平成29年度社労士試験選択式の国民年金法に、次のような問題が出ています。

【平成29年度選択式問題:国民年金法】
国民年金法第107条第1項では、厚生労働大臣は、必要があると認めるときは、受給権者に対して、その者の〔E〕その他受給権の消滅、年金額の改定若しくは支給の停止に係る事項に関する書類その他の物件を提出すべきことを命じ、又は当該職員をしてこれらの事項に関し受給権者に質問させることができると規定している。

【1】「その他」と「その他の」
一般に、「A、B、Cその他D」とある場合、A、B、Cは、Dとの並列的例示の関係にあるとされています。
「佐藤さん、鈴木さん、田中さんその他従業員は・・・」とある場合、佐藤さん、鈴木さん、田中さんは、従業員ではないのです。
もう少し法律的な事例を挙げると、「まな板、包丁、鍋その他料理をする際に使うもの」のように、料理をする際に使うものを列挙したいのですが、列挙しきれない場合、このように説明的に表現するのです。

★これは「まな板、包丁、鍋その他の料理をする際に使うもの」と同じような意味になりますので、「その他」と「その他の」の違いがほとんどなくなってしまいます。
ただし、「その他の」を使うときは、「ミカン、リンゴ、ブドウその他の果物」のように、「その他の」の後ろには単純名詞が来ることが多いのです。
「賃金、労働時間その他の労働条件」が典型例ですね。

さて、「A、B、Cその他のD」とある場合において、A、B、Cは、Dという大きな概念の包括的例示(典型例・代表例)を表します。
例えば、「佐藤さん、鈴木さん、田中さんその他の従業員は・・・」とある場合、佐藤さんも鈴木さんも田中さんも、従業員なのです。
従業員の中の典型的な人物(代表的な人物)として、佐藤さん、鈴木さん、田中さんを挙げているのです。

【憲法28条】
ですからね、平成21年度の選択式労一に出た憲法28条の問題は簡単だったのです。次のように出題されました。

勤労者の団結する権利及び〔A〕その他の〔B〕をする権利は、これを保障する。


その他の」がありますから、Bのほうが大きな概念であり、AはBの典型的な例示を表します。当時の受験生は、どちらが「団体行動」で、どちらが「団体交渉」なのかが分からないと話していました。
しかし、Bのほうが大きな概念なのですから、Bが「団体行動」であり、AがBの典型的例示である「団体交渉」だと分かってほしかったのです。
★「ミカン、リンゴ、ブドウその他の果物」で覚えましょう!

【2】冒頭の選択式問題
重要な箇所は「その者の〔E〕その他受給権の消滅、年金額の改定若しくは支給の停止に係る事項」です。

つまり、「受給権の消滅、年金額の改定若しくは支給の停止」と並列的例示の関係にある語句で空欄を埋めればよいのです。

受給権が消滅する場合の例示、年金額が改定される場合の例示、支給が停止される場合の例示を思い出すことです。
例えば、直系血族又は直系姻族以外の者の養子となった場合に受給権が消滅するものがありますね。
また、遺族基礎年金で3人の子のうち、1人の子が配偶者以外の者の養子となったときは、遺族基礎年金の減額改定事由になります。
障害の状態が軽減して2級(障害厚生年金の場合は、3級)にも該当しなくなれば、支給が停止されますね。
このように考えていけば、正解は「身分関係、障害の状態」と導けるのです。

また、「その他」以降の概括的文言を省略しても文章が成り立つ、という特徴があります。
・・・、その者の身分関係、障害の状態に係る事項に関する書類その他の物件を提出すべきことを命じ、又は・・・
「書類その他の物件」となっていますから、物件という大きな概念の中に書類という典型例が含まれていることに気づいてくださいね。
書類 < 物件

【3】労働基準法5条で再確認
最後に、労働基準法5条を確認して、今後の社労士試験の受験勉強に生かしてください。

【労働基準法5条】
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

①「暴行、脅迫、監禁」だけにしてしまうと、限定列挙(制限列挙)になってしまいますが、強制労働は、その他の手段によっても行われる可能性がありますね。
②だからといって、「暴行、脅迫、監禁等」のように「等」を付けてしまうと、罰則の対象の範囲が限りなく広くなってしまう可能性があります。さらに、「等」があると、労働基準監督官の個々の恣意的判断によって、強制労働とみなされたり、みなされなかったりすることになりますが、これでは不公正です。
③処罰の範囲を「暴行、脅迫、監禁」に限定列挙(制限列挙)すれば狭すぎ、「暴行、脅迫、監禁等」とすれば、「等」によって処罰の範囲が広がりすぎ、使用者にとって、どういうときに処罰され、どういうときに処罰されないのかという「予見可能性」がなくなります。
★そこで、「暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」とすることにより、使用者に予見可能性を与えているのです。
社労士試験対策としては、「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」の具体例としてどのようなものがあるかを考えればよいのです。

少し難しい言葉でいうと、暴行、脅迫、監禁に相当するようなものを、単純名詞を使うのではなく、「その他」以降で概括的(包括的)に表現しているのです。
こういう法令用語に慣れていると、難解な選択式問題でも、容易に解けることがあります。

<演習問題>
次の①と②のうち、労働基準法36条6項1号による文言として正しいほうを選びなさい。
①坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務
②坑内労働その他の厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務

〈参考〉
①が正しい場合には、厚生労働省令(労働基準法施行規則18条)に「坑内労働」は記載されていません。坑内労働と厚生労働省令とは別個のものとして並列関係にあるからです。
②が正しい場合には、厚生労働省令(労働基準法施行規則18条)に「坑内労働」が記載されています。坑内労働は単なる典型的な例示にすぎず、厚生労働省令の中に坑内労働が含まれていると考えるため、厚生労働省令で坑内労働も記載しておかないといけないからです。

さて、正解は①ですか、それとも②ですか?