実は先日、大手社会保険労務士法人に勤務されている方とお話をしていまして、社会保障学者や年金を専門とする経済学者たちから「最近の社会保険労務士は公的年金に関する勉強をまったくしておらず、レベルが低い!」とお叱りを受けているらしいと聞きました。

せめて、大学で雇用問題の客員教授をなさっている菊池桃子さんを見習ったほうがよいかもしれません。

そこで、今回は、経済学的視点から公的年金制度を正しく伝えようと活動している権丈善一教授による公的年金の「財政検証」に関する年金リテラシーを測定するためのテストです。
あなたは、何段になりますか?

※イギリスには、雇用問題と公的年金問題をまとめて扱う「雇用年金省」(Department for Work and Pensions:DWP)があります。雇用問題と公的年金問題とは密接な関係がありますからね。

【初級】
公的年金は保険である。民間の貯蓄性商品とは根本的に異なる。

【初段】
公的年金は65歳で受給しなければならないものではない。60~70歳の(受給開始年齢)自由選択制である。

【二段】
支給開始年齢の引き上げと、受給開始時期(年齢)の自由選択の意味・違いがわかる。

【三段】
マクロ経済スライドの意味・意義が何となくわかる。

【四段】
将来の給付水準は絶対的なもの、固定的なものではなく、可変的なもの、経済環境などによっても変わっていくが、自分たちの選択や努力によっても変えていけるものだということがわかる。

【五段】
対物価の実質価値と、対賃金の実質価値の違いがわかる。

【六段】
5年に一度行われる財政検証で行っているのは現状の未来への投影(projection)であり、将来の予測(forecast)ではないことを理解している。

【七段】
公的年金はPDCAサイクルで定期的に状況を確認しながら改革を行い続ける制度であり、100年間何もしなくてもよい(安心)ということでなく、100年くらいを見通して、持続可能性を保つためにシステムの再設計を繰り返していくことが組み込まれた制度だということがわかる。

【八段】
積立金がおよそ100年先までの公的年金保険の給付総額に貢献する割合は1割程度であることを知っており、積立金運用に関するスプレッドの意味がわかり、名目運用利回りでの議論は間違いであることを理解して、人に説明できる。

【九段】
Output is central」の意味を知っており、積立方式賦課方式も、少子高齢化の影響から独立ではいられないことを人に説明できる。

【師範】
年金改革の方向性を知るためにはオプション試算に注目すべきことを知っており、オプション試算が行われるようになった歴史的経緯を人に説明できる。

※ 権丈善一教授は、年金リテラシーテストを作成した目的を、社会保障制度を記事にしている新聞記者が【師範】になるためだと述べられています。 

そうであるなら、社会保険労務士が【師範】になれないと困りますね。

社労士受験生としては、【七段】まで行ければ自信を持ってよいでしょう。

公的年金を語るのであれば、少なくとも「貨幣錯覚」に陥らないように気をつけましょう。
また、国家の目的は社会保障を充実させることではなくて、別の目的のために社会保障が手段としてある(社会保障そのものを目的としている国家など存在しない)ことも肝に銘じておきましょう。自然災害などが多い日本では、命を守るための「安全保障」も深刻に考えなければならない問題なのですから…。

※「安全保障」は対外的なものだけではありません。労働安全衛生法には「安全保障」という概念が含まれていることを知ってください。

【追記】
私は、労働法が専門なのですが、学問的に片寄らないように、マクロ経済学、ミクロ経済学、財政学、行政法も少しずつ噛ってきたつもりですが、忙しさにかまけて、サボっています。
社労士試験講座を教えている立場として、猛省しなければなりません。
労働法の専門書に比べると社会保障関連の専門書を読む機会はかなり少なく、わずか20~30人程度の社会保障学者・経済学者の専門書を読んでいるに過ぎませんからねぇ😓

【推薦書】
社会保険労務士試験に合格した方には、次の書物を推薦しておきます。この著者は『厚生労働白書』も執筆されていましたし、ミクロの視点とマクロの視点で社会保障を論じていますから、ミクロの社労士試験しか勉強してこなかった社労士試験合格者には、格好の書物ではないかと思います。

★香取照幸著 『教養としての社会保障』(東洋経済新報社)