怪談サークル とうもろこしの会 -286ページ目

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旅行2日目

いよいよ中国地方に乗り込む。
目指すは松江だ。
日本海側の鉄道から米子に行き、乗り換えをする。
ふらっと掲示板を見ると、境港行きの電車の表示。
ああ、ここから、あの水木しげるの町への電車が出ているのか。
そう思っていると鬼太郎電車というものが到着したので
なんとなくふらふら乗車してしまう。
そうして着いた境港。
水木しげるロードも良かったが
水木しげるロードという一本道以外の静けさっぷりの、これが良かった。
まず人通りの圧倒的な差。
水木ロードでは高円寺パルくらいの人数がいるのだが
他の道には、人影が一切ない。本当に無い。
そしてなぜか、水木ロードでは全くしない磯の香りが、
数メートルだけはずれた路地に入ると、ぷうんと匂ってくる。
異常に静かな港町の、この寂れた雰囲気が
アシスタントのつげ義春に引き継がれていったのかもしれない。
そんな境港の路地をさまよううちに
「下西を働かせよう会 連絡所」というノボリを発見する。
港町の片隅で引きこもるニートの下西を
地元の商店街や漁業組合が何とかして働かせようとしているのだろうか。
しかし下西は働かない。
「なまけ者になりなさい」という水木しげるをプッシュしているだけに
地元の人たちもあまり強く注意することが出来ないのだ。
「下西くん、とりあえず鬼太郎グッズを作るバイトしてみないかな?」
網元の高橋さんですら、そうおずおずと切り出すのが精一杯である。
「ほら、ぬりかべと一反もめんの人形から始めればさ、いいんじゃない?」
紙粘土をこねて5分で終る作業なのだが、しかし下西は働かない。
おばけは死なないし、病気もなんにもないし、下西は働かない。


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10/24


中国に旅行にでる。

日本の中国地方のことだ。
めったに行けない心霊スポットを回ってやろう!と意気込んでみたものの
いきなり新幹線に乗り遅れる。
全体の電車連結スケジュールがガタガタだ。
連休でもなんでもない日取りだったので特に問題はなかったが
幸先の悪さは否めない。

初日はとりあえず兵庫どまり。の城崎温泉で一泊する。
この日、訪れた心霊スポットは
玄武洞という有名な観光スポットと、
その近くにある建設途中のライオンズマンション。
建築が途中で頓挫したまま放っておかれているという変り種の廃墟だ。
地元のタクシー運転手から「男の幽霊が出るらしい」との噂を聞き、急遽、訪れてみた。
どんな幽霊なんですか?」「男だね」「いや、どういう男ですか?」「まあ、男だね」
どうやらマンションが建つ前から交通事故が多発していた地帯らしく
「元々はほら、昔の武士とかが殺し合いとかしてたから、そのせいじゃない?」
とは運転手さんの見解である。
インターネットでも検索されないので、
まだ地元民しか知らないスポットではないだろうか。

玄武洞はまあ、普通に珍しい岩(玄武岩)がある観光スポットだ。
一応、地元では肝試しに利用されているともいうが
昼間にいっても心霊的な雰囲気はかけらもないので
その筋を期待する方は行かなくてもいいだろう。
が、しかし、もし岩石好きの方がいれば
隣接する玄武洞ミュージアムには是非とも足を運んでもらいたい。
広くない館内に世界中の奇岩がひしめき合って展示され
一気にテンションが上がること間違いない。
ラピスラズリや蛍石、菱マンガン鉱など
死ぬまでに一度は見たい石がここなら全て目の当たりにできる。
スピリチュアル方面でいえば、パワーストーン好きの人にもいいだろう。
この展示室に入るだけで、全ての波動を受け取れるのではないか。
地方の変な博物館好きの僕だが、ここは自信をもってオススメできる。

さて、この日は城崎温泉で一泊。
温泉も有名だが、松葉蟹の本場でもある。
マンガ『築地魚河岸三代目』でも、
「カニは本場で取れたてを食べなくてはダメ。築地でも遅すぎる。」
と言われていた。
期待は高まる。
が、いざ着いてみると、漁の解禁は11月からとのこと。
仕方ないので、冷凍のカニをもそもそと食べる。
あんまり味がしなかったが
「やっぱり本場で食べるカニは違うなあ!」
頭の中で呟きながら、粛々と足をほじくった。


10/23



夕方、青山近辺を歩いていると
246の向こうから、暗い不協和音が近づいてきた。
音のする方を見ると、白いワゴンが一台こちらにやってくる。
スピーカーからはリストを讃える旨のテープを垂れ流していて
それが奇妙な音源の正体のようだ。
「キリストは全ての人の罪を背負いました」
その独特のイントネーションと文章が似ているところから
正月に新宿駅にいる人たちと同じ宗派のようである。
あそこはどうも外国人の活動家が多いのか、ワゴンの運転手も白人男性だ。
その彼がマイクを片手に、
「クイナサーイ」とか「オオイエース」とか
テープの演説に合いの手を入れてくるのである。
それがまたケントデリカットとデーブスペクターを足したような典型的な外人訛りで
ただでさえ奇妙な感覚にさせられるあの演説の中に
かなり食いぎみのタイミングで差し挟んでくるので、
全体として不思議なトリップ感を生んでいる。
それはまるで北方アジアの民族音楽のように
なにかに持っていかれてしまうような感覚を与えてくるのである。

……神は言われました、裁きの日は近い……
(クイナサイクイナサイクイアラタメナサアイ)
……死後、地獄にて永遠の苦しみにあうのです……
(イエースイエースイエースタタエナサイ)

ずっと聞いているうちに目眩がして、思わず246のガードレールに手をついた。