本田 秀夫:監修 大島 郁葉:編 金剛出版 定価2800円 + 税 (2022.11)
私のお薦め度:★★★☆☆
本書のタイトルを見て、オヤ? と思われた方もいらっしゃると思います。
そう、本書は自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)ではなく、障害(Disorder)を除いた、自閉スペクトラム(AS:Autism Spectrum)の視点から、ASについて肯定的にとらえ直そうとする本だといえると思えます。
この本では,「おとなの自閉スペクトラム症」ではなく「おとなの自閉スペクトラム」というタイトルを採用した。この選択には,「病気・障害・ハンディキャップ」という視点とは独立して考えうる,いわば「種族(tribe)」としてのAS特性の本態を捉えるために,精神医学や心理学など多領域の専門家諸氏に寄稿を求めた,われわれ編者の意図が色濃く反映されている。(本田 秀夫)
そして、本田先生曰く、AS特性の本態とは「まじめで,ポジティブで,明るくて,率直で,裏表がない, といったもの」になるそうです。
本書に寄稿されているのは、本当にさまざまな分野の大勢の専門家の先生方で、みなさん「AS」という観点から解説されています。それぞれ、お一人の執筆範囲は6~8ページ程度なので、普通なら総花的な抄録になりがちだと思うのですが、ASDではなくASという切り口で見たとき、生き方を肯定するような新しい見方が共通して感じられ、読んでいて元気づけられました。
たとえば、青木省三先生は「こだわり」について、こんな風に述べられています。
筆者が考えるものの1つは,好きなことを追求する趣味人的な生き方, もう1つはよい作品を追求していく職人的な生き方である。趣味人的な生き方には,いろいろなものを蒐集する, コレクターという生き方もある。さらに,公正で公平を追求するという規範を護るような生き方もある。
筆者は「仕事は飯の種, こつこつと働こう。趣味を大切にして趣味人として生きよう」とか,「自分の仕事にこだわって,職人っぽく生きていこう」などと話すことがある。職人,趣味人のすすめである。地域には,ASの特性を活かして,職人として生きている人が少なくない。彼らは,同時に趣味人でもある。それも私などの想像を超えた,深い趣味の領域をもっている。 ・・・
「仕事は職人,余暇は趣味人」として生きていけないか。一芸に秀でるとまではいかなくても, 自分の仕事や趣味を大切にして,誇りをもって生きること。筆者は,若い年代のASの人たちと出会う時に,彼らが年を重ねるうちに職人・趣味人となり,特性が個性として輝くことはできないかと思い願うのである。
そういえば、職人気質(しょくにんかたぎ)という言葉もありますね。
頑固でこだわりが強く、あまり人付き合いはよくないけど、自分にも他人にも手抜きや甘えは見過ごさず、仕事は黙々きっちりと、一目(いちもく)置かれている・・・ ASの人が自己肯定感を保って生きていくには向いている暮らしでしょう。
ただ、徒弟制度もなくなりかけ、大量生産に励む現代においては、そんな職場を見つけるのも、これからはある意味大変そうですね。
まあ、青木先生の言われるように「職人っぽく」「趣味人っぽく」生きていけるといいですね。
もちろん、ASやASD、いいところだけでなく難しい面もあります。本書でもたびたび触れられているような、セルフ・スティグマに陥るケースも多いのではないでしょうか。
スティグマとは,個人の持つある属性によって,いわれのない差別や偏見の対象となることを指す。スティグマはマイノリティの属性において生じやすく,そのため精神障害にも生じる。スティグマの諸側面を表す代表的な概念として,パブリック・ステイグマやセルフ・スティグマがある。
パブリック・スティグマは,社会全体が持つスティグマであり,例えば「障害者は能力がない」といった社会風潮を指す(Goffman,1963/1970)。一方,セルフ・スティグマは,パブリック・スティグマを内在化し,「障害のある自分には能力がない」とする個人的な信念を指す。ASDはこの観点から見ると,私の指定難病や,その他の障害よりも, よリパーソナリティに踏み込んだスティグマがあるかもしれない。例えば,「ASDの人は不適切な行いをし,人を不快にさせる」といったものである(Farrugia,2009)。 (大島 郁葉)
本書では、この節に続けてセルフ・スティグマから抜け出して、「より満足のいく人生を送るために」支援者と取り組んでほしいことが列挙されていますが、私たちが取り組むのは、それと同時にパブリック・スティグマの解消であるように思います。
