社労士試験において、年金法(国民年金法&厚生年金保険法)は難解だと言われますが、それは年金法成立からの経緯(沿革)をも学習しなければならないからですね。

ということで、年金法においては、次のように旧法の仕組みを知らなければ解けないような問題が散見されます。それでは早速、過去問を解いてみましょう。

 

【1】社労士試験の過去問を解いてみましょう!

<平成17年度国民年金法問6B>

死亡した者が旧国民年金法の母子福祉年金又は準母子福祉年金から裁定替えされた遺族基礎年金の支給を受けていたときは、死亡一時金は支給されない。

 

<平成28年度国民年金法問2A>

死亡一時金は、遺族基礎年金の支給を受けたことがある者が死亡したときは、その遺族に支給されない。なお、本問において死亡した者は、遺族基礎年金以外の年金の支給を受けたことはないものとする。

 

【2】旧国民年金法による母子年金又は準母子年金とは?

平成28年度の過去問については新法の知識で正解を導くことができますが、平成17年度の過去問については旧国民年金法の仕組みを知らないと解けないかもしれませんね。

 

実は、新法施行日(昭和61年4月1日)を境にして、遺族給付の哲学が逆転したのです!

 

発想の転換と言ってもよいのですが、遺族給付に対する旧法のルールは、次のようになっていました。


〈旧国民年金法の死亡に関する給付の原則〉

新法における遺族基礎年金は「死亡した者」について保険料納付要件等が問われますが、旧法における遺族給付は、「遺児年金」を除き、「遺族として残されるべき者」について保険料納付要件等が問われていました。

 

※「遺児年金」とは、母子家庭における母が死亡した場合や父子家庭における父が死亡した場合等に、18歳未満の子に支給される年金であり、この場合は、死亡した母又は父について保険料納付要件等が問われます。

 

例えば、「母子年金」は、死亡した夫(子から見れば父)について保険料納付要件等が問われるのではなく、夫が死亡したときに遺族として残されるべき妻(18歳未満の子と生計を同じくしている場合に限り、子から見れば母)について保険料納付要件等が問われていたのです。

 

※ 旧法の時代、専業主婦は国民年金制度の任意適用対象者であったため、任意加入をして保険料を納付してもよいし、国民年金制度に加入する義務もありませんでした。しかし、母子年金という給付があったことも一因となり、新法が施行される直前の昭和60年度末時点において、専業主婦のうち約7割の者が国民年金に任意加入して保険料を納付していました

国民年金第3号被保険者とは、残り3割の専業主婦を救済するための制度だったのです。

 

準母子年金」も同様であり、死亡した者ではなく、遺族として残されるべき「準母(18歳未満の孫を養育している祖母や18歳未満の弟妹を養育している姉)」について保険料納付要件等を満たすことが必要でした。


旧国民年金法の時代、どうして「死亡した夫」について保険料納付要件等を問わなかったのかというと、当該死亡した夫は旧厚生年金保険法による被保険者であって、旧国民年金法と旧厚生年金保険法とは、まったく関係のない別個の年金制度だったからです。

 

【3】遺族基礎年金に裁定替えされた母子福祉年金又は準母子福祉年金とは?

ここで「福祉年金=無拠出制年金」と思い込んでしまうと、平成17年度の過去問は解けません。

 

★新法施行日(昭和61年4月1日)をもって遺族基礎年金に裁定替えされた母子福祉年金又は準母子福祉年金は、無拠出制の年金ではありません!

 

18歳未満の子、孫、弟妹を養育している母又は準母は、国民年金の保険料を滞納することなく納付していました(一定期間は保険料免除期間があってもよい

ただ残念なことに、母子年金又は準母子年金を受給するのに必要な保険料納付要件を満たせなかったのです。このような福祉年金のことを「補完的福祉年金」と呼び、旧法時代の裁定権者である都道府県知事の裁定を受けると、保険料の法定免除とされていました。

 

※ 一方、完全無拠出制の福祉年金は「経過的福祉年金」と呼びます(拠出制国民年金法の施行日時点において、すでに夫が死亡していたため母子家庭になっていた母に支給される「母子福祉年金」などが典型例)。


※ ちなみに、新法施行日(昭和61年4月1日)において遺族基礎年金に裁定替えされた準母子福祉年金の受給権者は、全国に2人しかいなかったそうです。

 

【4】死亡一時金の立法趣旨とは?

