Summer Crossing | In The Groove

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a beautiful tomorrow yea


どうかグレディさんにフェリーさんを田舎から呼ぶように伝えてください。グレディが部屋を散らかしたにちがいないので、このずっといてもらったらよかったのにと思っています。まったく信じられないことですが、カンヌの家を貸していたドイツ人が家を汚くしていたので、もう一度がっかりしたくないのです。そしてもう一つ、これもグレディに話してください。彼女のドレスは夢のように素晴らしく出来上がりました。本当に信じられないほどです。



ついに、訊く時がきた。私は何をしたというの? その時は朝食のテーブルで、アップルが母親からの手紙を声に出して読み、ドレスのことに触れた時だった。それを欲しがっていたことを忘れていて、決して着ないとわかっていて、彼女は今までと違うわけのわからない悲しみの階段を逃げるように降りた。



私は何をしたの? 海にも同じことを訊ねた。鋭敏なカモメは繰り返し海上を飛ぶ。人生のおおかたは退屈だ。煙草のブランドを替えたり、新しい土地に越したり、新聞を替えたり、恋に落ちたり、失恋したりして、日々の生活の退屈をまぎらわすことができないことに浅かれ深かれ抗議しているのだ。不幸なことに、どんな鏡もあてにならない。どんなに危険を冒しても、ある点では同じように無駄であり、消し去れない顔が映っている。

―トルーマン・カポーティ著『真夏の航海(原題: Summer Crossing)』より



ジョディ・フォスター来日



カンヌの宴も終わり、東京はまだ梅雨入りしていないが、梅雨が明ければ、本格的なが始まる。そういう意味では、心地よい風が吹き抜ける、今のこの初夏の時期が一番過ごしやすい時期なのかもしれない。



そう、先月13日にブログを更新して以降、一度もブログを更新することなく、約1カ月が経過したが、それに特別な理由などない。ただ、シャンパンが美味しく感じられる時期ゆえ、夜な夜なシャンパンディナーを楽しんでいたのだ。また、購入後、開封していなかった大量の音楽CDを聴いたり、未見の映画DVDを視聴したり、を読んだり、やりたいことをやっていたのだ、ただそれだけ。



そんな矢先、ジョージ・クルーニージュリア・ロバーツが共演を果たした映画『マネーモンスター』の監督を務めた(ハリウッドスターの中では珍しくとても知的で、身長160㎝ととても小柄な)オスカー女優<ジョディ・フォスター>が先日来日を果たしたのは、記憶に新しい。





ジョディ・フォスターに関して、俺が10代だった頃、1988年のアメリカ映画『君がいた夏』『告発の行方』を観た記憶が未だ残っているが、私的に忘れられない彼女の代表作といえば、1991年6月に日本公開となり、第64回アカデミー賞を総なめにした映画『羊たちの沈黙』だ。もうかれこれ今から25年前の作品ゆえ、当時28歳だった彼女は現在53歳だ。60年代生まれの彼女や、70年代生まれの俺よりも、上の世代であれば、ロバート・デ・ニーロ主演、マーティン・スコセッシ監督作『タクシードライバー』(1976年・米)に子役で出演を果たしたジョディ・フォスターのほうが有名かもしれない。



ロバート・グラスパーの新作『エヴリシングス・ビューティフル



今年のゴールデン・ウィークに足を運んだニューヨークでは、ジョルジオ・アルマーニのスーツ(「TOKYO」ライン)、サマージャケットシャツ(白、黒、紺)をはじめ、エルメスヴァレクストラのバッグ、そしてベルルッティエルメスルブタンのシューズを6足購入したのだが、ホテルの客室でBGMとして流していたのは、日本から持参した、黒人ジャズ・ピアニスト<ロバート・グラスパー>の4枚のアルバムだった。そう、俺がニューヨークで購入したアルマーニのサマージャケットが、阪急メンズ東京の5月16日付ブログ“ジョルジオ アルマーニの名品ジャケットで、美しく快適な夏を過ごす ”で取り上げられていた。



ロバート・グラスパーに関しては、2012年にブルーノートからリリースされたアルバム『Black Radio』をはじめ、過去何度もブログ内でオススメしてきたので、ここで改めて彼のプロフィールや過去のアルバムについては言及しない。



とはいえ、同アルバムが俺の興味を強烈に惹いたのは、当時のブログでも指摘したと思うが、11曲目に収録された『ヘルミオーネへの手紙(原題: Letter To Hermione)』だ。なぜなら、同曲はデヴィッド・ボウイが1969年にリリースしたアルバム『スぺイス・オディティ』収録曲だからだ。それは、69年当時、ボウイの恋人<ヘルミオーネ・フォージンゲール>への想いを綴った曲なのだが、俺はボウイの数ある名曲の中から、俺よりも年下の1978年生まれ(38歳)のロバート・グラスパーが、同曲を選び出し、カヴァーしたことに、驚きを隠せなかったというのが本音なのだ。ニルヴァーナの曲“Smells Like Teen Spirit”のカヴァー然り。



