週のはじめに考える アベノミクスの片付け方 | 元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

元世界銀行エコノミスト 中丸友一郎 「Warm Heart & Cool Head」ランダム日誌

「経済崩落7つのリスク」、
「マネー資本主義を制御せよ!」、
「緩和バブルがヤバい」、
「日本復活のシナリオ」等の著者による世界経済と国際金融市場のReviewとOutlook

「国家の盛衰を決めるのは、政治経済体制が収奪的か包括的かの差にある」(アシモグルら)

今朝の東京新聞社説。

一理ありで、

心情は理解できるものの、

問題なしとしない。

 

なぜなら、日本経済とその金融市場は

同社説が想定するような状況よりも

ずっと厳しいからだ。

 

そして、政府あるいは特に日銀を

物価や通貨の番人などと思い込むのは、

無邪気すぎるというものだろう。

城山三郎氏の名著「小説日本銀行」ご参照。)

 

現下の約3%のインフレ税と

10%消費税のダブルパンチで

日本経済は個人消費の長期停滞から

いつまでも抜け出せない。

 

また、(企業設備)投資も3期ぶりに

前期比プラスに転じたに過ぎない。

 

民需主導による持続的成長のための

双発エンジンである消費と(設備)消費の

好循環はいまだに生まれてきていない。

 

他方、インフレ調整後の実質ベースでは

政策金利はもとより、

短期金利ならびに長期金利も、

全てマイナス圏に大きく沈んだままでは、

日本円のさらなる暴落や

インフレ高進を阻止することは

極めて困難と見ざるを得ない。

 

 

そして、なによりも問題なのは、

既に2022年4月以降に、物価上昇が、

2%インフレ目標を既に2年間も超えてきて、

しかも、一時的な要因を除く

生鮮食品やエネルギーを除く

コアコアCPIでは3%を超える物価上昇が

2年間も継続してきている

インフレの事実だ。

 

それなのに、

「基調的な物価の上昇率はまだ2%を下回っていて

緩和的な金融状態を維持することが大切だ」とする

客観的でない、恣意的で主観的に過ぎない、

金融政策の認識や政策スタンスそのものにある。

 

誠に遺憾ながら、日銀は物価と通貨の番人ではない。

 

高消費税と高インフレ税で得をするのは、

家計や

(円安で潤う輸出大企業を除く)一般企業ではなく、

政府でしかない事実を知るべきだ。

 

日銀は政府の番犬にすぎないと見ざるを得ない。

 

いずれにしても、同社説が主張するように、

「暮らしぶりは、指標だけでは分からない」、のではない。

 

政府・日銀は高インフレ税と

高消費税率で得になるのだから、

高インフレや高消費税を止める

インセンティブがないだけだ。

 

おそらく、一般消費者や企業が文句を言わない限り、

そして、現在の世襲的で特権的な

政治経済体制が覆らない限り、

高インフレと高消費税率を続けたいのだろう

 

国際金融市場では、短期的に見ると、

今後も低金利が続くと見込まれる通貨から

高金利が将来の続くと見込める通貨へと資金が流れる

のはごく自然(金利平価説)。

 

結局、平成を超えた令和バブルの大崩落は

おそらく2024年度中にもやってこざるをえまい。

通貨のさらなる下落や金利急上昇などが

避けられないためだ。

 

令和バブル大崩落時の

日本経済の同時崩壊を回避するためには、

実質金利のプラス圏への浮上を目指す

粛々とした利上げ継続と、

金利上昇からの景気後退リスクを回避するための

消費税撤廃に向けた

消費税率の5%への恒久的引き下げを、いまから、

準備しておかねばならない。

 

以上の意味で、同社説は一理あり、

同情を禁じ得ないものの、

無邪気に過ぎて、

問題なしとしないと言わざるを得ない。

 

 

 

 日銀が3月の金融政策決定会合で17年ぶりに政策金利を引き上げました。日本の金利が上がれば円を買う動きが強まって過度な円安は収まるだろうと、多くの人が思ったのではないでしょうか。

 

