10/27 | 怪談サークル とうもろこしの会

10/27


四日目。

尾道をぶらぶらする。
急な坂と海がギュっとした長崎を、さらにギュっとしたような街だ。
坂を上って寺や神社を散策してみる。
その中で一番デカい千光寺を見学していると
“石鎚山鎖修行、復活しました!”とのノボリ。
気になっていってみると、岩が積み重なった小山に頑丈な鎖がたらしてある。
まさか、鎖をつたって登れということか?
立て看板には
“自己責任でお願いします。万一の事故に対して当山は一切の責任を負いかねます”
との文字。
そう言われると登りたくなってくるじゃないか。
まあ言っても、老夫婦が観光でくるようなスポットだぜ?
修行ったって、そんな大げさな。
鎖に足をかけて岩を登ってみる。
甘かった。
本当に大げさでなく、死ぬ危険が充分にある「修行」だった。
いやこれはもう文字通りの「クリフハンガー」、絶体絶命だった。
伊藤潤二のマンガに出てくる奇人のような体勢で、へばりつくように岩をよじのぼる。
そうだった。
地方のこういう観光地は、異常に厳しかったりする場合があるのだ。
あぶくま洞にて「冒険コース」なるものを甘い気持ちで選択した思い出が蘇る。
なんとか頂上にたどり着き、放心状態でへたりこんでいると
ミニスカートの女と男のカップルが軽々と登ってきた。
頂上部分はただの岩なので、3人もいるスペースはない。
息をつき、なんとか一つ下の岩まで降りる僕。
眼下に広がる尾道の街並みを眺めながら、男が女の頭をなでている。
痛みを感じて右手の親指を見ると、爪の中がちょっとだけ内出血していた。