全国宝石学協会によるダイヤモンドのカラー鑑定のかさ上げ疑惑について | 曇りときどき晴れ

全国宝石学協会によるダイヤモンドのカラー鑑定のかさ上げ疑惑について

全国宝石学協会がダイヤモンドのカラー鑑定のかさ上げを行なっていたと、
毎日新聞が元社員の証言として報じたことが話題になっている。

全国宝石学協会(以下、全宝協)は、中央宝石研究所やAGTジェムラボラトリーと並び、
日本で最も権威のある(言い換えるなら信用度の高い)鑑定機関である。

そうした信用度の高い鑑定機関が本当に、鑑定のかさ上げを行なっていたのか?

まず、ダイヤモンドの鑑定はどのように行なわれるのかについて。
ダイヤモンドは、指輪やペンダントなど製品の状態ではなく、裸石の状態で鑑定が行なわれる。
ダイヤモンドの評価は、主にカラット(重さ)、カラー(色合いの等級)、クラリティ(透明度)、
カット(プロポーションと研磨の状態)の4項目が重要だと言われており、carat、color、clarity、
cut、それぞれの頭文字をとって「4C」と呼ばれている。
この4Cのうち、カラットは1/1000カラット(1カラットは0.2g)まではかることができる
特殊な秤を使用する。
またカットも、イスラエルのオギ社のメガスコープもしくは、サリンテクノロジー社の
ダイヤビジョンという機械を使用して自動計測を行なっている。
研磨の状態は、最終的に人間が判断することになるが、4Cのうち2つの「C」に関しては、
鑑定者の主観が入り込む余地は極めて小さいことは理解してもらえると思う。
問題は、カラーとクラリティで、これらについては自動計測を行なう機械がないため、
鑑定士の判断に委ねられる部分、つまり主観が入り込む余地があることを否定することはできない。

カラーを判定するために、GIAのマスターストーン(基準となるダイヤモンド)を使用する。
マスターストーンは、D、E、F、G、H、I、Jの7グレードで1セットになっている。
ほぼ毎日ダイヤモンドを眺めている立場から言うと、ダイヤモンドのプロ10人中10人全員が
「これはDカラーである」とか、これはEカラーである」と断定できるダイヤモンドばかりではない。
必ず判断に迷うグレーゾーンのダイヤモンドが存在する。
グレーゾーンにあると考えられるダイヤモンドを、時期をずらして同じ鑑定機関に鑑定を依頼すると、
違う鑑定結果になることが稀にある。
宝石鑑定の総本山であるGIAの鑑定でさえ、そういうことが起きている。
では鑑定結果はどちらが正しいのかと言えば、どちらも正しいと言わざるを得ない。

いずれカラーやクラリティも客観的に判断できる機械が発明され、人間が関わる分野は小さくなって
行くだろうが、その日が来るまでは野球やサッカーの審判のように鑑定士の判断に委ねるしかない。

さて、今回の毎日新聞の報道で、全宝協は鑑定を行なっていた元社員を含むダイヤモンドの
グレーダー(鑑定士)に対し、「グレーゾーンのダイヤはグレードがよくなる方に判断しなさい。」
と、指示を出したと言っているのに対し、元社員は、「グレーゾーンという説明はなく、
一律ワングレードよくなるように指示された。」と食い違う証言をしている。
もちろん全宝協が「一律ワングレード上げろ。」とを指示していたことが本当なら問題だ。

仮に、一律ワングレードかさ上げさせたとして、それほど全宝協にメリットがあるとは思えない。
甘すぎる鑑定は、かえって敬遠される。
もう消費者を欺き続けることで儲けられるほど、あまい業界ではない。
メリットが小さく逆に致命的なデメリットになるかもしれないような指示を出すほど、
全宝協の経営陣がアホとは私には思えない。

ひとつ、その元社員に聞いてみたいのは、これまでにもグレードの判断の仕方について、
指示を受けたことがあるか?ということだ。
複数在籍しているグレーダーの主観の格差を是正するため、特定のグレーダーに対し、
「半グレード厳しめにしろ。」とか、逆に「半グレード甘めに判断しろ。」と指示を出す可能性は
ないとは言い切れないからだ。

さて、今回の全宝協事件は、元社員のリークに端を発している。
退社した(あるいはさせられた)社員が、腹いせに多少誇張して証言している可能性も否定できない。
経営陣と現場の社員との温度差からくる泥仕合とすれば、経営陣のガバナンスの失敗が
今回の原因とも言える。
全宝協やAGL(宝石鑑別団体協議会)がどのような説明を行なうか、一業界人として注目している。