発達障害 サバイバルガイド | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

借金玉:著  ダイヤモンド社  定価1500円 + 税 (2020.7)

 

        私のお薦め度:★★★☆☆

先月号の「生きづらさ解消 ライフハック」に続いて、今月も発達障害をもつ人が生きていくためのライフハック、サバイバルガイドです。
副題に『「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ 47』とあるように、ハック(工夫)が紹介されています。
そのハックの数、46コ・・・・オヤ? 一つ足りないと思うかも知れませんが、抜けているのは、本書の最初のページの案内板に 「もし、あなたが発達障害の二次障害で「うつの底」にいるなら、最初に310ページを読んでください。」 とある、最後のスペシャル・ハックです。
そのハックは、「何もするな、この本も読むな」です。逆説的なようですが、うつの底にある間は、何もしないで、吹雪が去るのを待ってください、というハックです。

それはつまりこういうことです。うつの底で、今日も1日何もできなかった。だとしたらあなたは、1日を雪洞の中で身を縮めて耐えるという最も重要な行動を間違えることなく完遂したのです。それは、前向きで堅実な確かな選択そのものでした。
今日を生き延びたあなたは、登頂に挑む晴れた日を待ち続ける登山家のように、人生と戦っています。どうか、自分を責めないでください。


このように、本書は二次障害に陥った発達障害をもつ人が、今日をなんとかなんとか、生き延びるためのサバイバルガイドです。
もっとも、筆者はペンネームを自虐的に「借金玉」と付けているように、落ち込んでばかりいるわけでもありません。


最初の大学は数ヶ月で退学し、2度目の大学を卒業した後、金融機関に就職し挫折し、その後一念発起で起業して成功したものの、3年ほどで事業が破綻し、大きな借金を抱えながらも・・・現在は不動産営業とライターをしながら、助けてくれた「債権玉」氏に少しずつでも返済を続けているそうです。

本書の執筆当時34歳、ASDも合わせ持つADHD、二次障害が双極性障害を発症し、現在まだ2000万円の借金が残っているとのことです。

そんな借金玉氏の書いた本書、「サバイバルとは よりラクに、より快適に、より優雅に生きられる環境を自らつくりあげていくこと」をモットーにしています。決して、爪に火をともすような、雑草や木の皮を食べてなんとか生きのびようというようま “サバイバル” ではありません (^_^;)

ですから、本書の最初のハックは「食洗機を買え!」です。設備投資を惜しんでは生活はラクにならない、と訴えられています。そして次のハックは、ベッド(寝床)にしっかり課金しろ、さらにはちゃぶ台でパソコンを打つな! 学習しやすい机と座り心地のいいイスを用意しろ・・・と続いていきます。

貧乏な生活をしていると、同じくらいの経済水準の仲間がたくさんできます。しかし、 この同じ程度の収入しかない極貧仲間であっても生活の水準はそれぞれ全く別ものでした。少ない収入でそれなりに快適な生活を送っている者もいれば、その逆にある程度の収入はあっても荒れ果てた不便極まる生活を送る人もいたのです。
その差はどこにあるのか? 僕はあるとき、 その両者を分けるひとつの指標が 「家に洗濯機があるかどうか」 だと気づきました。洗濯機というのはそう高いものではありません。中古で 2万円も出せば手に入ります。極貧とはいえ、 手に入れることは可能です。しかし、 ある種の人々はその 2万円を出費せず、 コインランドリーで数百円を支払うか、あるいはクリーニング屋を使ってしまうのです。
コインランドリーまで出向いて洗濯をする。そこにはコストだけでなく、時間もかかります。それはまるで「井戸を掘らず、毎回川まで水を汲みに行く」行動様式です。


先月紹介した姫野 桂 さんの「生きづらさ解消 ライフハック」の本が、多くの発達障害を持つ人が、生きやすくなるためのアイデア、ハックを持ち寄った実用的な本だったのに対し、本書は発達障害を持つ人への行動様式、考え方の変更を提案しているように感じました。

