【1】労災民事訴訟(労災民訴)
最近の社会保険労務士試験(以下「社労士試験」という)における労災保険法では、民法的な知識が問われることが多くなりました。

特に、社労士試験受験生の大半が苦手とするのが『労災民事訴訟(労災民訴)』ですから、まずは「過失相殺」と「損益相殺」を理解しておきましょう。

(1)過失相殺:労災事故において、例えば、被災労働者が大通りに突然飛び出してきて自動車に轢かれたなど、被災労働者にも過失がある場合には、加害者である第三者又は使用者側に過失又は安全配慮義務違反があって民事損害賠償の責任が発生する場合であっても、被災労働者の過失割合に応じて、加害者である第三者又は使用者側が支払うべき損害賠償額が減額されることをいいます

注)政府が労災保険給付を行ったため、その価額の限度で、被災労働者等が第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得し、第三者に対して求償する場合、過失相殺により減額した金額を第三者に求償することになります

(2)損益相殺:労災事故による被災労働者又はその遺族が損害を被ると同時に、同一の事由により経済的な利益(保険金など)を得たときは、その経済的な利益を損害賠償額から控除することができることをいいます

★同一の事由によって労災保険給付と社会保険給付(国民年金又は厚生年金保険)を受けられる場合に、労災保険給付の額を減額して支給することも一種の「損益相殺」と考えることができます(損益相殺的調整)。

【2】損益相殺と過失相殺の前後関係
〔具体例〕
例えば、被災労働者の被った損害額が1,000万円、既支給分の労災保険給付の額が400万円、被災労働者の過失割合が3割(加害者である第三者の過失割合は7割)だと仮定して考えてみましょう。
これには、2つの考え方があります。

(1)控除後相殺説
まず、先に労災保険給付との損益相殺的調整(減額調整)を行い、その後に過失相殺を行うという考え方です
上の具体例によれば、まず先に、1,000万円から既支給分の労災保険給付の額(400万円)を控除して600万円とし、その後に過失相殺をすることにより、600万円×7割=420万円を第三者の損害賠償金の額とする説です。

(2)控除前相殺説
まず、先に過失相殺を行い、その後に労災保険給付との損益相殺的調整(減額調整)を行うという考え方です
上の具体例によれば、まず先に、過失相殺をして、第三者の損害賠償金の額を1,000万円×7割=700万円とし、その後に労災保険給付の額(400万円)を控除して、300万円を第三者の損害賠償金の額とする説です。

【3】最高裁判所の判断は?
以上の具体例からすると、(1)控除後相殺説のほうが、被災労働者には有利になりますね。

しかし、平成27年度の社労士試験に出題された「高田建設事件(最3小判平成元年4月11日)」では、(2)控除前相殺説を妥当と判断しました。

この最高裁判所の見解に対しては、労災保険給付の支給分(400万円)は、全損害のうち第三者の過失相当分(700万円)に優先的に充当されることになるという批判があります。
この批判によれば、労災保険給付の400万円についても、過失分に応じて比例的に、被災労働者と第三者の過失割合(3:7)に充当されることとなり、充当額は、それぞれ120万円、280万円となります。

★なお、最高裁の考え方(控除前相殺説)は、使用者行為災害にも当てはまります。

控除前相殺説は、労災保険給付の趣旨・目的について、社会保障的性格というより、損害填補を目的とする損害賠償的性格を重視すべきであるという解釈に基づきます

被災労働者に過失がない場合には、労災保険給付は、全損害のうち第三者の過失相当分にそのまま優先的に充当されること、及び一般の民事損害賠償として請求する金額は過失相殺がなされた後の額について行われること、並びに被災労働者の過失については労災保険給付の支給制限によって行えば足りることなどを考慮するならば、この最高裁の判断(控除前相殺説)は妥当であると考えます。

【社労士試験対策】
以上の理屈は非常に難しいので、「過失相殺を先にしてから、その後に労災保険給付分の額を控除(損益相殺的調整)する!」と覚えておけばよいでしょう。