発達障害の子どもの生活の工夫と伸ばす言葉がけ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

田中 康雄:監修 西東社 定価:1400円 + 税

 

         私のお薦め度:★★★★☆

以前会報194号(2014年6月)で紹介した田中康雄先生の「発達障害の子どもの心と行動がわかる本」の続編です。前著と同じく「イラスト図解」でフルカラーのイラストも多くて、きれいで、読みやすい本となっています。

前著は、発達障害の特性やそれに対する関わり方の解説が書かれていたのに対し、本書ではそのあたりは最小限にして、具体的な困っていること、気がかりなことへの対処の方法が中心となっています。
いわば、発達障害の子ども生活へのハウツー本といった印象です。


続編である本書は『発達障害の子どもの心と行動がわかる本』の続編となります。前の本は、「発達障害の特性」をまずざっくりとご理解いただければという思いで構成しました。
続編である本書は、個々の発達障害に応じた関わりではなく、ひとりひとりの子どもの言動に、親や関係者が、どのように理解して関わっていけばよいか、という視点でつくったものです。その言動の項目はひじょうに多岐にわたり、生活支援のためのアイデアにあふれた内容になっています。時間的に余裕のある方は1章から読み進めていただきたいのですが、今、目の前のことで苦労し疲れている方には3章に該当する項目がないか探していただき、ピンポイントで読んでいただければと思います。 (「はじめに」より)


ここに書かれているように、本書は3章「その子らしさを大切にした「生活の工夫」と「言葉がけ」」がページの7割以上を占める、具体的な対処法の本です。
下の目次の中から、それぞれのお子さんの、今、気になっている項目を選んでいただければ、生活を楽にする工夫が書かれています。具体的な項目も50個ほどもありますから、困った行動へのヒントは必ず見つかると思います。

「夜、なかなか寝てくれません。眠っても夜中に目が覚めてしまいます」
「下品なことをくり返し言います。お友だちがいやがることも平気で言ってしまいます」
「こだわりが強く、突発的なことがあると混乱してしまいます」
「少しでも濡れたり、汚れたりすると着替えたがります」
 ・・・etc.

自閉症児の子育てをしていると、当てはまることも多いのではないでしょうか。もちろん、自閉症児は人それぞれ大きく違っていて、ときには正反対の行動を引き起こすこともありますか、全てにあてはまる子もいないと思います。

たとえば、
「ルールに厳格です。ルールを守らないお友達を怒ります」
「ルールを守りません。順番が待てません」・・・どちらも聞いたことがありますね。


本書では「それぞれ理由があるはず」と発達障害の特性をもとに考え、対応の工夫を提案していただいています。

「発達障害は個性の延長線上にあります」


誰にでもある得手不得手や、とても個性的な感じ方、感覚の過敏さや鈍感さなどが、生活し続けることを難しくしてしまうことがあります。
その個性的な特性を、医学的に説明しようとしたのが「発達障害」という名称だと考えてよいでしょう。その意味では「生活障害」「生きづらさ」というほうが的確かもしれません。
「発達障害」は、個性の延長線上にあり、けっして異質のものではありませんが、適切な理解と応援がないと、生活のしにくさは強くなります。反対に、理解と応援が十分にあれば、生活はしやすくなります。


本書がとても読みやすく感じるのは、子どもの行動の理由を断定するのではなく、筆者の言葉を借りれば、まず気づきから「仮の理解」を想像し、そこから仮説を立ててみて対応していこう、という “流れ” にあると思います。

 

自閉症児の子育てでは、いろいろ工夫してみても、いつもうまくいくとは限りません。むしろ失敗することの方が多いのかもしれません。
そんな時、「仮の理解」で、○○かもしれない、△△かもしれない、もしかしたら□□かもしれないな、とたくさん「仮の理解」をしておけば、うまくいかない時には、すぐに別の仮説を立てて対応を変えることができますね。


