解説者の流儀 第1章 ② | 戸田和幸オフィシャルブログ「KAZUYUKI TODA」Powered by Ameba

解説者の流儀 第1章 ②

昨日紹介した、第1章の続きです。


「解説者としてやっていこうと思っているが、しばらくは貯金を切り崩すような生活になるか もしれない」
現役時代に散々連れ回し、心配ばかりかけてきた妻にそう伝えたことを覚えている。
フリーランスの解説者としてやっていこうと決意する。マネージャーは僕には必要ないと思 った。自分のことは自分でできる。フリーランスとして、自分をブランディングし、マネージ メントすることに負担は感じない。逆に第三者が介在すると、伝わりづらくなることのほうが 多いし、フリーランスだからこそ自由度が高い分、多くの人のアドバイスを訊くこともできる だろう。
そうした理由とは別に、引退直後、解説者として僕をマネージメントしたいというオファー もなかった。当時、僕の力を知る人がいなかったということだ。

⚫︎サッカーを徹底的に言語化することへのこだわり

単身、スカパー!へ向かう。その後長くお世話になることになる担当の軽部さんは、当時驚 いたような様子で僕を迎えてくれた。
  
現役時代の戸田和幸のイメージは、2002年のワールドカップ日韓大会の赤毛のモヒカン。 激しく球際でボールを奪取し相手エースをつぶす、「つぶし屋」というものだろう。そんな僕が 「解説者」という仕事にふさわしいのか、疑われることも想像していたから、軽部さんの驚いた
表情も気にならなかった。すべて想定内だった。 初めは硬かった軽部さんの表情も、サッカーの話を重ねるうちに、じょじょに表情が和らい
でいく。自分の考え、想いを「言葉」に乗せて届けた結果、抱いていたイメージとは違う人間 だということを理解してくれたと感じた。
そして2014年シーズン、僕は解説者としてデビューすることになる。

サガン鳥栖のホームゲームは基本的には月に2試合。ユン・ジョンファン監督率いる当時の 鳥栖はとてもはっきりしたスタイルのサッカーをしていた。よく走り、戦う好チーム。そして 豊田陽平という日本屈指のストロングヘッダーを活かす、ダイナミックなサッカーをしっかり 伝えたいと思った。僕自身が解説者として生き残っていくためには、ほかの人たちとの違いを 見せる必要がある。最初の放送から、個性をしっかり見せることを意識した。そこには強い覚悟があった。
前線の選手から始まる守備。一糸乱れぬスライドに局面の強度。相手ボールに対してスライドしていくポジショニング。奪ったボールをどのように運ぶかというイメージの共有。ボール のないところでもサボらず味方のために走る選手の価値。ひとつひとつのプレーがチームに与える影響を細かくきちんと評価し、言語化した。それは鳥栖だけに限らない。相手チームにつ いても同じように話した。
そのためには過去の試合を見て、チームのことを知る必要があったが、それはこの仕事をす るうえでは当たり前に必要なこと。今でも、最低2試合(両チーム合わせると4試合)の映像をチ ェック、分析を行なってから仕事に臨んでいる。
両チームについての予習をしっかり行なってから中継に臨むので、話したいことが次々と生 まれる。その結果、実況アナウンサーの言葉と僕の発言が重なるようなこともたびたびあった。 おそらく、当時の僕は「話しすぎる」解説者と映ったかもしれない。それでも、自分の色を出 してサッカーを「言語化」することにこだわった。 「このプレー、どうですかね?」「そうですね、とても効果的ですね」
実況アナウンサーはピッチで起きる事象を伝えるのが仕事だ。そして、そのプレーについて、 解説者に訊くというのは、よくある中継の形だ。しかし、それでは解説者というよりも、感想を述べる「感想者」に近いのではではないかと僕は思う。解説者は、目の前で展開される試合 について、文字通り「解いて説く」のが仕事だと考えているからだ。だから、アナウンサーに 話を振られなくても、必要だと思えば自ら言葉を発した。
サッカーは目まぐるしく戦況が変わる。アナウンサーからの問いかけを待ってはいられない ときもある。気づいたことをその瞬間に話さないと、タイミングを失い、そのことについて話 すことは永遠になくなる。すぐに次の事象が起きる。重要なポイントが過去のワンプレーにな ってしまい、新しいポイントが生まれるからだ。待っていれば、結局話すのは、シュートチャ ンスしか残らない。シュートを打てば、それが決まったり、外れたりするとゲームが一瞬止ま るため、そこで話を振られるというのも当然だろう。
しかし、サッカーはシュートシーンだけが重要なわけじゃない。確かにゴールを奪い合うのがサッカーだが、なぜそのチャンスが生まれたのか? なぜそれを相手に許したのか? その 原因をひも解く事象がピッチ上で展開されている。その事象はボールに触れた選手のプレーだ けで起きるわけではない。ボールのないところでのプレーが影響することが非常に多い。そん な数々のプレーの出発点は、指揮官が描くゲームプランだ。指揮官がピッチ上に及ぼす影響力 の強弱も含めて、伝えたいと考えている。