そしてそのためには、自閉スペクトラムに「劣っている」と連想しがちな「症・障害」をつけるのではなく、ASとして「違った種族」と認める、本書のような書籍が広く読まれるようにと、本書をお薦めします。
本書では他にも、ASと関連してみられがちなアタッチメントや強迫、抑うつや双極Ⅱ型障害などとの違いや見分け方や、療育としてのTEACCHやCBT(認知行動療法)、ACTやPEERSⓇなどの紹介等、それぞれの分野の専門家の方が簡潔に説明していただいているので、参考になることも多いと思います。
中でも、私が印象に残ったのは、最後の編者や寄稿者の方による座談会でした。
みなさん(本田秀夫、大島郁葉、青木省三、日戸由刈、桑原斉 各先生)の自己紹介では、それぞれ自分のAS特性について話され、そしてその特性が自分の臨床現場や生活においてどんな風に役立ったか、などと話が弾んでいきます。
本当はみなさんのお話を全部紹介したいのですが、そうもいきませんので、会話の中から2、3紹介して、今月のお薦め本とさせていただきます。
【日戸】 それでも, どちらかと言えばAS特性を持っていることがマイナスに見られてしまうことがあるので,やっぱり隠したくなっちゃうこともあるように思います。どうやったらAS特性を持っていてラッキー! と思えるような空気になるでしょうか。「あなたはAS特性を持ってないの? かわいそうね」っていうような会話が普通にできるようになるといいのですが……ちょっと飛躍していますかね。
【青木】 胸を張って自分らしくASらしく生きていくことは大事なことです。自分なりのこだわりは大切に,楽しみつつ生きていく。些細なこだわりをいっぱい作りながら,大きな問題を回避するとかね。こだわりは生きる戦略としてすごく役に立つ。
【本田】 そういう文化をわれわれが作っていきたいですね。もちろん,障害として,治療や福祉ケアが必要な人たちには対応していくけれど,そういう人たちがスティグマを抱えなくて済む社会の風土を作っていくことは, とても大事だと思います。
(「育てる会会報 299号」(2023.3)より)
-----------------------------------------------------------------------------------
-----------------------------------------------------------------------------------
目次
はじめに 本田秀夫
第Ⅰ部 序論
特異な選好(preference)をもつ 種族(tribe)としての自閉スペクトラム 本田秀夫
知ることからはじめる
― ASDの診断から自己理解とアイデンティティの再構築へ 大島郁葉
第Ⅱ部 ASを理解する
自閉スペクトラムのパーソナリティ 青木省三
ASの人たちの感覚 青木悠太
AS/ASDをめぐるスティグマ 鳥居深雪
第Ⅲ部 AS/ASDを診断・告知する
AS/ASDを診断する 内山登紀夫
AS/ASDの告知 大島郁葉
第Ⅳ部 ASのメンタルヘルスを理解・支援する
ASとアタッチメント - 症状論・支援論 田中 究
ASとトラウマ - 症状論・支援論 桑原 斉
ASと強迫 - 症状論・支援論 中川彰子
ASと不安 - 症状論・支援論 村上伸治
ASと抑うつ - 症状論・支援論 阿部隆明
ASと,双極Ⅱ型障害 - 症状論・支援論 鷲塚伸介
ASとアディクション 小林桜児
自閉スペクトラムの子どもや若者とインターネットやゲームの世界 関 正樹
第Ⅴ部 ASのメンタルヘルスをケアする
心理・行動のケア① [環境調整]
合理的配慮と環境調整 渡辺慶一郎 榎本眞理子
TEACCH 岡東歩美 宇野洋太
心理・行動のケア② [自己理解]
CBT/ACAT 大島郁葉
マインドフルネス/ACT 杉山風輝子 熊野宏昭
心理・行動のケア③ [行動変容]
PEERSⓇ ― 友だち作りのSSTの可能性 山田智子
行動活性化/シェイピング 温泉美雪
社会参加のケア
就労・生活のケア 志賀利一
大人の自開スペクトラムにおける産業メンタルヘノレス 横山太範
学生相談 石垣琢麿 川瀬英理
デイケア・ショートケアプログラム 太田晴久
余暇活動支援 日戸由刈
自助グループ 片岡 聡
ピアサポート 綿貫愛子
第Ⅳ部 ASの世界を知る
[座談会] AS特性をめぐるクロストーク
青木省三 大島郁葉 桑原 斉 日戸由刈 / 本田秀夫 [司会]
当事者エッセイ ① ― 私のASD性質を周囲が受け入れてくれる理由 なな
当事堵エッセイ ② ― 就労移行支援所との関わりを中心に pine
おわりに 大島郁葉