割増賃金には2つの機能があります。
1つは、企業を罰するという意味でのペナルティ機能であり、もう1つは、労働者がより高い賃金を得られるという意味でのインセンティブ機能です。
これを解説していたら1冊の本が書けるくらいの複雑な論点が含まれていますから、割増賃金とは何かを考える切っ掛けにしてください。

【ペナルティ機能】
割増賃金とは、労働者に長時間労働をさせてしまったことに対する事後的補償であり、企業に対する一種のペナルティとしての機能を持っています。
最高裁判所も、医療法人康心会事件判決(最判平29.7.7)において、次のように述べています。
労働基準法第37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは、使用者に割増賃金を支払わせることによって、時間外労働等を抑制し、もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに、労働者への補償を行おうとする趣旨である
労働基準法も、割増賃金を規定した同法第37条が第4章(労働時間規制の章)の中にあることから、法定労働時間を遵守させ、労働者の生命・健康を保持するための手段として、割増賃金制度を創設した趣旨だと解されます。
現在では、労働者のワークライフバランスの観点から、労働者の私生活の時間を企業が奪ったことに対する補償であるとも考えられています。

【インセンティブ機能】
労働者の側からすれば、時間外労働等をすることによって割増賃金が得られるわけですから、時間外労働等をすることによって賃金総額が増えるというインセンティブ機能をも有しています。
例えば、マンションを購入し、そのローンの返済のために労働者自ら時間外労働をするという現象が生じます。
また、子どもが生まれると、「ミルク代」と称して教育費等を稼ぐために残業(時間外労働)をするという話は今でもありますね。

さて、1箇月当たり60時間を超えた時間外労働に対して、使用者は5割増以上の割増賃金を支払わなければならないという規定は、確かに割増賃金のペナルティ機能を期待して創設されたものなのですが、労働者によってはインセンティブ機能になるかもしれません。

とにかく、日本の労働運動の特徴は、多少の時間外労働等はかまわないが、必ず残業代はしっかり支払ってくれ、というものです。この考え方は、国民性とまでいうと大袈裟ですが、大正時代から一貫して見られます。

一方、欧州諸国の団体交渉においては、確かに昔は賃上げの問題が取り上げられてはいましたが(もともと「労働協約」そのものが「賃率協定」という意味ですから)、むしろ労働時間短縮の問題が取り上げられます。

まあ、そもそも基本給の額が低いのではないかとか、その結果として固定残業代制の問題が出てきたのではないかとか、非正規労働者の労働時間が短縮傾向にあるのに正規労働者の労働時間が延長傾向にあるという労働時間の二極分化にさせた人事労務管理に原因があるのではないかなど、様々な意見が出てくるでしょう。

とにかく、違法な時間外労働等をさせておきながら割増賃金を支払わない使用者が、労基法違反の犯罪者であることだけは確かでしょう。