40才をすぎたころから、音楽の好みが大きく変わってきました。
昔は大曲が好きで、交響曲や協奏曲ばかり聴いていました。
親しい友人に、よく「大きな音の曲が好きなんだろう!」などとからかわれたものでした。しかし40才を越えたあたりから、マーラーとブラームスを除いて、ほとんど交響曲を聴かなくなりました。その代わり室内楽を多く聴くようになってきました。特にベートーヴェン後期とブラームスの作品が多いです。
近頃は後期ではありませんが、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタに凝っていました。
こうした傾向はピアノ曲も同じで、ベートーヴェンの後期やブラームスばかり聴いていて、なかなか大曲に手が出ませんでした。
そんな中、ここ半年ほど引き込まれている大曲があります。
リストのロ短調ソナタです。
初めて聴いたのは高校二年の時。
定かではありませんが、ルービンシュタインのレコードで、最後まで聴かなかった記憶があります。「何と醜い曲だろう」と感じてしまったのです。
次に聴いたのは大学生の時で、アルゲリッチの演奏でした。テクニックばかりが耳につき、曲自体はまったくいいと感じませんでした。
この曲の初演はリストでなくハンス・フォン・ビューローがおこない、大論争を巻き起こしたそうです。きっと若いときのわたしのように感じた人も多かったのでしょう。
今シーズンがはじまる頃、お客さまのお一人が、「ロ短調が大好き」とおっしゃいました。そして、ホロヴィッツのCDを薦めてくれました。
それをきっかけに、ロ短調を再聴しました。
選んだのはポリーニのCDです。
渾身の演奏というのは、こういうのを指すのでしょう。感動だけでなく、曲にも開眼しました。そして、アラウ、ポゴレリチ、リヒテルと立て続けに聴きました。そして、高二の時に聴いたルービンシュタインや大学の時のアルゲリッチも再聴してみました。
かつて聴いたルービンシュタインやアルゲリッチが、まったく違った曲として心に届きました。
あれほど醜いとか、おぞましく感じた曲が、今は深い感動をもたらしてくれるのです。
先週は近藤嘉宏さんのコンサートまで行ってきました。
人間はほんとうに不思議ですね。
心の元は変わらないのに、経験で、感性や理解力が大きく変わります。
それを成長と呼べるとは限りませんが、それまで理解できなかったものを理解できるようになることは嬉しいです。
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上はわたしが初めて聴いたルービンシュタインです。ロ短調だけでなく、ブゾーニ編のシャコンヌも素晴らしいです。
下は今回、ロ短調に目覚めさせてくれたポリーニのもの。渾身の演奏とはこういうものだと感じさせてくれます。打鍵の一つ一つが、心に食い入ってきます。
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ホロヴィッツの演奏によく使われる表現に「天使と悪魔」というものがあります。
ロ短調はまさにその極地。ショパンのスケルツォ1番に聴かれるようなダイナミズムと大きな情熱のうねりが聴かれます。
たくさんの名ピアニストが、ロ短調ソナタの録音を残しています。
そして、この曲はとても個性を発揮しやすいようで、演奏家の特性が如実に表れます。ですから、この曲を好きになると、たくさんのピアニストの本性を知ったような気になれることも事実。
ひさびさにのめり込んだ大曲です。