本書で、いろんなヒントや対応法がイラストで紹介されていますが、その随所に書かれているのは「※ あくまでも一例です」の一文です。

やってみてうまく行けばいいのですが、だめな場合は別の「仮の理解」まで戻って、我が子に合った方法を“自分で”工夫してみてください、の意味を込めた注釈だと思います。

また、本書は長年、自閉症児の支援にあたられてきた田中先生の監修ですので、これまで見逃してきがちだった「生活の工夫」のヒントもたくさんあります。
例えば、トイレに上手に行けない場合、トイレのカードを作ったり、トイレを明るくしたり、好きなものを置いたりする工夫はよく聞きますが、本書では「トイレの使い方が分からないのでは」という仮の理解から、トイレに入ってからの手順書をイラストでトイレに貼ってみることを「※ あくまでも一例です」と紹介されています。

風呂での身体の洗い方、歯みがきの仕方、トイレの掃除の手順書などは見かけますが、トイレの使い方の手順書までは気がまわりませんでしたね。


他にも、スーパーで走り回って、日々の買い物をするのに困っているお母さんには「子どもの落ち着きのなさは、成長とともに落ち着いてくることが多い」と割り切って、この時期は無理をせずに、ネットスーパーや生協のサービスを利用するのも一つの方法と提案されています。
ブロックなどで完成させたおもちゃを片付けるのを嫌がってぐずる場合には「例えば「写真に撮って、実物は片付ける」というルールにしておくと、片付けやすく、後から作品を見ることもできます」
これなど、思い出の品がなかなか捨てられない大人が、断捨離するときのテクニックで紹介されることもありますが、今はスマホで簡単に写真も撮れますので、目の前のおもちゃを片付けて、次に進むときにも簡単に応用できそうですね。

こんな風に、個別の困ったことには「理由を探る」「スモールステップ」「環境を整える」「見て分かる工夫」「言葉がけ」「やる気を引き出す」など、即、生活に役に立つ“ハウツー本”ですが、その分、基となる発達障害の特性の理解や、一貫した子育ての方向性などは省略され、物足りないように感じられるかもしれません。
その際には、最初に紹介した前著「発達障害の子どもの心と行動がわかる本」と2冊セットで手元におかれることをお薦めします。

以前会報でも紹介した、前著「発達障害の子どもの心と行動がわかる本」に書かれていた一節です。

とても参考になると思えるので、もう一度紹介します。


○ 子どもがかわいいと思えないときは


子どもがかわいいと思えないときは、親御さんががんばりすぎて余力がなくなっているのかもしれません。自分の時間を作る工夫も大切です。
「子どもに愛情がもてない」のではなく、「疲れすぎていて子どもに愛情をもつ余裕がない」だけなのだと思います。


同様のことが本書でもアドバイスされています。


○ お家の人と一緒だと楽しいというところからはじめてみましょう。


ただし、お家の人が子どもとの時間を楽しむためには、お家の人自身の心身に余裕がなければできません。
発達障害の特性をもつ子どもとの日々は、思うようにならないことが多く、懸命に向き合うほど、悩みが深くなりがちです。もし、そのお家で、子どもと過ごす時間が最も多い人がお母さんであれば、お母さんが十分に休息できる環境を整えることが必要です。家事はほかの家族で分担したり、ねぎらいの言葉をかけたりするなど、家族全員で協力することが欠かせません。


ここは、お父さんの出番のようですね。そして最後にお母さんへのアドバイスです。


疲れているときは、子どものいいとろを見つけにくくなるものです。
周囲のサポートを受けて、積極的に休息をとりましょう。 

 

               (「育てる会 285号」 (2022.1) より)

 

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目次

  はじめに
  この本の使い方

1章 その子がのびのびと安心してくらすために大切にしたいこと

  「こうすればうまくいく」という生活の工夫が大切です
  子どもからのメッセージに気づきましょう
  その子が得意なことに注目して「生活の工夫」をしていきましょう
  お家の人と一緒だと楽しいというところからはじめてみましょう
  困ったら周囲の人に聞くという経験を重ねていきましょう