 ところが、外国為替市場で円は買われるどころか売られるばかりで、4月11日には一時1ドル=153円台まで下落しました。34年ぶりの円安水準です。日銀が苦心の末に踏み切った利上げは、完全に無視された格好です。

 

 日銀の植田和男総裁は9日の参院財政金融委員会で「基調的な物価の上昇率はまだ2%を下回っていて緩和的な金融状態を維持することが大切だ」「2%に上がっていけば、金融緩和を少し弱める判断も可能だ」と述べました。

 

 歯切れが悪い発言ですが、原材料価格の高騰など一時的要因を除いて2%付近まで上昇すれば追加利上げもあり得ることを示したとみるのが妥当でしょう。

◆円安、物価高の副作用

 黒田東彦前総裁時代の日銀は方向性が明確でした。経済低迷の要因はデフレにあるとみて、そこから脱出するためにあらゆる手法を駆使して金利を下げ続けました。「異次元金融緩和」です。

 

 異次元緩和には株価上昇や失業率低下、大企業の業績向上など効果の一方、副作用もありました。深刻だったのは急激な物価上昇に対応しきれなかったことです。

 

 ロシアのウクライナ侵攻を背景に原材料価格が高騰し、インフレの波は日本にも押し寄せました。米欧の主要国は軒並み大幅な利上げで物価高騰を抑え込もうとしました。各国の中央銀行は金融を引き締めても自国の景気は耐えられると判断したのです。

 

 しかし、日本では急激な利上げで景気が一気に冷え込む恐れがあり、低金利政策を続けました。その結果、日米の金利差が一気に開いて過度な円安が始まり、物価高騰への対応は、政府の給付金などその場しのぎの政策に頼らざるを得なかったのです。

 

 円安が物価高騰に拍車をかけ、日銀もついに利上げに踏み切りましたが、米欧と比べて内容は中途半端でした。大規模な金融緩和からの脱出口にようやく立ったものの、そこから踏み出すのに躊躇(ちゅうちょ)しているというのが実態です。

 

 投資家たちは日銀が追加利上げをできないと見透かし、円売りドル買いを続けているのです。

 

 懸念されるのは、このまま円安が抑えられない場合、輸入物価の高騰に伴って原材料価格がさらに上昇し、ただでさえ値上がりしている食品など日用品の価格に波及することです。

 

 異次元金融緩和は、2012年に政権復帰した安倍晋三首相が進めた経済政策「アベノミクス」3本の矢の一つです。

 

 この間、多くの大企業は円安の追い風で業績を上げ、もうけを内部留保としてため込みました。超低金利で資金が簡単に借りられる環境の中、新たな事業を生み出す努力を怠り、旧態依然の経営を続けられたのです。

 

 新陳代謝が起きなかった日本企業が、国際的な競争力を失ったことはいうまでもありません。

 

 政府も似たような状況です。日銀が金融機関経由で無尽蔵に国債を引き受けるため、国債を当てにした野放図な財政支出が常態化しています。

 

 民も官も、アベノミクスという「ぬるま湯」につかっていたのです。割を食ったのは物価高で苦しむ私たちの暮らしです。

◆まともな暮らしに戻す

 植田総裁の当面の仕事は政府と大企業をぬるま湯から出すとともに、物価高騰を抑制しつつ節約疲れの人たちに、まともな暮らしを取り戻してもらうことです。

 

 飲食店に関して気になる指標があります。調査会社の東京商工リサーチによると、23年のラーメン店の倒産が45件と前年から2倍以上増えたのです。

 

 食材や水道、光熱費の上昇や人手不足に伴う人件費の高騰が資金繰りを圧迫したことが原因です。ラーメン店が直面する現実は、景気の最前線の縮図です。

 

 アベノミクスの副作用と格闘する日々は、植田総裁の退任まで続くはずです。経済指標を分析し、景気を急激に冷やさないよう金融政策を徐々に正常軌道に戻す、薄氷を踏むような作業でしょう。

 

 ただ、暮らしぶりは指標だけでは分かりません。

 

 「経営はどうだい」。日銀総裁がラーメン店に入り、店主に語りかける。その会話が景気の分析に深い味わいを与え、アベノミクスの後始末に役立つと考えます。