チキンかなしや

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チキンかなしや、かなしやチキン。チキンを食べる時、思い浮かぶ歌である。鳥たちの生活?する小屋、その生涯を考えると、この歌が似合う。産まれて、食べられるために太らされ、ある日首を捻られ、羽根を毟られ、熱湯をくぐり、包丁を受ける。
酷すぎやしないか!と思いつつ、ケンタッキーフライドチキンを食べる。
今日、丁度チキンを食べているところでインターフォンがなった。見てみると、人間ほどの大きい鶏とカーネルサンダースさんが立っている。二人の視線はカメラに真っ直ぐ向かっていて、すでに見られている気がした。
「どちらさまですか?」
「カーネルサンダースとキングオブチキンです。お話ししたいことがありまして」
「どういった御用でしょう」
「顔を合わせてチキンと、イヤきちんとお話しする必要があるけっこ」大きい鶏が返事をした。勢いに負けて、ドアを開けた。
「今日はチキンと、イヤきちんとお話ししなければならないと思って、参りましってこっこ」
「どうしてもその必要があると判断したものですから」
二人、イヤひとりと一羽はドアから同時に入ろうとして入口に肉団子のように詰まってしまった。つくねのように、というべきかも。
「あなたは昨日フライドチキンを食べて、皮を残しこけーこっこ」
そういえば昨日、西日暮里のケンタッキーフライドチキンに行った。しかし皮を残したかどうかは覚えていない。
「わたしの仲間は命をかけてあなたの前に出て行ったのに、皮を、皮を残しっこ、こっここんなこと許されないっこ」
キングオブチキンはきちんとわたしのテーブルの写真を見せた。鳥のデコレーションのiPhoneで。指が無く、爪なので扱いは面倒そうだった。
証拠を出されては否定しても問題が長引くだけだ、今日は急ぎの仕事がひとつあるのだから、早く終わらしてしまわないと。わたしは、ごめんなさい、次からは皮もチキンと食べますと頭を下げた。
「きちんと、きちんと、きちんと、こっこ」
キングオブチキンが少し落ち着いたと思ったら、カーネルサンダースが顔を赤らめ話し始めた。顔が赤いのは、キングオブチキンに全身を扉の枠に押しつけられているからだろう。
「わたしが抱えているのは別の問題です」
コホンと咳をした。
「あなたは村上春樹が描いたわたしについて、好印象を持っていないとお見受けします」カーネルサンダースーー????あっ、『海辺のカフカ』だ。
「別に悪い印象は持っていませんよ。わたしにとってあなたは、チキンを食べるには絶対的に必要な方ですから」
キングオブチキンがわたしとカーネルサンダースを見比べた。
「あなたがチキンの首を捻り、羽根を毟り、刻んで油に入れ、11種類の香辛料にまぶさないと、わたしはチキンを食べれないのですから、感謝しています」
キングオブチキンが嘴でカーネルサンダースの首を摘んで外に引っ張った。
玄関前で、ひとりと一羽は人間の言葉でなく鶏語でしばらく言い争っていた。カーネルサンダースは鶏語が得意そうで、全く引けを取らなかった。
こっけ、ココ、かこっこ、ケッコ、けけこっこーーひらがながカーネルサンダース、カタカナがキングオブチキンで、やはり発音には少し違いがあった。
しばらくするとキングオブチキンが、「今日はこっけ、迷惑をおカッケしましココこっこ」と言い、お辞儀をした。
「これからもよろしくこっこ」
「これからもごひいきによろしくお願いします」
カーネルサンダースはキングオブチキンに首を嘴で挟まれたままお辞儀をし、ひとりと一羽のドアを閉めた。
お腹が空いたわたしは、昨日食べきれずに持ち帰ったチキンを電子レンジに入れた。
なにしろ仕事があるのだから。
あたためたチキンは、キングオブチキンのほお肉のような感じがして、ためらわれたが一気に食べた。チキンかなしや、かなしやチキンと歌いながら。


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