これまでの旅路で、【1:魔術師(The Magician)】の始まりから【7:戦車(The Chariot)】の達成まで、
フールは様々な経験を通じて成長してきました。

そして今、彼の目の前に現れたのは、内なる力と向き合う【8:力(Strength)】の試練。

恐れを抱くフールの前に、百獣の王と一人の女性が姿を現します。

これは、彼の心に潜む“怒りや欲望”といった荒ぶるエネルギーを、“愛と優しさ”で調和させる物語の始まりです。

 

 

 

 

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フールが静かな森を抜けると、目の前に広がったのは柔らかな草原。
そこで白いドレスに花飾りの帯、花の髪飾りをつけたひとりの女性が、大きな獅子と向き合っている。

 

百獣の王である獅子。

圧倒的な力を持つはずのその姿は、人の心に潜む“怒りや欲望、衝動”そのものに見えた。

 

「危ない!近づいちゃだめだ!」フールは思わず叫んだ。

 

けれど、女性は一歩も引かず、穏やかな微笑みを浮かべ、優しさで包み込もうとしている。
そして、優しくそのたてがみを撫で始めたのだ。

 

すると驚くことに、獅子の荒々しい息づかいが落ち着き、光る眼差しに静けさが宿ってきた。
まるで彼女の心の静けさが、そのまま獅子に伝わったかのようだ。

 

フールは息をのむ。
『どうして、あんな恐ろしい獅子が、こんなにも穏やかになるんだろう?』

 

その様子に見とれていたフールに、女性がふと目を向けて尋ねた。
「あなたは、なぜこの獅子が暴れていたと思いますか?」

 

不意の問いに、フールは少し考え込みながら答えた。
「……自分を大きく見せたいから? 威厳を示したいから?」
 

女性はやさしく首を振った。
「そう感じるかもしれないわね。でも違うの。この獅子はただ――“理解してほしい”のよ。」

 

フールは目を瞬かせる。

 

女性は続けた。
「人の心にも怒りや欲望、衝動があるでしょう?
それを無理に押さえつけようとすれば、かえって反発して暴れてしまう。
大切なのは、それらをどう受け入れるか。
理性と愛情をもって根気強く向き合うことこそが、本当の“強さ”なの」

 

その言葉に耳を傾けていると、彼女の頭上にふわりと光が揺らぎ、無限大の印が浮かび上がる。
フールの胸に雷のような気づきが走った。

 

――“強さ”とは支配でも圧力でもなく、愛と忍耐、そして優しさなのだ。

 

女性は姿を消し、残されたフールは一人で獅子と向き合うことになった。

 

恐れで足がすくみ、何度も後ずさりしそうになりながらも、震える手を伸ばし続けた。
 『僕は君を理解したい』
――その想いを込めて心の中で語りかけると、獅子の瞳にやさしさが戻り、温かなぬくもりが伝わってくる。

 

フールは気づいた。

 

恐怖の奥にあったのは、獅子の孤独。
そしてその孤独に寄り添ったとき、彼自身の中にも“しなやかな強さ”が芽生えていたのだ。

 

やがて朝日が昇り、草原が金色に照らされる。


胸の奥で新しい力が静かに脈打つのを感じながら、フールは決意した。

 

『外に答えを探すのではなく、内にある真実の力を信じて進もう』

 

青い山が遠くに見える。
そこに新たな道が待っている。
フールの旅は、まだ続いていく――。

 

 

《タロットカード
【8:力(Strength)】
とはどんなカード?》

タロット【8:力(Strength)】のカード写真」

祝福の黄色に包まれた緑豊かな自然の真ん中に、一人の女性と大きなオレンジ色の獅子。
女性は純白のドレスを身に纏い、カラフルな花の帯紐、花の冠を付け、穏やかな表情で大きな獅子を撫でています。
獰猛であるはずの獅子も、穏やかな表情で女性を見つめています。
緑の大地の遠く向こうには水色の山が目に入ってきます。

 

このカードは日本語では【力】と訳されていますが、私たちがイメージする“力”=“power”とは違い、とても穏やかな時間が流れているように感じます。

 

《【8:力(Strength)】はなぜ「力」と訳された?》

日本語でこのカードが【力】と訳されていることに、少し違和感を持った方もいるかもしれません。
私たちがイメージする「力(power)」とは少し違うように感じますよね。
実は、これにはタロットの歴史的な背景が関係しているんです。

 

◆翻訳の歴史

タロットが日本に伝わったのは、20世紀前半〜中頃。
今ほど「力(Power)」と「強さ(Strength)」のニュアンスが明確に区別されていなかった時代でした。

 

さらに、この時代は日本が国際的な地位を確立しようと国力を高めていた時期でもあり、“強さ”という概念が“物理的な力”や“権力”と結びつきやすかったという社会的な背景も影響しているのかもしれません。

 

現在では

  • 力(Power)=外的に働きかける力・物理的支配
  • 強さ(Strength)=内側に備わる精神的な強さ・忍耐や勇気

ですよね。

 

 

◆絵柄からの解釈

また、伝統的なタロットの絵柄では、女性がライオンを“手なずけている”ように見えます。
この姿が、当時の訳者には“力ずくで押さえつけている”と捉えられ、
物理的な強さを意味する“力”という言葉が選ばれたのではないかと言われています。


現代では“内面の強さ”として解釈されることが多いですが、当時の訳がそのまま定着した、という背景があるのです。

 

《タロットカード
【8:力(Strength)】
を包む“色”と“叡智”の象徴》

 

