日本国憲法と天皇 ―象徴の意味― | 下関在住の素人バイオリン弾きのブログ

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1 前置き

 

日本国憲法は、「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。」と定める(第1条)。

 

日本国憲法と天皇の関係は、どうなっているのだろうか。

 

2 象徴の意味

 

(1)前提知識

 

代表には、3種類があるといわれる。

 

「『代表』という言葉は、多義的である。通常の主な用法としては、本人に代わって行動する代理人ないし代弁者を意味する『委任的代表』、ある人がある部類に属する人々の性質を幾らか共有していることを意味する『縮図的代表』、ある人がある部類に属する人々の一体性ないし資質を象徴していることを意味する『象徴的代表』の3つがあるといわれる(A.H.バーチ)。」(佐藤幸治「日本国憲法論」425頁)。

 

(2)日本国憲法第1条の象徴の意味

 

日本国憲法第1条の「象徴」とは、象徴的代表という意味である。その象徴的代表とは何かを理解するには、委任的代表である首相と対比すると分かりやすい。

 

首相は、政治的・権力的・法的代表である。首相は、その時点での政治過程の結果、代表の地位にある。その時点の代表であるにすぎないのである。

 

首相によって代表される日本国民は、その時点での有権者団(選挙権を有する者の集まり)としての国民である。また、首相によって代表される日本国は、その時点での(政治的・法的・権力的側面における)日本国である。

 

これに対し、天皇は、非政治的・非権力的・非法的代表である。また、その時点に限らず、過去から現在、そして未来を含む全体を代表する。

 

天皇によって代表される日本国民は、歴史上日本国が始まった時から現在を経て未来にわたるすべての日本国民である。天皇によって代表される日本国は、歴史上日本国が始まった時から現在を経て未来にわたる日本国である。

 

政治とは、利害の対立を集約する過程だから、「非政治的」とは、利害の対立を超越して、全体を代表するという意味である。

 

権力とは、一方的に強制するものであるから、「非権力的」とは、心と心の関係として、つまり精神の世界で代表するという意味である。

 

「法的」とは、法律的な効果に影響があるという意味であるから、「非法的」とは、作為的な変更を加えないという意味である。あるがままの姿を代表するのである。もっとも「非法的」という言葉は普通使われない。「法的でない」という意味である。

 

以上を一文で表現すると、日本国憲法上、天皇は、過去、現在、未来の日本国及び過去、現在、未来の日本国民を、全体をひとまとめにして、精神の世界で代表する。

 

日本国及び日本国民の歴史的な始まりは、今となっては確かめがたい。しかし、いつの時点かで始まったことは間違いない。それは近代国家が出現するはるか前である。

 

もっとも、天照大神の神勅をそのまま歴史的事実とする訳ではない。これまで述べてきた歴史とは、考古学的な歴史である。神話の世界は、その考古学的な歴史の重要な一部である。

 

(3)上記のように解釈する理由

 

上記のように、日本国憲法第1条の象徴を象徴的代表の意味であると理解し、代表される日本国及び日本国民のいずれも、過去日本において歴史が始まった時から現在を経て未来にわたるものを解する解釈を採る理由は、日本国憲法第2条が「皇位は世襲のものであ」ると定めているからである。

 

3 補遺

 

日本国憲法は「日本国民統合」と述べる。過去、現在、未来の国民をひとまとめにした日本国民のことである。統合とは横の統合、すなわち、その時点での日本国民全体という意味と、縦の統合(時間的統合)、すなわち、過去、現在、未来の一続きの日本国民の全体という意味の両方がある。後者の意味の統合(連続性)とは、歴史のことである。

 

上に「法的でない」と書いた。法は社会の最低限である。「法的でない」ということのもう一つの意味は、最低限の土台の上に織りなされるものという意味である。それは、文化ということである。文化が時間的に統合されて、伝統が生まれる。

 

天皇は、歴史と文化の伝統の日本を代表する存在である。

 

なお、日本国憲法第1条の「主権の存する日本国民」とは、日本国憲法制定時から未来に向かっての国民の総体のことである。

 

そういう意味における主権者としての日本国民が、上記のような天皇をいただくことを選択したというのが日本国憲法が述べるところである。

 

そもそも、古代において実権を有していた天皇は、早い時期に武士に統治の権限を授与する存在となった。つまり、武士が力で戦い、勝ち抜いた者が征夷大将軍に任命され、統治の実権をふるうのである。

 

日本国憲法も、戦いの中で勝ち抜いた者を天皇が統治権の行使者に任命するという長く続いたやり方を採用している。もっとも、今の時代、武力で戦う訳ではない。選挙と議会における討論という形で、民主主義のルールに従って戦う訳である。

 

「天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。」(日本国憲法6条1項)。