ここまでホームズの本を紹介してきましたが、お気づきでしょうか?同じホームズシリーズの本の画像が皆違う出版社のものになっています。
 近年、ドイルの著作権が切れ、翻訳、出版がしやすくなったため、いろいろな出版社からホームズの本が出るようになりました。ホームズファンとしてはうれしいことで、翻訳者による文章の違いなども楽しめます。
 しかし、コナン・ドイルのホームズ物は長編4編、短編56篇のみ。もっともっとホームズの活躍を楽しみたいと思いませんか?
 実はホームズの物語は非常にたくさんあるのです。ドイル以外の作者が書いた、パロディやパスティシュ(贋作)がそれこそ数知れないほど出版されています。
 名探偵の代名詞であるホームズはドイルの存命中からすでに舞台劇になったり、贋作が書かれたりしていました。それから現在に至るもホームズの名を冠した本が次々と書かれているのです。
 それらとドイルの書いた本来のホームズ物を区別するためにドイルの作品は「聖典」と呼ばれています。
 元来パロディやパスティシュは元ネタとして「聖典」を読んでいる、ということが前提として楽しめるものですが、あまりにホームズの名がポピュラーになってしまって、ドイルの「聖典」の存在を知らない人もいる、ということは先にも書きました。
 ですから、これから私がお勧めするホームズのパスティシュものを読まれる方はぜひ、「聖典」を先にお読みください。そうすれば、これら「新しい」ホームズ物をもっと楽しめると思います。

シャーロック・ホームズの冒険―新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)/アーサー・コナン・ドイル

¥905
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 さて、シャーロック・ホームズ」の短編集は4冊あります。
 「シャーロック・ホームズの冒険」「シャーロック・ホームズの思い出」「シャーロック・ホームズの帰還」「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」(題名は訳者によって違う場合があります。また、新潮社文庫には「シャーロック・ホームズの事件簿」がありますが、これは新潮社の都合で他の短編集から削った作品を集めたもので、本来のものではありません。)

 その一つ、「シャーロック・ホームズの思い出」には競馬を扱った「白銀号事件」や宝探しものの「マスグレーブ家の儀式」など人気の作品がありますが、なんと最後の作品が「最後の事件」となっています。
 次の本もあるのになぜ「最後の事件」なのか。それは作者コナン・ドイルがホームズのシリーズを書くのを辞めようとして、ホームズをこの作品で葬ってしまったからです。
 まだ読んでいない方にはねたばれになりますので、くわしくは書けませんが、ホームズはスイス マイリンゲンにある、ライヘンバッハの滝に姿を消します。
 

 ライヘンバッハ滝

 (9月に撮った写真なんですが、ホームズが行ったときは雪解けの頃でもっとすごい水量です)


 しかし、この作品がホームズ物が連載されていた「ストランドマガジン」に載ると読者たちから喧々囂々の非難が上がりました。ホームズはもう、ドイルの作品の主人公だけではなく、大衆のヒーローになっていたんですね。
 仕方なく、ドイルはホームズを復活させることにしました。
 それが次の短編集「シャーロック・ホームズの帰還」の冒頭にある、「空家の冒険」です。
 ホームズはある理由で三年間外国で仕事をしていたことになっています。シャーロッキアンが「大空白時代」と呼ぶ期間です。
 この作品でワトスンと再びコンビを組んでホームズは数々の難事件に挑んでいきます。
暗号解読で有名な「踊る人形」。ナポレオンの胸像ばかり壊されるという奇妙な事件「6つのナポレオン像」など心躍る冒険が続きます。
 作者の意志をも上回ったホームズの人気はそのころからすごかったんですね。
シャーロック・ホームズの思い出 (河出文庫)/河出書房新社

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 シャーロック・ホームズ物の長編は先にも言いましたが、4編です。
 「緋色の研究」「四人の署名」「バスカヴィル家の犬」「恐怖の谷」この中で一番人気があるのは「バスカヴィル家の犬」でしょう。
 物語の舞台はダートムア。荒涼とした「荒地」に花崗岩の岩山や沼地が点在するさびしい土地に建つ旧家バスカヴィル館。そこに伝わる恐ろしい魔犬の伝説。
 呪われたバスカヴィル家の当主チャールズ卿が変死し、その傍には巨大な犬の足跡が…。
 魔の手は後継者の若いヘンリー卿にも及びます。
 荒地に響く不気味な声、岩山に立つ黒い人影、暗闇に揺れる怪しい灯。シャーロック・ホームズとワトスン先生は事件の謎を解き、若い当主を守れるのでしょうか?

