まだ思い出になりきっていないけれど・・・・・・ | トナカイの独り言
2017年04月26日(水)

まだ思い出になりきっていないけれど・・・・・・

テーマ:スキーの話

 もう十年くらい前になるだろうか?
 初めて彼の名前を覚えたのは。

 

 それは、彼がウォータージャンプの練習をしていた時のことだ。そのストレートジャンプ(棒ジャンプ)の大きさと正確さに驚かされたのである。

 指導していたのは、当時五竜のエフ-スタイル主任を務めていた社コーチである。

「社君、彼は何という子?」

「歩夢と云います。高橋歩夢。もう一人が兄の勇気です」

 

 ウォーターやエアの練習に打ち込んだことのある人なら分かるだろうが、棒状で何もしない 「ストレートジャンプ」 は大事な基礎であると共に、もっとも難しい技の一つである。

 社コーチに従って、彼は黙々と飛んでいた。

 ウォーターの練習を始めたばかりで、バランスを失うジャンプもあったが、タイミングが合った時の美しさと大きさは抜群だった。

 

 エアだけは努力で埋め難い才能が必要になる。

 だからこそ、彼のポテンシャルの高さに感動を覚えた。

 

 二年ほど社コーチの元でモーグルを学び、バトンを受けてわたしが担当するようになった。

 わたしも社コーチと同じようにストレートジャンプを大切にする。
 そんな練習ばかりしていると、早く技をやりたくて単純な踏切練習をつまらなく感じる選手も多い。しかし、歩夢は我慢強くストレートジャンプに取り組んでくれた一人だった。

 

 その頃、同時に指導するチャンスのあった堀島行真君(現世界チャンピオン)とも共通する天性の才能を感じられた。

 また歩夢がエフ-スタイルで練習してくれた時、それはエフ-スタイルに素晴らしい選手の卵たちが集まった時期でもあった。

 堀島姉弟はもとより、上田諒太郎、富高日向子、西田麗夏、伊藤颯太、高橋勇気・・・・・・。

 

 

 スキー以外でよく覚えているのは、彼の寝坊癖である。

 当時エフ-スタイルを運営するクロスプロジェクトグループには、みそら野に事務所兼スタッフ宿舎があり、歩夢はよくそこに泊まっていた。

 朝、用事で事務所に行くと、みんな起きているのに、彼だけ寝ていることが多かった。

 ドアを開け、大きな声で呼ぶ。

「歩夢、起きろ!」

「ふあ~い・・・・・・」

 ドアを閉めたとたん、ふたたび寝てしまうのである。

 数分後にふたたびドアを開け、「起きろって!」

「・・・・・・」

 もう熟睡している。

 

 こうしたことが何度あっただろう。

 しかし、ようやく起きた彼の笑顔を見ると、なぜか許してしまう明るさと気安さがあった。

 

 

 また、わたしが指導したことのあるスキーヤーのなかで、一、二を争うマイペース人間であったことも書いておこう。彼と張れるのは里谷多英くらいだ。しかしそんなマイペースも、彼の笑顔を見たとたん、ちょっと苦笑いしながら許してしまうのである。

 

 中学二年から公認大会に出場し、最初は躓いたもののすぐに頭角を表した。

 もっともっと上を狙えると信じられた。
 やがて、本人も行けるところまで行きたいと言うようになった。

 高校に入り、やがて長野県の強化指定選手に選ばれるまで、わたしに彼を指導するチャンスが与えられた。

 ちょうど東京都のA級大会で2位となった頃までのことだ。

 

 その頃の歩夢はスマホゲームに熱中し、反射神経の鋭さを用いて世界ランク入りを果たしたとも聞いた。

 

 

 2015年の夏、歩夢は転落事故から逝ってしまった。

 成人することもなく・・・・・・。

 運転免許を取って、間もなくのことだった。


 夢に向かって歩むという名を持った少年。

 わたしにとって、歩夢は永遠の少年である。

 いつもマイペースで、朝は弱いけれど笑顔の輝く少年。

 エフ-スタイルで練習してくれた多くの選手のなかでも、天真爛漫さと人柄の良さ、そして笑顔の輝きで忘れられない一人だ。

 

 今年5月5日に開催するK2カップは、彼のメモリアルである。
 ほんとうは昨年を予定していたが、雪不足で開催できず、今年になってしまった。

 でも、ほんとうなら、10年くらい先にやりたい気持ちも強いのだ。
 なぜなら、そのくらい時が流れてくれたなら、彼との記憶が思い出に変わり、大声でこう言えるだろうから。

 「バカやろう!」

 「なんでそんな早く逝ったんだ」 と。

 夢を追いかけてワールドカップを回り、オリンピックにも出て、10年くらい先にようやく引退する頃だろうから。

 

 わたしが直接知り、触れあったスキーヤーとして、森徹君や待井寛君と並んで、いなくなったことが、自分の心の深い傷として感じる選手である。

 


 大会に出られなくとも、歩夢のために、大会会場に一人でも多くの方に来ていただけたら幸いです。

 大会出場が可能なみなさま、ぜひご参加下さい。

 

 

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