1~2 年前、台風何号だったか覚えていないが、我が家は「避難勧告」を経験した。

降り続く雨で近くの川の水位が増し、氾濫に備えての勧告だった。新潟県糸魚川市は、日本海に面しているので冬の雪はたしかに多いものの、それ以外の自然災害は頻繁ではなく、家族全員生まれて初めての経験だった。


「大丈夫だよ」
「そうそう、そんな簡単に氾濫なんてしない、しない」お互いに自分と家族に言い聞かせるように独り言を呟き始める。


わが家から50mも離れていない 2 級河川は、母校の校歌に「みなもと遠き早川の絶えぬ流れの清きごと・・」と相馬御風(*)が歌ったほど、四季を彩る大自然の中を優雅に流れ、地域の人々に恵みと安らぎを与え続けている。

何度勧告を聞いても、国土交通省の「川のリアルタイム映像」を見ても、その川が狂いだしているとはどうしても信じられないのだ。


バケツなんて比べ物にならないくらい、ナイアガラの滝の下にいるのではないかと思うほど雨はその強さを増している。


「私は逃げないよ!」
「あたりまえだろ、置いていけないよな」
「そうだよ!」
誰からともなく始めた家族会議は、私、主人、息子の一言ずつで終了。


「人間だけが助かろうなんて都合が良すぎるよな」
「そうだよ、この命置き去りになんてできない、どうする!」
「わが家は垂直避難!流されるときは、みんな一緒!」
誰も反対しなかった。

2 階のおとうさんの部屋には犬、息子の部屋には猫を連れて上がることが決まった。

わが家には、人の数の7倍の保護動物が一緒に暮らしている。

命の危険が目の前に迫ったら、動物の方が賢く私たちを置き去りにして逃げるかもしれない。「それでもいい」と覚悟した瞬間、家族が一団となった。


「こんな時に動物のことを考えるなんて馬鹿らしい、人の命が最優先だ。」とか、「そんな多くの動物を飼うなんてどうかしている」という声が聞こえてきそうだ。その声を否定したり、抗ったりするつもりはない。

一人でも多くの命を救おうと、危険を顧みず、昼夜を徹して災害救助に向かう自衛隊や地域住民、ボランティアの方々の姿には、何度も胸を打たれ、私たちは協調や思いやりの心を持って災害に向き合わなければならないと認識している。


それなのに、いざ、わが身に危険が迫ると、その思いを越える「日常が積み上げた大切なもの」を守りたくなるのだ。


事なきを得て、今となっては良い経験だったと振り返ることができるが、自然災害が発生するたびに、報道の網目にかからない悲しい出来事がたくさんあるのではないかと想像する。

私たち家族のようなペットだけではなく、家畜や野菜、植物などの命の決断を迫られると身動きが取れなくなる人たちがたくさんいるのではないだろうか。


並みでは収まらない気候変動。
毎年のように人の住む町に現れたと大騒ぎになる猪、鹿、熊も然り。


人間さえ安全ならそれでいいのか・・。
災害時の安全と同時に、災害を引き起こす原因を謙虚に考える必要性を実感している。


*相馬御風(糸魚川市出身の詩人)
相馬 御風は明治期から昭和期にかけての日本の文学者、詩人、歌人、評論家。本名は昌治。新潟県西頸城郡糸魚川町出身。早稲田大学大学部文学科英文学科卒業。詩歌や評論のほか、早稲田大学校歌「都の西北」をはじめとした多くの校歌や、「春よ来い」などの童謡の作詞者としても知られる。 (ウィキペディアより抜粋)





クローバーエッセイをお読みいただき、ありがとうございました。
子どもたちが強く社会を生き抜くために、自分は何ができるのか、何を残せるのかを問い続けながら出版を目指しています。



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毎月一冊課題図書読んで、そこから800字という制限の中でエッセイを書き、他のメンバーさんの作品も読み、合評するというとても貴重な学びの時間となっています。

今回の課題図書は
「自衛隊防災book」でしたクローバー