くらげ:著、寺島 ヒロ:漫画、梅永 雄二:監修 GAKKEN 定価:各 1400円 + 税(2013.9・2015.7)
私のお薦め度:★★★★☆
来年度、令和4年度の即実践講座は、今年度11月にもハワイから生中継によるセミナーをお願いした梅永雄二先生プロデュースによる講座に決定いたしました。
梅永先生をはじめ、会報284号のお薦め本「構造化のための支援ツール」の著者の縄岡好晴先生など、新進気鋭の若い専門家チームの方による連続講座です。
詳しい内容は今月同封のチラシをご覧いただきたいのですが、その紹介のためにネットで梅永先生の書籍を検索していて見つけた本です。
前置きが少し長くなりました。本書は「障害者カップルのドタバタ日記」「一緒に暮らして毎日ドタバタしてます!」とあるように、お互い障害を持つ二人、「くらげ」氏と「あお」さんカップルが日々くりひろげる日常をコミカルに描いた漫画+エッセイ集です。
梅永先生は監修者として、そのドタバタがどこから来ているのか、説明や補足を分かりやすく随所に書かれていらっしゃいます。
作者の「くらげ」氏は、障害といっても人工内耳をつけられた聴覚障害をもつ身長185cm、体重100kgオーバーという、心やさしき“大男”さんです。そして彼女となるのが、身長153cm、肌が過敏で男物の服しか着れないので、よく男子中学生に間違えられるという発達障害をもつ「あお」さんです。
絵は、二人のよき理解者である寺島ヒロ氏によるものですが、サイズの違いこそあるものの、昔のゲームに出てくるような二頭身キャラのカップルのドタバタに、思わず笑ってしまいます。そんな漫画の後に、「くらげ」氏の解説エッセイが続くという構成です。
漫画の面白さは、文章では紹介しづらいので、雰囲気だけは表紙の絵から読み取ってください。
ここでは、エッセイの方だけ紹介します
どうもあおには、「夏服」「冬服」は理解できても、「春服」「秋服」というのは頭にない模様。
あおの中には「何月何日までは夏服を着続けて、その日以降は冬服を着なければならない」というルールがあるのです。
くらげ「普通、服って外の気温に合わせて調整するもんだと思うんだけど」
あお 「いやね、暑いのはわかるんだけど、ほかの服を着ると不安になるというか。あと二週間は
この冬の格好じやないと嫌なんだよね。なんか決まつてるの」
くらげ「暑い寒いよりも、そういう決まりのほうが優先されるの?」
あお 「そんな感じ。あと、あんたもいつも暑い暑いって言つてるけど、あんたはとっとと肉を脱
げ、ぜい肉を」
と、ボクの腹をギューっと握つてくるのです。
こんな風に、日々の日常には発達障害ならでは苦労話がたくさんありますが、それを上回る二人の軽妙なやりとりで笑い話に変えて乗り越えていきます。もちろん、こんなやりとりは普通のカップルでは当たり前で、こちらも「イチャイチャすんな!」と言ってしまいそうなことかもしれませんが、それだけ「くらげ」氏と「あお」さん、読者に障害を意識させない、普通のカップルだということなのでしょう。
ただ、発達障害をもつ人の場合、コミュニケーションや社会性に苦手な部分があるため、この“やりとり”でもつまづいてしまうことがあります。
「あお」さん、友達に「この服似合う」と聞かれて、素直に「似合わない」って答えて、友達を怒らせてしまったそうです。
あおは、その場その場に合わせた言葉を使うというのがとても苦手です。
あおの友人いわく「あなたは言葉のキャッチボールではなく、言葉のドッジボールをしている」と言われたようですが、それを聞いたとき、思わず膝を打ってしまいました。
くらげ「ああ、確かにあおの言葉は、人を殴りつける効果があるときがあるかもなぁ」
あお 「どういうこと?」
くらげ「きみは思つたことをストレートに言うから、人によっては毒舌と受け取るかもね」
あお 「毒舌のつもりは全くないし、本当にその人のためを思って言ってるんだけどな」
くらげ「その『人のため』が逆に摩擦を生むことがあるから、コミュニヶーションって難しいんだ。きみはボールを思い切り投げつけているタイプ。それを受け止められる人じやないと痛いよ」
