英国の女流作家ジューン・トムスンの「正統派」贋作集です。
 シャーロック・ホームズのパスティーシュには多くが「この作品はワトスン医師の未発表の作品で、こうこう、こういう由来の本物である。」というまえがきが付いているものが多いです。
  もちろん、それは作者の創作です。でも、いかにその作品を「それらしく」見せるか、という作者の思惑が見えてシャーロック・ホームズ好きには楽しいものです。
 そういう由来の文ではほとんどがホームズ物を記録したのはワトスン先生で、本来の原作者である、コナン・ドイルは無視されるか、良くて「出版代理人」扱いにされます。これもホームズが現実の人間であるかのように扱うシャーロッキアンの常です。
 この短編集にもちゃんとまえがきに、ワトスン先生の原稿が発見されたいきさつが、もっともらしく書かれています。おまけにこれもワトスン先生が記録した「語られざる事件」に基づいた作品ということで、ホームズを愛する者にはたまらない短編集です。
 内容もごく「真面目に」聖典の雰囲気を守っていて、まるで本当に新しいホームズ譚を読んでいる気分になれます。

 トムスンは他に続編として、「シャーロック・ホームズのクロニクル」「ホームズのドキュメント」という短編集も書いています。
 また、「ホームズとワトスン 友情の研究」という二人の生涯を描いた「ノンフィクション(!)」も書いています。

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