怪談サークル とうもろこしの会 -285ページ目

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そういえば中国への旅行では、
有名な鳥取駅の「砂丘そば」を食べることが出来た。
世間的には全く認知度は低いだろうが
立ち食いそばの1ジャンルである駅そば界では有名なのです。
更に、米子駅で「大山そば」にもトライ。
鳥取は西日本では珍しく、そば文化がポコリと存在する地域なのだ。
1時間のうちに2そば食べることが出来た。
味はどちらもまあ、うん、まあ、という感じだった。

さらに尾道では、尾道ラーメンを食べる。
一番有名な朱華園というとこが長く行列していたので
尾道で入ったバーのマスターから
「尾道ラーメンっぽくはないけど、ここが好き」
とオススメされた、みやちという店に入る。
スープに背油がないのだが
代わりに(?)小エビの天ぷらがトッピングできるのだという。
テンションをあげる意味でも、ラーメン大盛り天ぷらのせを頼む。
まあ、うん、まあ、という感じだった。

余談だが、バーのマスターに
「天ぷらを乗せて食べるって、立ち食いそばみたいですね」
と言ったら
「いや、そういうのと一緒にされるのは……」
と苦笑された。


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四日目。

尾道をぶらぶらする。
急な坂と海がギュっとした長崎を、さらにギュっとしたような街だ。
坂を上って寺や神社を散策してみる。
その中で一番デカい千光寺を見学していると
“石鎚山鎖修行、復活しました!”とのノボリ。
気になっていってみると、岩が積み重なった小山に頑丈な鎖がたらしてある。
まさか、鎖をつたって登れということか?
立て看板には
“自己責任でお願いします。万一の事故に対して当山は一切の責任を負いかねます”
との文字。
そう言われると登りたくなってくるじゃないか。
まあ言っても、老夫婦が観光でくるようなスポットだぜ?
修行ったって、そんな大げさな。
鎖に足をかけて岩を登ってみる。
甘かった。
本当に大げさでなく、死ぬ危険が充分にある「修行」だった。
いやこれはもう文字通りの「クリフハンガー」、絶体絶命だった。
伊藤潤二のマンガに出てくる奇人のような体勢で、へばりつくように岩をよじのぼる。
そうだった。
地方のこういう観光地は、異常に厳しかったりする場合があるのだ。
あぶくま洞にて「冒険コース」なるものを甘い気持ちで選択した思い出が蘇る。
なんとか頂上にたどり着き、放心状態でへたりこんでいると
ミニスカートの女と男のカップルが軽々と登ってきた。
頂上部分はただの岩なので、3人もいるスペースはない。
息をつき、なんとか一つ下の岩まで降りる僕。
眼下に広がる尾道の街並みを眺めながら、男が女の頭をなでている。
痛みを感じて右手の親指を見ると、爪の中がちょっとだけ内出血していた。



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三日目。

小泉八雲記念館や
呪いの藁人形の神社や
倉敷の美観地区にある廃墟などに行く。

18時頃に、倉敷から尾道に電車で向かっていると
なんと人身事故が発生した。
「復旧までそうとう時間がかかります」
というアナウンスが流れ、笠岡なる駅で足止めをくらう。
いつまでたっても動かない電車。
駅構内にカブトガニの標本が入ったガラスケースがあったり
「カブトガニの街 笠岡」という塔が駅前に立っていたりするので
どうやらカブトガニが売りのようなのだが
こちらがカブトガニに興味がないし
別にカブトガニが食べれる店が駅前にある訳ではないので
暇も潰せずいかんともしがたい。

駅構内の売店で缶チューハイを何本かたいらげても
まだまだ電車は動かない。
駅前の駐車場でビデオカメラを回し
レンズを自分の方に向けて
「まさかね、こんな広島のこんなとこでね、一時間以上いると思っても見ませんでしたね」
インタビュー形式で録画していたのだが、それでも動かない。
改札の前には足止めを食らった人々。
二十人ほどいる高校生の一団の脇をサラリーマンやOLが右往左往して。
その中で僕は、
駅舎の壁にもたれかかるように座っている、
作業着風ジャンパーの、やさぐれた感じのお爺さんに目つけた。
TaKaRa焼酎ハイボール(レモン味)を片手に近づいていき
いやあ東京から来たんですけど、と話しかける。
「これが昔の中央線とかなら分かりますよ?でも広島ですよ?広島のなんか南の線路で人身事故なんてめったにないですよね?それを旅行中にひきあてるってどういうことですかね?」
すると、お爺さんは意外に上品なものごしで
「そうですか、巡り合わせいうもんがありますからね……」
と言ったかと思うと、そそくさ場所を変えるように駐車場の方へと歩いていった。
まるで缶チューハイを片手の厄介な酔っ払いに絡まれたかのように。
なんだなんだ?
ああいう風体の老人というのは皆、若者と話したがるもんじゃないのか?
それもお互い人身事故で足止めをくらっているという状況で?
ましてや人見知りの僕が酒の勢いを借りて勇気を出して話しかけたのに?
あまつさえ広島の郊外の駅で、東京から来たという
鮮やかピンクのシャツを着たメガネ青年に話しかけられて
なんの質問もなしって、どういうアレなの?
東京でなにが流行っているかも聞かなくてもいいの?
中央の景気がどうなっているのか気にならないの?
イラつきと混乱をさ迷ううちに、
現場復旧のアナウンスが構内に流された。
慌てて2時間前に乗っていた車両にもう一度飛び込む。
そのまま山陽本線を尾道へ向かう。
田園から海沿いへと変わっていく風景を、夜の車窓から眺め続けた。
このままでは、そのうち、いつかきっと、誰からも相手にされなくなる。