あお 「なら、あんたはなんで私と普通に付き合ってるわけ?」
くらげ「ん―、聴覚障害者もかなリストレートな表現になることが多いから、それで慣れてるのも
あるし、きみが本当にボクのことを考えて言つてるというのがわかるからね。
あと、きみのストレートな表現がおもしろいことも多いしね―」
あお 「えヘヘー」
というわけで、ボクはあおの毒舌(?)のドッジボールを全身で受け止めながら、コミュニケーションを楽しんでおります。
「言葉のドッジボール」、本当に言いえて妙ですね。キャッチボールは、相手が取りやすいように、やさしいスピードで、胸元めがけて投げてあげます。でも、ドッジボールは相手が取れないように、全力で力一杯に相手に向かって投げてしまいます。
一緒に言葉のドッジボールを楽しんでいると思えば、発達障害を持つ方とやりとりする時は、こちらも「くらげ」さんを見習って、少々取りにくい玉でもしっかりと受けとめてあげたいですね。
もちろん、発達障害の人と、真剣につきあうということは、楽しいことばかりではありません。彼ら、彼女たちが苦手とすることはたくさんありますし、追い詰められればパニックを起こしてしまうこともあります。
少し長くなりますが、そんなエピソードを紹介します。
ボクもあおも“子どもの声”が苦手です。特に赤ちゃんの泣き声を聞くと頭が痛くなってしまうのです。これは子どもが嫌いというわけではなく、純粋に物理的に苦手という話なのですが。
そのため、ファミリーレストランに行く場合は、いつもあまリファミリー客のいない時間帯を狙います。
しかし、その日はたまたまファミリー客が多く、満席でした。店員から「申し訳ありませんが、お名前を書いてお待ちください」と言われ、店内はかなりざわざわしていましたが、別の店に行くのも面倒なので待合席に座って待っていました。
しばらく待つていたところ、ひときゎ大きい子どもの泣き声と、それを叱る親の大声が店内に響き渡りました。
「これはマズい ! 」と思つて、あおの様子を見ようとした瞬間・・・・・あおはボクの腕に全力でかみつきました。
あおは、いつもはスムーズに入れるレストランに入れなかったことと、店内のざわざわした雑音で、すでに軽いパニツクを起こしていました。そこに、苦手な子どもの泣き声と叱責が聞こえたことで、本格的な混乱を起こしてしまいました。
必死に泣き叫ぶのを我慢するあまり、ボクの腕を思い切りかんだのです。
かなりの激痛にボクは軽く悲鳴をあげましたが、目を丸くしている周囲の客や店員をよそに「すいません!」と声をかけつつ、あおを抱きかかえるようにして外に出ました。
そのままあまり人のいない路地に座らせると、あおは茫然自失で、涙を流していました。その状態に無理に声をかけるとますます混乱する場合があるし、心配した通行人から声をかけられてパニックがひどくなるのを防ぐため、周囲から見られないようにカバーしながら泣きやむのを待ちました。
泣きやんだあおに声をかけたところ、「ごめん・・・・・」と小声で返事がありました。
それ以降、外食する際は必ずボクが先に入り、席が空いているか確認してからあおを店に入れるようになりました。また、子どもが多いときは入店しない場合もあります。
とにかく、先回りをして、危ない兆候を見逃さないこと。これがきちんとできれば、あおのパニツクもだいぶ軽減するのかな、と思った事件でした。
思い切りかみつかれた歯型はしばらく残つていて、そのときの痛みは今でもよく覚えています。
このパニックが再び起きないように教訓として、そして、あおがその場で叫ばずに必死に耐えたあかしとして、ちゃんと覚えておきたいと思うのです。
聴覚障害の人には、補聴器や「くらげ」さんのような人工内耳、また手話や筆談、視覚障害の人にはメガネや白杖、点字、盲導犬など、下肢障害の人には義足や車椅子、発達障害の人には構造化や視覚支援、それぞれ必要とするモノは違いますが、どの障害にとっても一番ほしいのは、理解者、支援者ではないでしょうか。
「あお」さんにとって、「くらげ」さん、「くらげ」さんにとっては「あお」さんがそんな存在になっているようで、大変だったけれど、心温まるエピソードだと思いました。