食洗機、持っていますか?  今すぐ買ってください、以上。これが本書の最初に伝えたいメッセージです。
「ラクをする」のは意外と難しいことです。普段我々は、自分が「めんどくさいことをしている」という感覚をあまり持つことができません。「自分が怠惰だからこんなことになるのだ」と自罰感情は湧いても、「どうすればラクになるかな?」という工夫の方向性へ思考が向かわないのです。
この悪い思考ルーチンを解除するには、 一度「設備投資をしてみたら劇的にラクになった」という体験をしてみるしかありません。いくら字面で理解できても、実感が伴っていなければ無意味なのです。
僕の経験上、即座にこの劇的な体験をさせてくれる道具が、食洗機です。


そして、生活保護などのセーフティーネットが次第に整ってきた現代の日本において、生きのびるために必要なのは、路上生活への備えや飢餓からの脱出などの物理的環境よりも、発達障害の方が陥りやすい二次障害であるうつや双極性障害(そううつ病)などから引き起こされる絶望感からの脱出かもしれないですね。
そして、そのために提案しているのが心地良い環境の確保ということになります。

また借金玉さん、その名前の元になった借金自体に関してもこんな見方を提案しています。


【 いい借金3原則 】
  ・借金は、 一人から借りる
  ・相手が「返してほしい」と思う大きな額 (できれば100万円以上) を借りる
  ・少額 (5万円以内) をたくさんの人から借りることは、絶対に避ける


借金玉さん曰く:「借金の額が多いほど、それを貸してくれた人はあなたの味方になる」 そうです。


一方で少額貸してくれた人は、返してもらえなかったことで、あなたを信用しなくなり、その金を手切れ金と思い、あなたを「友人」フォルダから消してしまうことになります。この先の再起にとって、なによりも重要な「信用」を、あなたは失ってしまうことになる、とのことです。
なんだか、楽天的な話で、借金玉さんにうまく丸め込まれたような気もしますが・・・・そう言えば、「借金とは絆である、借金を返せば絆を失ってしまう」とか言っていた自称クズ芸人を思い出しましたね。

まあ、そんなわけで、読み物としては結構面白かったのですが、いまだ借金玉さんは二次障害と対処中で本書にはかなり重い部分もあります。また、そのハックに対しても合う合わないが大きいと思います。

そのため、今月のお薦め本は、全員の方に“お薦め”というわけではありません。
自分には合うと思った方は、どうぞお読みください

ただ、真面目な話、今、マスコミを騒がせている市川猿之助氏の例もありますので(この会報が届く頃には、事件の詳細も分かっているかもしれませんが)、もしあなたの周りにうつで悩んでいる方がいたとしたら、最後の『ハック46.「死ねばいいや」の麻薬に頼らない』の章は紹介していただければと思います。

実体験からの想いがあふれる章になっています。

「いざとなれば死ねばいい」というのは、非常に強力な麻薬みたいなものです。これは、基本的には生きていきたいという欲求に突き動かされているのですが、その一方でどこか死んでラクになりたいという感情も混ざっている。コカインとヘロインみたいに生と死の欲求が混ざり合つたスピードボールです。

不安は、未来への意志がそこにあることを示すものです。不安であることは正しいのです。
「死ねばいいや」で勢いよく不安を忘れる精神的ヤク中より、不安を背負って生きているあなたがずっと前向きなのです。
どうか忘れないでください。未来は長く続きます、どこまでも不安です。だからこそ、あなたは未だ敗れ去っていません。やっていきましよう。

 

           (「育てる会 会報 301号」(2023.5) より)

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目次

  はじめに  食っていくための「生活術」

CHAPTER 1 生活環境  サバイバルに絶対必須の設備ハツク

 発達障害サバイパルの大原則 【生活環境編】
    「設備投資できない病」がすべてを狂わせる

  Hack 01  食洗機が「先延ばし人生」を解決する
  Hack 02 健康が一番高い。今すぐ「寝床」に課金せよ
  Hack 03 机とイスは、あなたの家の「知的生産拠点」
  Hack 04 「ぶっこみ収納」で、汚部屋から脱出せよ
  Hack 05 「いつも何かを探す人生」を断ち切る神ッール

