会社の人事総務関係に携わる社会保険労務士としては、裁量労働制における賃金形態を知らなければ話にならない。

裁量労働制における賃金形態には、大きく分けて3種類ある。
 
【具体例】
所定労働労働時間が8時間、裁量労働者に係るみなし労働時間が10時間であるとした場合
 
(1)賃金を10時間に対応させるもの
→所定時間外労働の2時間分の賃金についてはすでに支払われているから、その2時間分について25%以上の割増賃金を支払えばよいのであって、125%以上ではないことに注意のこと。深夜労働に該当する部分についても同様である。
 
ただし、休日労働については、特に協定等をしていない限り、 みなしの対象外であるから、割増賃金の考え方は一般の労働者と同じになる。
つまり、休日労働が深夜時間帯にかからない限り、135%以上でよい。 
 
(2)賃金を8時間に対応させるもの
→この場合は、法定労働時間を超える2時間分の賃金が支払われていないから、その2時間分について125%以上の割増賃金を支払わなければならない。 
なお、法定の深夜時間帯に労働した場合には、8時間以内の深夜分については25%以上、8時間を超えた深夜2時間分については125%以上の割増賃金を支払わなければならない。
 
(3)賃金を8時間分の労働と2時間分の時間外労働に対応させるもの
→これは所定時間外労働分に対して割増賃金がすでに支払われている場合である。この場合には、所定労働時間の8時間分の通常賃金と、 所定時間外労働の2時間分の割増賃金部分が明確に判別され、かつ、その割増賃金部分が法所定の割増賃金額を上回っていなければならない。
なお、ここでの事例の裁量労働制においては、 労働時間を10時間とみなしているので、実際の労働時間が8時間であったとしても、2時間分の割増賃金は支払わなければならない。
 
【裁量労働制の本来の趣旨】
①ここで、裁量労働制においては、みなし労働時間より仕事が早く終わっても、新たな仕事が与えられるので事実上の労働時間は長くなると批判されるが、裁量労働制の対象業務は限定されているのだから、法的には裁量労働者に拒絶の権利が与えられるべきものである
※ここに、フランス労働法典に倣ったジョブ型雇用への志向が見られる。
 
②労働時間管理は裁量労働者の時間配分の決定等には及ばないので、裁量労働者がどのような時間配分で就労しようと、どのような形で休憩しようと、使用者は基本的に関知しない。
 
したがって、裁量労働者にとっては、始業・終業時刻、休憩時間の定めは、事実上意味を持たないから、遅刻や早退それ自体は懲戒処分の対象にならず、賃金カットの問題も生じない
 
※上記記述のうち、①は『論究ジュリスト2017年春号No.21』を参考にした私見ですが、その他は、1990年5月28日発行『共同研究労働法4:労働時間法論』(法律文化社)を参考にしています。
 
★なぜ、このような裁量労働制における本来の趣旨が、国会で議論されないのだろうか?
これで国民は、裁量労働制とは何か、知る機会を失ってしまったような気がする。