このエッセイ本を、障害者同士の割れ鍋に綴じ蓋と言ってしまえば、それこそ身も蓋もないのですが、世の中、完璧な人はめったにいないように、誰しも欠点も持っていて、どこかの障害スペクトラムの裾野にいると思います。我が家も夫婦でADHDとアスペルガー症候群の山の裾野・・・ではなく、それぞれ中腹あたりにいると自覚しています。
そんな視点で、改めて本書を読み返すと、ドタバタ劇を笑っているだけでなく、お互いがお互いの理解者になることが、障害の有無に関わらず大切にしていかなければいけないことのように感じさせられました。
追記:本書は2013年・2015年に発行された本です。それから7年、今のお二人の生活を知りたい方は、「くらげ」さんのツィッター https://twitter.com/kurage313book をご覧ください。
妻になられた「あお」さんとの都内での暮らしや、本書の漫画を担当された寺島ヒロさん(二人の発達障害のお子さんを持つお母さんだそうです)との対談が現在進行形で続いています。
(「育てる会会報 286号」(2022.2) より)
--------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------
「ボクの彼女は発達障害」(2013.9)
- 障害者カップルのドタバタ日記 -
もくじ
はじめに
登場人物紹介
第1章 身だしなみといろいろな先入観
① かわいい服が着られない!?
② 服を買いに行ったらパニック!
③ 化粧ができないよ
④ メガネにはこだわる
梅永先生のメッセージ ①
コラム くらげとあお、二人の出会い
第2章 お出かけでドタバタ
⑤ チ∃イスができない!
⑥ チョイスしたらそれがパターンに
⑦ いつものレストランが満席でパニツク!
⑧ 「お金を大事に使う」ってどういうこと?
⑨ 財布の中は小銭だらけ!
梅永先生のメッセージ ②
コラム 発達障害の日常をイメージするには
第3章 日常生活、あれもこれも
⑩ 毒舌の理由
⑪ メガネで人を認識してはいけない
⑫ 振り込め詐欺でパニック!
⑬ 朝専用コーヒーは朝しか飲んじゃダメ?
⑭ 確認することを確認するのを忘れる!
⑮ 子どもが怖い!
梅永先生のメッセージ ③
コラム 1 あお、診断を受ける
2 あお、診断を受けて変わったこと
3 あお、親にカミングアウトする
身近な人たちがまず理解して・・・監修・梅永雄二
特別ではなく普遍的なふたり・・・漫画家・寺島ヒロ
おわりに
-------------------------------------------------
「ボクの彼女は発達障害 2」(2015.7)
- 一緒に暮らして毎日ドタバタしてます! -
もくじ
はじめに 自己紹介
第1章 二人の感覚は違っている!?
① 人に頼むのは難しい?
② 時間どおりに着かないが当たり前
③ 自分の体はどこまで?
④ 体の硬さは心の硬さ?
⑤ スケジュール管理は力まかせ
⑥ 「普通」ってなんだろう?
第2章 「ありのまま」でいられない
⑦ ストーリーがわからない
⑧ 時間はつながらない
⑨ 耳せんで快適生活
⑩ 地図が読めない
⑪ 鏡が怖い
⑫ 美しさの価値基準
⑬ 人間関係はフォルダ分け
⑭ 「普通」に見えるという難しさ
第3章 就職活動はドタバタ!
⑮ 履歴書には何を書く?
⑯ マニュアルにないときは!?
⑰ 就労への移行支援 その1
⑱ 就労への移行支援 その2
⑲ 働き方は人それぞれに
第4章 一緒に住んで変わった
⑳ 引っ越し大作戦
㉑ どつちが安い?
㉒ 仕事を休むの怖い その1
㉓ 仕事を体むの怖い その2
㉔ できること、できないこと
くらげとあお ある日の会話 ①
くらげとあお ある日の会話 ②
くらげとあお ある日の会話 ③
くらげとあお ある日の会話 ④
コラム ・・・ 梅永雄二
文章によるコミュニケーシ∃ンを
役に立つ機器は積極的に使ってみる
支援者とともに苦手な面接を受ける
できないことは代替えの手段で対応
監修者より ・・・ 梅永雄二
おわりに