 この物語の魅力はなんといっても、事件の背景であるダートムアの厳しくも美しい風景にあると思います。そこでこそ、呪われた魔犬の伝説もリアルに感じられるのでしょう。
 そして、ヘンリー卿と隣人の美女ベリルとのほのかなロマンスもあり、最後は息もつかせぬクライマックスへと続きます。
 これまで数多くの映像作品になったのもうなずける作品です。
 
 バスカヴィル家の犬 (創元推理文庫)/アーサー・コナン・ドイル

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 シャーロック・ホームズの物語は長編4作を含み、全部で60篇あります。
 私がホームズの物語をこれから読もう、と思われる方にお勧めするのは、「シャーロック・ホームズの冒険」です。それは短編集であり、読みやすいのとホームズ物の代表格ともいえる短編小説が含まれているからです。
 「赤毛組合」「青い紅玉」「まだらの紐」などが、ホームズ物の人気ランキングで上位に入る短編です。
 いずれも世界最初の顧問探偵ホームズが医師のワトスン先生といっしょに大英帝国の栄光華やかなりしヴィクトリア朝時代のロンドンを舞台に活躍します。
今から百数十年前、電報はあれど、まだ電話はありません。街にはガス灯が灯り、いろいろな形の馬車が行きかいます。ホームズとワトスンが事件を追って飛び乗るのは蒸気機関車です。
 彼の解決する事件は殺人など血なまぐさいものは少なく、今の推理小説と比べると刺激は少ないかもしれません。しかし、ホームズの推理は論理的、かつ科学的で少しも古臭くはありません。それがホームズの物語の魅力です。
「冒険」の12編の物語を読めば、ホームズのとりこになるでしょう。そして、あなたはシャーロッキアンへの道の第一歩を踏み出す…かもしれません。
 

 シャーロック・ホームズの冒険 (角川文庫)/コナン・ドイル

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コナン・ドイル「緋色の研究」

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 さて、いよいよシャーロック・ホームズの話をしましょう。
 最近、映画やテレビドラマになったり、NHKの人形劇にもなってホームズの名前がよく出るようになってきました。
 名探偵の代名詞ともなっているホームズがコナン・ドイルが書いた小説の主人公であることはみなさんよく御存じだと思います。
 しかし、100年以上前に生まれた架空の探偵が未だに人気を保っていることは驚くべきことだと思います。
 彼が住んでいたとされるロンドンのベイカー街にはホームズの博物館ができてホームズのファンが多く訪れています。
 余談ですが、ベイカー街221Bがホームズの下宿の住所となっています。しかし、ベイカー街には221番地は無いそうです。以前はアベイナショナルという会社の建物が221番地とされていて、世界中のホームズファンから送られてくる手紙を処理する「ホームズの秘書」という人がいました。(実はわたくしめも前に手紙を送って返事をもらいました(^_^;))
 でも、今はその会社は移転してしまって、ベイカー街のそれらしい家を無理やり221Bとして博物館にしています。
 熱心なファンはシャーロッキアンと呼ばれます。アメリカのベイカーストリートイレギュラーズやロンドンホームズ協会、日本シャーロックホームズクラブなど世界中にシャーロッキアンの集まりがあります。
 そんなホームズのことを私ごときが今更何を紹介しましょうか。でも、中には映画やテレビしか知らず、「ホームズって小説なんですか?」という方もいます。(実際、わたしはそう聞かれました)
 で、おこがましくもここでコナン・ドイルの書いたホームズの話をしたいと思います。

 ドイルが最初のホームズ物を書いたのは眼科の医師として開業したものの、さっぱり患者が来ないため、暇を持て余したためだ、と言われています。
 「緋色の研究」は1887年「ビートンのクリスマス年鑑」という雑誌に掲載されました。
 ロンドンで起きた事件とアメリカでの因縁話との二部になっていて、ミステリとしての評価はどうかと言われる作品ですが、なんといっても冒頭にホームズと相棒の医師ワトスンとの出会いが描かれているのが魅力です。
 セントバーソロミュー病院(ロンドンに実在します)の研究室でホームズがワトスンにあいさつ代わりに言った言葉「アフガニスタンに行かれましたね。」ここから世界一有名な探偵とその相棒の冒険が始まります。

緋色の研究 (新潮文庫)/コナン ドイル

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 イギリスの作家M・R・ジェイムズの小説は本当に冬の夜長の怪談話、というのにふさわしいと思います。
 彼の書くのは古い家に伝わる因縁話や古い書物に書かれた記録などにまつわる怪奇な話です。いかにもイギリスの伝統的な幽霊話と言えるでしょう。今の派手な展開が続くホラー小説に慣れた方なら物足りなく思われるかもしれません。
 しかし、血も流れず、えげつない怪物もほとんど表には現れない幽霊譚が心地よいのです。おお、この展開だと絶対なんか出るぞ、と思っていると期待どおりに出てきたりして、まさに王道をゆく怪奇小説と言えます。
 イギリスの田舎にある古い荘園屋敷で暗い一夜を過ごす雰囲気が味わえます。

