進む円安 投機的な動きは容認できぬ | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

掲題の今朝の読売社説。

 

為替介入にタイムリーに言及した

我が国の社説は読売以外になく、

敬意に値するものの、

その論旨には問題なしとしない。

 

確かに、円急落は一方で

自動車を代表とする輸出可能財や、

例えば輸入ワインと競合する国内ワインなどの

輸入競争財という両貿易財価格を急騰させ、

他方で、国内サービスなどの非貿易財価格に関して

貿易財と比べた相対価格を低下させる等、

経済資源の効率的配分を大きく歪めることで、

経済厚生上大きな問題を惹起しかねない。

 

しかし、日本単独の為替介入では、

介入効果は一時的な効果しか生むまい。

 

なぜなら、経済ファンダメンタルズの観点からみて、

確かに1ドル約108円とみられる(国際通貨研究所推定による)

相対的購買力平価で見れば、大幅円安と評価できるものの、

日米の長短金利差からみた金利平価の観点からみれば、

数日前の為替介入時の1ドル160円でも

必ずしも円安とは見ることは困難であるからだ。

 

つまり、確かに購買力平価でみて

長期的に円安であることは間違いないものの、

日米金利差が現在もそして将来も拡大すると

金融市場が期待(予想)する限り、

短期中期的には一段の円安こそが合理的と見ざるを得ない。

 

結局、ワシントンDCにあるブルッキングス研究所の

ロビン・ブルックス氏が昨日喝破したように、

日本の通貨危機は、コアCPIインフレが

過去2年間も約3%もの上昇を示してきていても、

(政府・日銀が「基調的なインフレ」は

2%物価安定目標にまだ未達だ等と強弁して)、

利上げしない、

あるいは利上げできない、または、

少なくとも金利正常化に極めて後ろ向きである点などを考慮すると、

やはり我が国の債務危機に既に変質し

てきてしまっているとみざるをえまい。

 

少なくなくとも、それが世界の国際金融論上の常識であり、

読売社説のような見解は我田引水的な

我が国の常識かもしれないが、

国際金融市場では通用せず、

世界の非常識と言わざるを得ない。

 

しかも、現実的には、ドル売り・円買い介入には

軍資金となる我が国の外貨準備は100兆円強しか存在せず、

今回10兆円程度と推定されるドル売りには限りがあることも事実。

 

例え覆面為替介入を繰り返し実施してみても、

日本経済規模の約7倍もある米経済規模を相手に、

単独で日米通貨介入戦争を仕掛けて見ても、

敗北は今回も時間の問題であろう。

 

折しも、明朝3時にはFOMCの声明文が公表され、

3時半からはパウエルFRB議長の記者会見が予定されている。

 

米経済ではインフレ再加速の兆候が見られ、

FRBは年内の利下げはおろか、

再利上げに迫られる確率も決して小さくあるまい。

 

円急落という投機的な動きが容認できないと言うのなら、

一時的で外貨準備に限りがある

政府財務省による市場への直接的な為替介入には無理がある。

 

そもそも、1970年代以降約50年間以上も続いてきている

変動為替相場制下では、外的ショックには

国内の金融・財政政策というマクロ経済政策によって、

国内経済への影響を遮断し得るという

「隔離効果」が国際金融論上、理論的に前提されており、

またそのように期待(予想)されてきている。

 

(最近のイエレン米財務長官による為替介入に対する

客観的で説得的なコメントも想起されたい。)

 

永続的で制約条件のない

日銀政策金利の実質プラス圏への大幅引き上げを視野に入れた

粛々とした金融政策の正常化と同時に、

大幅利上げによる景気後退リスクを軽減するための、

消費税撤廃に向けた消費税率の5%への恒久的な引き下げという

金融と財政のポリシーミックスを実施していく以外に

米国と日本が国際協調の精神の下で、

とるべきWIN-WINの道はない。

 

誠に遺憾ながら、岸田政権も植田日銀も、

円暴落を目の当たりにしても、

そのようなポリシーミックスの構想力や指導力を持たない。

 

残念ながら、世襲化し特権化するばかりの我が国では、

政治も経済もそして金融市場も

全て戦後最大の危機にいま直面しているとみざるを得ず、

生活費高騰の危機を中心として、当面、

誠に厳しい情勢が継続的に展開せざるをえない

リスクを否定できない。

 

しかし、日本には大復活のシナリオが必ず残されており

それを実現することが可能か否かは、

ひとえに我々一般国民の自覚と

強い意思だけにかかっていよう。

 

最後に、現下の政治経済金融上の最大の注目材料と見て間違いない

日本政府財務省による覆面為替介入を、

社説として我が国で唯一タイムリーに取り上げた

読売社説には敬意を表したい。

 

しかし、その論旨は、

平成を超えた令和資産バブルと同様に、

「砂上の楼閣」に過ぎない、といわざるを得まい。

 

 

 

 円安が一段と進んで、日本経済を揺さぶっている。為替市場の過度な変動は悪影響が大きい。政府・日本銀行は、投機的な動きを容認しない強い姿勢を示すことが重要だ。

 

 4月29日の外国為替市場で、円相場は乱高下した。午前中に、1990年4月以来、約34年ぶりとなる1ドル=160円台へと急落したが、午後に入ると、一転して、154円台にまで急騰した。

 

 為替介入の効果が高くなると判断された場合、介入の有無を即座に公表しない「覆面介入」の形が取られることがある。

 

 財務省の神田真人財務官は30日、「介入について申し上げることはない」と明言を避け続けたが、金融市場では、政府・日銀が、円買い・ドル売りの為替介入を行ったとの見方が広がっている。

 

 政府・日銀は、投機的な動きが強いと判断したならば、 毅然

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きぜん とした措置で対応してもらいたい。

 

 160円台は、今年初めに比べ20円近い円安・ドル高となる。相場の変動が大きすぎると、企業が事業計画を立てにくくなるなどマイナスの影響が懸念される。

 

 神田財務官は、「投機による激しい、異常とも言える変動が、国民経済にもたらす悪影響は看過しがたい」とも指摘した。

 

 行き過ぎた円安は、日本経済にとって弊害が多い。

 

 物価高に賃上げが追い付かず、実質賃金は、今年2月まで2年近くマイナスが続いてきた。

 

 今春闘では、33年ぶりとなる高い賃上げ回答が相次いだが、円安が、輸入価格の上昇による物価高を招けば、実質賃金のプラス転換は難しくなりかねない。消費が落ち込めば、経済の好循環の実現は遠のいてしまうだろう。

 

 円安・ドル高の主因は、日米の金利差が大きく、ドルでの資金運用が有利なことにある。

 

 日銀は先週、政策金利を0~0・1%程度に据え置いた。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は、今週、5・25~5・50%を維持するとみられ、円安圧力は続く見通しだ。政府・日銀は、市場動向に警戒を強める必要がある。

 

 日銀は、3月にマイナス金利政策の解除を決めたが、物価上昇率の基調が2%に至っていないとして、金融緩和を継続する方針を示した。その点を強調しすぎるあまり円安を助長してはいないか。

 

 円安は、物価の基調を押し上げる側面もある。日銀は、円安が経済や物価の動向に与える影響を丹念に分析して、今後の政策運営に生かしてほしい。