CHAPTER 2 お金  貧困と借金から学んだマネーハック

 発達障害サバイバルの大原則 【お金編】
    必要なのは「金を稼ぐ」技術より「貧乏でもやっていく」技術

  Hack 06 「世界一ラクな家計簿」で浪費が止まる
  Hack 07 多重債務生活を今度こそ終わらすたったひとつの方法
  Hack 08 「貯金0円」の発達障害者が100万貯める技術
  Hack 09 食費を減らしたいならスーパーに行くな
  Hack 10 借金はちょこちょこ借りるな

CHAPTER 3 習慣  くりかえしが苦手な僕らの365日ハック

 発達障害サバイバルの大原則 【習慣編】
    生活の「スタートコスト」を下げろ

  Hack 11 「1日1箱」で習慣を固定しよう
  Hack 12 やることパニツクは「他人に」整理してもらう
  Hack 13 「決断疲れ」には週1カレーが効きます
  Hack 14 「風呂に入れない病」を解決するスゴ技
  Hack 15 起きるハードルを極限まで下げた日覚めハツク2.0
  Hack 16 睡眠薬を飲んでも眠れない夜を救う「強制終了」
  Hack 17 「パジャマ」でアルコール依存を止める

CHAPTER 4 在宅ワーク  だらだらに勝つ自宅作業ハック

 発達障害サバイバルの大原則 【在宅ワーク編】
    よき日常があつてこそ、よき仕事がある

  Hack 18 何よりもまず「働かないイス」を用意する
  Hack 19 発達障害のための最強「机コックピット」
  Hack 20 「手洗い儀式」でだらだら癖を追い払う
  Hack 21 「過集中で脱水症状」は小型冷蔵庫で防ごう
  Hack 22 タスクはデカいホワイトボードに全部ぶっこめ
  Hack 23 すっぽかしをゼロにする「究極カレンダー」
  Hack 24 「お菓子を贈る」でゆるい絆を維持する

CHAPTER 5 服 おしゃれとか以前の身だしなみハック

 発達障害サバイバルの大原則 【服編】
    服に「センス」は必要ない

  Hack 25 あなただけの「ライナスの毛布」を手に入れよう
  Hack 26 アップルウオッチで「時計マウンティング」を回避する
  Hack 27 「ジャヶット+スラックス」を信じろ 
  Hack 28 「部族のユニフォーム」はミリ単位で微調整しよう
  Hack 29 「たたむ」「収納する」これは悪い文化です
  Hack 30 安物のスーツでも「ちゃんとした人」に見せる

CHAPTER 6 食事  ずぼら完全対応版自炊ハック

 発達障害サバイバルの大原則 【食事編】
    レシピがだるくて覚えられないあなたへ

  Hack 31 最低限生きていく「食のベース」を常備せよ
  Hack 32 「味の素+塩」で9割の料理はおいしくなる
  Hack 33 「しょうゆの入れすぎ」がすべてを台無しにする
  Hack 34 皮は一切むかなくていい
  Hack 35 レシピは「メタ化」すると無限に応用できる
  Hack 36 料理の効率は「熱源の数」で決まる
  Hack 37 皿テトリスを終わりにしよう

CHAPTER 7 休息  生き延びるための休日ハック

 発達障害サバイバルの大原則 【休息編】
    働かなくても休むことができるが、休まなければ働くことはできない

  Hack 38 「頑張る」は惰性、「休む」は意志の賜物
  Hack 39 完全な休日は「現実逃避」に徹する
  Hack 40 「初心者に優しい」娯楽は危険です
  Hack 41 コンビニ散歩も「娯楽」になる

CHAPTER 8 うつ  不安とともに生きる再起ハック

 発達障害サパイパルの大原則 【うつ編】
    「どん底から再起する」技術を身につけよう

  Hack 42 一発逆転マインドを捨てる
  Hack 43 「向いていない仕事」を徹底的に避ける
  Hack 44 「貧乏人」とも「金持ち」とも広く付き合う
  Hack 45 躁うつの自分を「数字」でモニタリングする
  Hack 46 「死ねばいいや」の麻薬に頼らない

  Special Hack 今、「うつの底」にいるあなたへ

  おわりに  本当のあなたを「ハツクするな」

  借金玉「愛用品」リスト