教えて 発達障害・発達凸凹のこと | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

杉山 登志郎・白柳 直子:著  IAP出版 定価1500円 + 税 (2021.3)

 

    私のお薦め度:★★★☆☆

 

以前、このコーナーで紹介した「おとなの自閉スペクトラム」(本田秀夫:監修)の中で、AS(自閉スペクトラム)とASD(自閉スペクトラム症)を分けて考えよう、という話がありましたが、本書でも「発達障害」と「発達凸凹」を区別してとらえています。

 

タイトルの〈発達障害〉は精神科の診断名で、ご存知のかたも多いかと思います。 一方、〈発達凸凹〉は、児童精神科医の杉山登志郎先生が提唱しておられる考え方で、現時点で正式な診断名ではありません。

ではいったい発達凸凹とは何なのか、どういつた状態を表す言葉なのか。それを杉山先生に解説いただこうというのがこの本の狙いです。(「はじめに」より)

 

本書は、整体師である白柳直子氏が、発達凸凹について、児童精神科医の杉山登志郎先生にインタビューし、いろんな疑問点や対処法などを訊いていくという構成になっています。

白柳氏は、発達障害について全くの素人という設定で、初歩的な質問からはいっていますので、初めて「発達障害」・「発達凸凹」などの言葉を耳にした人への入門書と言えるでしょう。

 

インタビュー形式なので、注釈を除く本文だけでしたら、1時間もあれば最後まで読み通せると思います。ただ、この注釈が専門用語なども交えて、小さなフォントで詳しく書かれているため、目が左右に振られたり、2ページ先までまたがったりしていて、結構時間をとられるかもしれません。原則見開きの左端が注釈のコーナーなのですが、ほとんどのページについていて、中には1ページ丸々注釈というページまであります。

 

そこでお勧めの読み方は、まず本文だけを読んで、理解できない箇所にチェックを入れ、2回目に確認の意味で注釈を読むというやり方です。すでにもう何冊か自閉症の本を読まれている方なら、それで十分だと思います。

 

さて、本書の内容ですが、杉山先生は発達障害をまず3つのグループに分けられています。

一つは重度の知的障害やカナータイプの自閉症の「気質系発達障害」、二つ目は正常からの偏りと捉えられる「発達凸凹」、最後は強いストレス、逆境体験による「トラウマ系発達障害」です。

そして、それぞれのタイプの説明と対処法に入っていきます。

ちなみに杉山先生の分類によると、アスペルガー障害は気質系障害ではなく、発達凸凹の方に属するそうです。

 

まずは、「気質性発達障害」の中の、自閉症についての杉山先生の説明です

 

自閉症の場合、世界の見え方が違っているのだと思います。自閉症の世界は禅的なのです――と言って通じるかな……? 禅を体験していると、いろんな言葉の枠なんかが取れていって、物自体が見えてきます。そして物自体からスタートしているのが自閉症の世界。それに対してトラウマ系発達障害の世界は密教ですね、もう、なんか、なんでもありな感じが。

 

自閉症の場合は、大人との係わりの中でしか、なかなか学べないのだと思います。もちろん友達から偶然に学ぶこともあるでしようけれど、そこですぐに真似るのでなく、後模倣のような形で取り込んで真似て、それが大人との係わりを通して社会的なものになっていく。そんな経過をたどると思います。

定型発達の子どものように、友達から直接に学んですぐに社会的にフィードバックするのとは、全然違います。

                                   

長年の臨床体験からの自閉症に対する解釈でしょう。このあたりまでは、納得できるのではないでしょうか。自閉症の世界が禅的か、どうかは杉山先生ならではの見方かもしれませんが・・・

 

でも、次の「発達凸凹」の説明あたりから、少しずつ私たちの考え方とは違ってきているようにも思えます。

 

杉山 正常なはたらきかけで対応している限り、それで何とかなってくれるのが発達凸凹。かなり特殊な対応をしないといけないのが器質系発達障害――こちらは〈病気〉の状態でしょう。特殊な対応というのは医療の領域ですから。もちろんここには特別な教育も絡んではきますけど。

 

白柳  はい。

 

杉山  発達凸凹に向けての療育にはいろいろな種類があって、それらを比較した研究によると、どの方法でも成果は出るのです。成果は出るのですけど、より大きな成果を上げたのは、早くから療育を始めたグループと、係わりの頻度・密度の高いグループでした。これは相手が子どもですから当然ですね。

そして成果に差はあっても、いずれ発達が追いついてくると、その差はなくなります。

 

白柳  何歳くらいで、療育を 〈した〉 グループと 〈していない〉 グループの差はなくなるのですか?

 

杉山  10歳とかそれくらい。小学校中学年

 

白柳  では器質系発達障害でない場合は、治療的対応は要らないし、「10歳くらいまではまあ、のんきに構えてなさい」という対応で良いのですか?