 おすすめは「笛吹かば現れん」「人を呪わば」「十三号室」などです。
 

 M・R・ジェイムズ怪談全集〈1〉 (創元推理文庫)/M・R・ ジェイムズ

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 ラヴクラフトはアメリカの作家です。それまでの伝説や心霊的な怪談話とはまったく異なった「宇宙的な恐怖」をうたった怪奇小説を書き、彼の仲間の作家たちとともに独自の神話を作り上げました。
 それらは彼の創作による邪神の名前をとって「クトゥルー神話」と呼ばれています。
 人類が生まれるはるか前、この地球がまだ出来上がって間もなくのころ、宇宙から来た邪神達によって地球は支配されていた。時がたち、封印されていたはずのいにしえの怪物的な神々が今よみがえってくる。というSF的な恐怖を描いています。
 ラヴクラフトはニューイングランドに架空の都市、アーカムやその近くの呪われた港町インスマスを創造しました。
 ラヴクラフトの作品を読んで気が付くのは魔女裁判の歴史もあるニューイングランドの古い町や海への恐怖感です。
 彼の作品には何度も「古錆びて傾きかけた切妻屋根の家」や「迷路のような通路」のある古い街が出てきます。古いと言ってもアメリカに白人が入植してせいぜい400年ほどなので、われわれ日本人には何ゆうとんねん、という感じですが、ラヴクラフトはそういう街々のなかに怪異が潜んでいるとしています。
 また、海にはかなりの嫌悪感を抱いているようで、海の深淵にひそむおぞましいものたちのことを頻繁に書いています。
 彼の創作から始まったこの神話は他の作家たちによって書き継がれ、発展し、怪奇小説の一派をなしています。日本の作家にもこの神話をもとに作品を書いてる人が何人もいます。
 クトゥルー神話に関する書籍「ネクロノミコン」はラヴクラフトの架空の奇書にもかかわらず、まるで実在するように扱われています。

 ラヴクラフトの代表作は「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」「ダンウィッチの怪」などです。人知を超えた恐ろしい存在…。本当にいるのでしょうか。

ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))/東京創元社

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「ロアルド・ダールの幽霊物語」

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 イギリスの作家で脚本家でもあるダールが、あるテレビシリーズのために、なんと748編もの怪奇な物語から選りすぐった短編集です。
 さすがにどれをってもドラマにすれば見る人の心を凍りつかせるような作品になったと思われます。残念ながらテレビの企画は実現しなかったそうですが、選ばれた中の14編が短編集となりました。
 どの物語も「幽霊」を扱っています。なんもへんてつもない日常のあるときにいきなり、足元に黒々と開く陥穽のようなこわさです。
 しかし、「チャーリーとチョコレート工場」や「おばけ桃の冒険」のような児童書の作家でもある、ダールが選んだ作品です。ただこわい、というだけでなくどこか優しさを感じる物語もあり、後味の悪いものはありません。安心して夜寝る前に読んでいただけます。
 私のお気に入りはティンバリー作「ハリー」アスキス作「街角の店」ウォートン「あとにならないと」などです。
 さて、お茶でも入れて怖い話を楽しみますか。


 
 
ロアルド・ダールの幽霊物語 (ハヤカワ・ミステリ文庫)/著者不明

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小泉八雲「怪談奇談」

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 小泉八雲ことラフカディオ・ハーンはイギリスからきた「異国人」ではありますが、日本の古い物語に興味を持ち、雰囲気のある文章で書き遺しています。有名な「耳なし芳一」や「貉」「雪女」などご存知の方も多いでしょう。
 どれも彼が聞き取った、日本人の心の奥深くにある、恐れや哀れといようなものに根ざした物語です。
 ハーンにとってはただ、エキゾチックな外国の物語ではなく、日本人の心の不思議というものを感じさせるものだったのでしょうか。どれもほのぐらい美しさを感じる物語です。

 私が好きなものは平家物語を語るのが得意な琵琶法師が霊に魅入られる「耳なし芳一」などやはり幽霊の話です。
 いずれも短い話ばかりです。読んで人に話してもこわがってもらえます。

怪談・奇談 (角川文庫クラシックス)/角川書店

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上田秋成「雨月物語」

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 わが日本の怪談話としては最も有名な本です。ご存じの方も多いでしょう。
 9編のいわゆる幽霊譚が書かれています。

 侍同志の信義の物語「菊花の約」は兄弟の契りを結んだ武士が菊の節句に会うという約束を守るために遠隔の地で自害して魂魄となって戻ってくるという話。
 また、「吉備津の窯」では吉備津神社の窯占いで不吉という神託にそむいて結婚した男女。しかし夫は妻を裏切り愛人と暮らします。すると妻は生霊となって愛人を呪い殺してしまいます。おびえた夫は陰陽師に助けを求めるがそれもかなわず、死して怨霊となった妻に殺されるという凄惨な話です。
 9編いずれも人間の怨念のすさまじさを趣のある文で書いています。江戸時代の本ですので、現代語訳がいくつも出ています。
 夜がいまよりはるかに黒々としていた時代の怪談話はやっぱりこわいです。


 現代語訳 雨月物語・春雨物語 (河出文庫)/上田 秋成

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