犀のサイコロー

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西園寺さいこは土曜の午前中は寝て過ごした。夢は三つの物語を見た。覚えているのは、歪な野球場で試合をしてライト線にヒットをはなったが、ファールという、審判に抗議に行くと、「よく見なさいよ、ライトのラインは間違えて外側に引いたんだ、だから今のはファール」それなら、どれを信じて打てばいいんだと思ったが、退場になってはいけないので黙った。3-1で負けた。
そこで、扉を砲丸投げの砲丸で叩くようなノックがあった。重い身体を立たせて扉まで行くとそこには、灰色の巨大な犀がいた。
「何のようですか?」
「まことに申し訳ございませんが、さいかさんはいらっ、いらっしゃいますでしょうか?」犀の舌は長すぎるのか短いのかわからないが、話し辛そうだった。
「さいか、妻は出かけていますが」
「どちらへお出かけかわかりませんでしょうか?」犀の言葉は帝国ホテルのドアマンレベルの丁寧さである。
「今日は銀座の新しいショッピングモールへウィンドウショッピングだと思いますが」
「わかりました。どうもありがとうございます」犀はお辞儀をした。
「すいません。どちらのーーーー犀さんで?」
「サイコローといいます。もしさいかさんが帰られたら、よろしくお伝えください」
サイコローは右足でドアを閉めようとして、止めて、「さいかさんは携帯をお持ちですか?」
「持ってはいますが、初めてのあなたにお教えするのもーーーー」
「初めてではありませんーーしかし、わたしの右手、右足ですが、携帯のキーを押せないですね。携帯を潰してしまうでしょうね。いや、昔は角を柔らかいハンカチで拭いてもらったものです。失礼します」
サイコローーーーー彼はそう言ったーーーーは最初から最後まで丁寧だった。
角をハンカチで拭くーーわたしのペニスを拭いたことがあったかな⁈さいこはどうしても思い出せなかった。
夜、さいかが帰ってきた。サイコローの話しをすると頰を赧らめ、「サイコローさんがきたの?」と言う。サイコローさん?犀だよ。
その夜、わたしは犀に踏み潰される夢を見た。
翌朝私が起きた時、さいかはすでにでかけていた。私は嫌な予感がしたが、なーに相手は犀だと自分をなだめた。
翌日も、その翌日も、一週間後もさいかは帰ってこなかった。

しばらくしてテレビのニュースに私は驚いた。
ーー旭川動物園で、犀が女性の飼育員にとても従順で、観客の話題になっているーーというニュースだった。そこには、犀、いやサイコローの上に傘をさすさいかとサイコローが映っていた。サイコローはあたかもさいかに話しかけるように首を上へ向けていた。
そこで私は思い出した。さいかが、「あなたより以前に好きになった人がいる、その人はあなたより強くて、あなたより優しくて、でも結ばれるわけにはいかなかったの」
あれがサイコローか。
テレビの画面を観ていて、これはもう戻せないとさいこは覚悟した。何しろ私は角を拭いてもらったことなんかないんだから。さいこはようやく事態をのみこめた。犀にさいかを奪われたんだ。
相手が人間なら、私が交渉に行ってもまわりも正常なことだと受けとめるだろう。しかし犀では、誰も正気だと思わないだろう。
テレビで、サイコローがブルブルーブーとないた。続けて、アナウンサーが「これは犀が愛情を表現する言葉です」と説明する。それにさいかが同じようにブルブルーブーブーと答えた。
布団のなかでさいこはブルブルーブーとないた。どこからも返事はなかった。
さいこは真っ白いサイコロが2個転がり、何にも幾らもかけていない自分に気づいた。




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