルトが恋の炎の真っ只中から生まれたのに対して、ヴァイオリン協奏曲は、やや時が経ってから生まれ、少しだけ回想という側面があるように感じます。

 

 勝手な解釈を許されるなら、ヨハネス・ブラームスのクララ・シューマンへの複雑に絡み合った恋愛感情。それが、少し時が経って箍が外れないギリギリのところで制御されているのを感じるのです。

 情熱に任せて走りたいヨハネスと、それを押さえなければならない彼。

 アクセルを踏みたいヨハネスと、ブレーキを踏みたい彼。その、ギリギリの攻防を感じさせます。

 三楽章ではクララとヨハネスが 「良い思い出だったね」 と言いながらも、そこにまだ残り火があるのを感じます。だから、この三楽章の演奏はとても難しいのです。過去を振り返って 「良い思い出だった」 と諧謔的に思い出しながらも、まだ炎が燃えている・・・・・・。空騒ぎにならず、楽しそうな音の裏側に、失われた恋への憧れを感じさせる・・・・・・。

 そんな演奏を、わたしは求めていますから。

 

 昨日、そんな葛藤が、見事に描かれました。

 メリハリのある構成感のなかで、思い切り心情を吐露した演奏が聴こえてきました。

 

 たぶん若くて美しい独奏者に、実体験としての深い葛藤や苦悩などないのかもしれません。しかし、その深くて繊細な感受性で、ブラームスの苦悩と葛藤、そして挫折を見事に描いてくれました。驚くほどの集中力を発揮して。

 特に第一楽章のカデンツァ以降は、音楽のミューズに乗り移られたかのような名演でした。ヨアヒムのカデンツァが、これほど真の感情を乗せて流れるのを、わたしは初めて聴きました。音色の変化も、身体全体を使った演奏方法も素晴らしかったです。

 まず、ふつうなら聴くことのできないスローテンポで始まったカデンツァですが、その音に万感の想いを乗せ、ここまで切なく、かつ葛藤に満ちて響いた演奏が、これまであったでしょうか。そして、強烈な想いをせき止めるかのうように弾かれる重音が、なんと苦しく、胸を打って響いたことでしょう。

 音楽の素晴らしいところは、それが苦しかったり、辛かったりする内容を描いても、美しく響き、感動を与えてくれるというところ・・・・。

 

 牧野葵さんが、これから実人生でさまざまな体験を経た後、もう一度彼女のブラームスを聴いてみたいと感じました。

 

 親友の三澤マエストロは本番前夜、こんな裏話をしてくれました。

「最初のオーケストラ合わせの時、彼女の演奏はインテンポで、とても折り目正しかったんだ。だからね、『もっともっと耽美的にやろう』 と言ったんだよ。ブラームスには深い感情が流れている。だから 『思い切り情感を込めて、テンポも動かして』 と言ったんだ。するとね、次の練習から大きく変わっていった。とても魅力的になっていったんだ」

 

 若いということは、それだけ純粋な感受性を持っているということ・・・・。そんな独奏者の感受性を、マエストロの指揮が見事に引き出した演奏でした。

 構成と歌のぎりぎりの狭間に、ブラームスの葛藤と情念が、みごとに描き出された演奏でした。

 

 それにしても、近頃の三澤マエストロの進化は留まることを知りません。

 若い頃なら耽美的な世界に流されがちだった彼が、今やしっかりした構成力を身に付け、そこにメリハリが加わり、指揮する姿はまるでアスリートです。

 

 彼のブラームスを聴きたくて、愛知県刈谷市まで行きましたが、予想を大きく上回るプレゼントをいただきました。
 こうした素晴らしい音楽を実現してくれたモーツァルト200合唱団のみなさま、セントラル愛知交響楽団のみなさま、ほんとうにありがとうございました。

 そして、三澤マエストロと牧野葵さんに、心からの感謝を。。。

 ありがとうございました。

 

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