死亡一時金とは、保険料の掛け捨てを防止することを唯一の目的とした給付です。この立法趣旨は絶対に忘れないでください。


それでは、過去問解説に入りましょう。

 

<平成17年度国民年金法問6‐B>

死亡した者が旧国民年金法の母子福祉年金又は準母子福祉年金から裁定替えされた遺族基礎年金の支給を受けていたときは、死亡一時金は支給されない。

遺族基礎年金に裁定替えされた母子福祉年金又は準母子福祉年金の受給権者は、国民年金の保険料を納付していました。そして、納付していた保険料が母子福祉年金、準母子福祉年金又は裁定替えされた遺族基礎年金という形で戻ってきたものと考えられますから、納付した保険料が掛け捨てにはなっていません。

したがって、この選択肢は「正しい」ことになります。


※ ただし、遺族基礎年金に裁定替えされていない母子福祉年金又は準母子福祉年金のみを受けていた者が死亡した場合には、無拠出制の経過的福祉年金のみを受けていたものとみなし、死亡一時金は支給されます。

 

<平成28年度国民年金法問2‐A>

死亡一時金は、遺族基礎年金の支給を受けたことがある者が死亡したときは、その遺族に支給されない。なお、本問において死亡した者は、遺族基礎年金以外の年金の支給を受けたことはないものとする。

こちらの設問においては、死亡した者は遺族基礎年金以外の年金を受給したことがないとあります。母子福祉年金や準母子福祉年金も受給していないのです。

さて、新法では「死亡した者」について保険料納付要件等が問われるのでしたね。

遺族として残された者について保険料納付要件が問われることはありません。

例えば、父子家庭における父が死亡したことにより、その子(10歳とする)が遺族基礎年金を受給することになったものと仮定しましょう。

その10歳の子は、当然のことながら国民年金の保険料を一切納付していません。

そして、そのまま大人(20歳)になって、国民年金の保険料を納付し、死亡一時金の支給要件を満たして死亡したとします。

あれれ、このままでは納付した保険料が掛け捨てになってしまいますね(納付した保険料に対して何らの見返りもなく死亡していますので)。

つまり、所定の遺族に対して死亡一時金が支給されますから、死亡一時金が支給されないとするこの選択肢は「誤り」です。


ということで、年金法を克服するには、旧法の仕組みも知らなければなりませんから、確かに年金法は難解だと言えます。しかも、旧法時代においても頻繁に法改正が行われていましたから、このブログの記事内容も厳密には正確とは言えませんが、真に正確に記述しようとすれば、ものすごい分量のブログ内容になってしまいますので、その点はご勘弁を…。


しかし同時に、年金法は何と奥深く面白い法制度なのでしょうか!


【補遺1】

今では知らない社労士受験生も数多くいるかもしれませんが、平成26年4月1日前は、遺族基礎年金は「子のある妻又は子」にしか支給されませんでした。つまり、「夫」に遺族基礎年金が支給されることはあり得なかったのです。

しかし、東日本大震災により、妻を亡くし、子とともに遺族として残された夫が「遺族基礎年金が夫に支給されないのは男女平等の精神に反する」として世論に訴えかけました。

その男性の強い訴えにより、国民年金法が改正され、平成26年4月1日から、「子のある夫」に対しても遺族基礎年金が支給されるようになったのです。

しかし、寡婦年金、中高齢寡婦加算、経過的寡婦加算など、現在でも夫に支給(加算)されない給付等があります。


【補遺2】

遺族補償年金の受給要件に、妻以外の遺族に対して年齢制限を設けた地方公務員災害補償法の規定が、法の下の平等を定めた憲法に反するか否かが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁判所は、当該規定は合憲とする初判断を示しました(最3小判平成29年3月21日)。

ただし、最高裁は「死亡した労働者の夫に55歳以上という年齢要件を定めた部分については憲法に反しない」と判断しただけです。平成26年4月1日前の遺族基礎年金のように、夫には一切支給しないとする年金制度等についてまで合憲と判断したわけではありません。


※この訴訟では、第1審の地裁判決では違憲、第2審の高裁判決では合憲とされ、最高裁は合憲とした高裁判決を支持したものですが、高等裁判所が合憲と判断した理由の一つとして、この夫の場合、「遺族補償年金」を受給することができなくとも「遺族補償一時金」は受給することができるという事情もありました。


さて、皆さんの意見はどうでしょうか?