タロットに描かれる色は、単なる装飾ではなく、それぞれが役割を持ち、メッセージを語りかけています。
【8:力(Strength)】のカードでは、特に“しなやかな強さ”と“内なる力”が色彩によって強調されています。

 

🔸テーマカラー

●黄金色:

背景を包む黄金の光は「祝福・完成・生命力」を象徴。外側の世界がどれだけ揺らいでも、「あなたの内にすでに光がある」ことを思い出させます。

 

●白:

女性のドレスは「純粋さ・誠実さ」。無垢であることは弱さではなく、何にも染まらないしなやかな強さを意味します。

 

●オレンジ:

獅子の毛並みのオレンジは「情熱・衝動・生命エネルギー」。暴れるエネルギーも、理解と愛情を注げば前に進む力に変わります。

 

●緑:

大地の緑は「癒し・調和・成長」。強さとは、地に足をつけ、自分と他者の両方を“育てる”力であることを示しています。

 

●水色:

遠くに見える山の水色は「未来・理想・心の静けさ」。高みを目指すときに必要なのは、急ぐ力ではなく、長く歩み続ける冷静さです。

 

🔸カードに登場するアイテムとその意味

●白いドレスの女性

理性・愛情・忍耐を象徴。力で抑えるのではなく、“寄り添うことで強さを引き出す”存在です。

 

●花の帯紐と花の冠

自然の循環と柔らかなエネルギーの象徴。力みではなく、自然体であることが本当の強さにつながります。

 

●オレンジ色の獅子

獅子は“荒ぶる本能・衝動・欲望”の象徴。
百獣の王である獅子を前にした女性の姿は、“暴力ではなく愛と忍耐で力を調える”というメッセージを伝えています。
もっとも強い存在を、もっとも柔らかな方法で鎮める――そこに真の“強さ”が描かれているのです。

 

●無限大マーク

女性の頭上に浮かぶ記号。「内なる強さは尽きることがない」ことを伝えています。
力は外から奪うのではなく、内側から湧き続けるもの。
魔術師と共通の記号で、大アルカナの1番と8番が同類であることを示します。

 

●遠くに見える水色の山

未来への目標や人生の高み。
一足飛びでは辿り着けないけれど、内なる強さを糧に一歩ずつ向かう先です。

 

【8:力(Strength)】に描かれる色とモチーフは、“優しさで本能を調える”=“しなやかな強さ”を示しています。
力でねじ伏せるより、理解して調和させる方が、何倍もの強いエネルギーを未来へ導くのです。

 

《タロットカード
【8:力(Strength)】
正位置の解釈》

【8:力(Strength)】が正位置で現れたとき、それは“押し切る力”ではなく“調えて通す強さ”が働くサイン。
怒り・不安・衝動といった内なる獅子に、理性と愛情で寄り添えば、状況はあなたに従いはじめます。

 

キーワード: しなやかな強さ/自己統御/優しさ/忍耐/信頼

 

  • 困難=“ねじ伏せる対象”ではなく“対話する相手”。落ち着いて向き合えば道は開く。
  • 周囲の人も、あなたの誠実さと穏やかなリーダーシップに安心し、協力が集まる。
  • 長期戦に強い時。コツコツを続けるほど成果は安定して積み上がる。

🌿 日常生活へのアドバイス

  • 反射的に動く前に、深呼吸3回。言葉も行動も“やわらかく、はっきり”を意識。
  • 自分の感情にラベルを貼る(例:「私は今、不安を感じている」)。気づけば半分ほど鎮まる。
  • 今日の「小さな約束」をひとつだけ守る。小さな勝利が自己信頼の筋力になる。
 

《タロットカード
【8:力(Strength)】
逆位置の解釈》

【8:力(Strength)】が逆位置で現れたとき、それは“感情の暴走や過度な抑圧”、“自己批判”に注意のサイン。
“強くあらねば”と力むほど、内なる獅子は荒れたり、逆にしぼんだりします。

 

キーワード: 焦り/自己否定/過剰コントロール/消耗/不安定

  • すぐ結果を求めて自分や他人を締め付けすぎているかもしれません。
  • “勝ち負け”へのこだわりが、人間関係に摩擦を生んでいる可能性があります。
  • 抑え込み=美徳ではありません。見ないふりより安全に吐き出す工夫をしましょう。

🌿 日常生活へのアドバイス

  • やめるリストを1つ作りましょう(無駄な我慢/過剰な責任/自分いじめ的セルフトーク)。
  • 感情の出口を用意しましょう(歩く・書く・温かい飲み物・ストレッチ)。まずは5分から。
  • 「助けて」を言う勇気を。頼る=弱さではなく、調整力です。
 

《まとめ》

  • 真の強さ=優しさ × 忍耐 × 自己信頼。
  • 獅子(衝動や不安)は敵ではなく伴走者。受け入れて調えるほど、エネルギーは前進力に変わります。
  • 今日できる小さな約束を守る。それが“しなやかな強さ”を育てる最短ルートです。

「なりたい自分」を自由に思い描くことで、あなたはまだ知らない自分の可能性に気づくかもしれません。
そして、その気づきは、あなたの人生を大きく変える力となるでしょう。
さあ、今日から少しずつ、内なる声に耳を傾け、愛と忍耐をもって、あなた自身の可能性を解き放つ旅を始めましょう。

 

《次回予告》

次にフールが出会うのは【9:隠者(The Hermit)】。
外の喧騒から一歩離れ、内なる灯に耳を澄ます章へ。
静けさの中で見つかる“本当の答え”
――その小さな光が、次の道標になります。
お楽しみに。