 

杉山  そうです! だから僕は 〈幼稚園 6年制〉 を考えるのです。小学校低学年までの、まだ発達がいろいろごちゃごちゃしているときに、がたがた焦らせてもしょうがないじゃないか。小学校4年生から 〈小学校〉を始めれば、トラブルはずっと少ないだろうに、というのが僕のアイディアです。

 

カナータイプではない、アスペルガー障害などの発達障害(発達凸凹)の場合は、早期療育の効果が残るのは小学校の低学年まで。そのあたりで療育をしていなくても追いついてくるから、治療的対応は必要ない・・・と言われてしまったら、育てる会で行なっている ぐんぐんグループでの療育は、ほとんどの子どもに10歳以後には価値のないものになってしまいます。

 

杉山先生がいみじくも本書の中で 「器質系発達障害の子どもたちは、数としては少ない。いま病院で 〈発達障害〉 と呼ばれている子どもたちの大多数、90%以上は発達凸凹とトラウマ系発達障害です」 と述べられているように、確かに育てる会の療育の現場においても、現在は知的障害を伴わない、カナータイプ(杉山先生のいう気質系発達障害)には分類されないASDのお子さんが多数を占めています。

 

杉山先生への反論になりますが、私たちは、適切な療育が「小学校中学年」まででなく、その先の二次障害を防ぎ、落ち着いた暮らし、安定した社会生活をおくるための助けになると信じて療育を続けています。

 

まして次の「トラウマ系発達障害」への対応となると、正直ちょっとついていけないなぁ~という思いになってしまいました。

 

自閉症には、僕が〈タイムスリップ〉と呼んでいる独特のフラツシユバツクが起こることがあつて、これは、楽しいことや言葉が出る以前の経験でも起こりますが、不快な経験が蘇ってくることもあります。

だからこれをEMDRで処理しようと思いましたが、自開症の子どもたちは二つのことを同時にするのが苦手ですから、パルサーを使って受身の形で左右交互刺激を入れて、短時間でトラウマ処理をしようと考えました。

その方式を複雑性PTSDの人に応用してみたらうまくいって、それで 〈簡易型トラウマ処理(TSプロトコール)〉 と名付けたのです。だからもともとは自閉症圏向けの技術です。

 

ここで一応注釈を入れておきますと、EMDRというのは眼球運動による脱感作・処理法のことで、眼球を左右に振りながらトラウマ記憶を想起させるという技法だそうです。それを杉山先生は改良して両手にパルサーを握らせ、交互に振動刺激を与えるというTSプロトコールを発案したとのことです。

 

一つのトラウマ記憶を処理するだけなら、数分でできる作業です。左右交互刺激を20回するだけ。だから嫌な思い出が50個あるなら、50回処理すればいいだけの話。

子どもが「もうイヤだ、学校に行きたくない!」とつらかった経験を訴えてくる、「じゃあそれを処理しましょう」とパルサーを渡す。

処理が済んだら子どもはけろっとなっていて、横で見ている親は眉に唾を付けている(笑)。

 

たしかに、専門的器具を使っているとはいえ、振動刺激だけの数分の処理で、トラウマになっていた嫌な記憶が処理されてしまうのなら、こんな楽なことはありませんね。

ただ、この処置が行えるのは、杉山先生や一緒に取り組まれている数人の医師の方々・・・しかも、この先生方もご多忙で、新しい患者さんは引き受けられないそうなので、本書では紹介もできない・・・ということになると、残念ながらこの技法が全国に広まっていくことは、少し難しそうですね。

 

私たち、地方に暮らす者としては、やはりすでにエビデンスの確立しているTEACCHⓇやPECSⓇなどを基にして、地道に療育に取り組んでいくのが最善の道のように思います。

 

と、いうことで、今月のお薦め本コーナー、私も「眉に唾を付けている」ところもありましたが、以前にも、片倉信夫先生の、冷凍マグロのように横になり、身体じゅうの余分な力を抜く「ねかせ」の技法や、空中に文字を書くペンペン文字の実践などを紹介したこともありますので、これも一つの話題として提供させていただきました。

 

本書の末尾には、自分でできるトラウマ処理として、地面から息を吸って、身体をパタパタ叩きながら、嫌な感じを上に抜いていく、という「パタパタ体操」のやり方なども付録でついていますので、試してみられる方は、どうぞ・・・効果があるといいですね。

 

       (「育てる会会報 303号」 2023.7 より)

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目次

  はじめに  白柳直子

一 〈発達障害〉の三つのグループ

二  器質系発達障害
       器質系発達障害と正常知能
       器質系発達障害の子どもへの対応

三 発達凸凹
       発達凸凹の子どもへの対応
       療育について
       通常クラスと支援クラス
       発達凸凹への対応と治療的対応
       不登校への対応

四 器質系発達障害と発達凸凹

五 トラウマ系発達障害

  おわりに 杉山登志郎

  引用・参照文献

  付録1 〈発達障害〉概念の推移一覧

  付録2 杉山先生のトラウマ治療のエッセンス