彼の音楽的センスには脱帽なのだが、彼は、マイク・ガースン(ジャズ/デヴィッド・ボウイの音楽仲間)、ビル・エヴァンス(ジャズ)、グレン・グールド(クラシック)同様、俺のお気に入りピアニストのひとりに加わって久しいが、来月の来日公演もとても楽しみだ。彼はたびたび来日を果たし、ブルーノート東京やビルボードライブ東京で日本公演を行っており、俺も過去4度ほど足を運んでいる。なお、付け加えるならば、楽器は、ピアノは好きだが、トランペットはあまり好きではない。



参考までに、2012年にリリースされたアルバム『Black Radio』(国内盤)のライナーノーツで、的を射た部分があったので、以下一部抜粋して紹介したい。



ヒップホップをジャズのエッセンスを取り入れたスタイルを演奏するということ自体は、グールーのジャズマタズが1990年代前半からやっていることだ。ザ・ルーツやマッドリブのイエスタデイズ・ニュー・クインテット、マーク・マックのヴィジョニアーズなど、そうした例を挙げれば快挙に暇がない。いずれにしても、それらはほとんどがヒップホップやクラブ・ミュージック・サイドからの発信であり、長い間ジャズ・サイドからはこれといった動きが見られなかった。歴史を紐解けばハービー・ハンコックやマイルス・デイヴィスがヒップホップを積極的に取り入れた作品を残したこともあるが、ジャズのメインストリームでそれらは長らく無視された存在だった。



確かに、1990年代前半、渋谷のHMVで、ジャズマタズのアルバムを購入し、今もそれは手元に残っており、それは記憶に残るアルバムのひとつではあるが、俺の感覚から言わせてもらえば、ジャズにヒップホップ的要素を取り入れて、踊れるジャズと言われたその一大ムーヴメントは、90年代の東京ナイトシーンをオシャレに彩った英国発「アシッド・ジャズ」(HMV渋谷店では、当時「クラブ・ジャズ」とも形容されていた)に他ならないが、20年前の記憶を取り戻すかのように、米国発のロバート・グラスパーの音楽もまた無敵に素敵なのだ。

そして昨年6月にリリースされたロバート・グラスパーのアルバム『COVERED』から早1年、彼の新作『Everything’s Beautiful』が、マイルス・デイヴィスとのダブルネーム名義で、国内盤が先月、日本先行でリリースされたのだ。その意味深なアルバムタイトルに関し、ライナーノーツにはロバート・グラスパー本人の言葉が長々と紹介されていたので、以下一部抜粋したい。



1969年のとあるセッションでマイルス・デイヴィスはドラマーのジョー・チェンバースにこう話しかけている。「あれ知ってるか? あそこにあるエレクトリック・ピアノだよ」。当時は普段ジャズのセッションで見かけるものじゃなかった。まだ新しいもので、大抵の人は良いのか? 信用してもいいものか? と決めかねているようなものだった。



見たこともなかったものだろ?」と彼は話し続ける。「でもな、すべてが美しいんだ。すべてが美しい。」と。それはこのアルバムのタイトルにぴったりだと思ったんだ。マイルス本人と彼の音楽の実験的で自由な性質をうまく象徴している。彼がいかに何に対してもオープンだったか。なんでも、ではなく、すべてに。このアルバムにはそういう心が欲しかった。マイルスは本当に多くの変化を辿っている。避けたかったのは、ただトランペットだけのトリビュートだね、わざとらしすぎるから。彼はあらゆる意味で革新的だったし、トランペットでだけじゃない。

―ロバート・グラスパー



ロバート・グラスパーの新作の感想だが、賛否両論あると思うが、正に俺好みで、とても素晴らしい。ただ、明らかに今作は、2012年の『Black Radio』や2013年の『Black Radio 2』とは趣を異にするアルバムだと前置きしておくが、プリンス亡き今、退屈なアメリカの音楽業界において、彼だけは異質な存在であり、デヴィッド・ボウイマイルス・デイヴィスとは比較できないが、ずば抜けたセンスの持ち主であるのは確かであり、今後の活躍がとても楽しみなアーティストのひとりなのだ。簡単に言えば、彼の音楽は、デヴィッド・ボウイ同様、過度に洗練されているのだ。退屈な今という時代に、英国のジェイムス・ブレイクアンディ・ストットのように、俺の期待を裏切らない、数少ないアーティストのひとりだとも言えよう。



ところで今月は、過去記憶にないような、私的に観たい映画が目白押しの月であり、それをまとめてブログで更新したい一方、6月と7月のは、久々に俺にとっての熱いジャズ月間となりそうな予感がする。また、最近足を運んだ都心の高級レストランをはじめ、いくつかの写真展などについて、ブログで取り上げるのも悪くないが・・・。今回、ブログ冒頭で、トルーマン・カポーティの小説から一部引用したが、彼の作品を取り上げるのは『叶えられた祈り』以来だろうか。『真夏の航海』の中の一節「人生のおおかたは退屈だ」は、“”を楽しく生きる俺には全く当てはまらないそれかもしれない。

最後になるが、シャンパン片手に、ロバート・グラスパーの新作BGMに、時計の針は今、6月6日(月)の22時半をゆっくりと回った。参考までに、今夜のフレグランスキャンドルは、ジョー・マローン



Good night!