2章 発達障害の特性について正しい知識をもちましょう

  その子に合う「生活の工夫」のために発達障害の特性を正しく知りましょう

   「なんだかうまくいかない・・・」の背景にあるある発達障害の特性
     ●人と目を合わせることが苦手です
     ●コミュニケーlションがうまくとれません
     ●目に見えないことを理解するのが苦手です
     ●音声だけだと記憶に残りにくいです
     ●こだわりが強いことがあります .
     ●さまざまな感覚にかたよりがあります
     ●不安や緊張を感じやすいです
     ●あいまいな表現はわかりにくいです
     ●一度に複数のことをするのが苦手です
     ●じっとしていることが苦手です/忘れっぽいことがあります・
     ●感情や欲求のコントロールが苦手なことがあります
     ●特定の勉強が苦手なことがあります

3章 その子らしさを大切にした「生活の工夫」と「言葉がけ」

  生活習慣
    夜、なかなか寝てくれません。眠っても夜申に目が覚めてしまいます
    朝、なかなか起きてくれません。無理に起こすと機嫌が悪くなります
    着替えや歯みがきなど朝の身じたくに時間がかかります
    食事をパクパク食べてくれません。好き嫌いも激しくて・・・
    園や学校の準備をひとりでテキパキしてほしいのですが・・・
    トイレにタイミングよく行けません。おもらしをしても気にしないようです
    お風呂に入りたがりません
    お風呂ですることがわからないようです
    身だしなみを気にしません。同じ服を何日も着ようとします

  人とのかかわり
    下品なことをくり返し言います。お友だちがいやがることも平気で言ってしまいます
    一番じゃないと気がすみません。勝ち負けにこだわります
    ひとりで遊んでいることが多く、同年代の子どもとも一緒に遊びません
    集団行動が苦手です。遠足にも行きたがりません
    お友だちに近づきすぎたり、何度も「遊ぼう」としつこく聞いたりします
    叱られているのにケロッとしています
    冗談で言われたことを真に受けてしまいます
    ルールに厳格です。ルールを守らないお友だちを怒ります
    ルールを守りません。順番が待てません
    思い通りにいかないと物を投げたり、たたいたりします

  外出先での気がかり
    電車でのマナーをどう伝えたらいいでしようか
    病院で大泣きするのでは・・・と心配です
    外出先のトイレが上手に使えません
    入ってはいけない場所、さわってはいけないものを伝えるには・・・
    スーパーなどでさわぐので、落ち着いて買い物ができません
    よく子どもが迷子になりますが、泣いたりせずケロッとしています

  気になる言動
    園や学校に行きたがりません。理由もわかりません・・・
    あいさつができません。ありがとうやごめんなさいが言えません
    動きがとても激しいです。外出時に手をつなぐこともいやがります
    これくらいはできるのでは・・・、と思うことができません
    お手伝いをしてくれません。手伝ってくれてもあまりうまくいきません
    遊んだおもちゃを片づけません。引き出しの中も物でいっばいです
    やりっばなしが多いです
    落ち着きがありません。立ち歩いたり、教室を出ていったりもします
    うそだとわかるうそをつきます。やったことをやってない、と言います
    何度言っても、言うことをききません。してほしくないことをくり返します
    こだわりが強く、突発的なことがあると混乱してしまいます
    失敗することをとてもいやがります
    高いところにのぼったり、急に走りだしたり、危険なことをします
    気持ちを切り替えられません。声をかけても、すぐに取りかかりません
    急に大声で泣きわめきます。大暴れすることもあります
    固まってしまうことがあります。どうしてほしいのかもわかりません
    身体を動かす遊びが苦手です。不器用なところも気になります
    姿勢が崩れやすく家具に身体をぶつけることがあります
    手先が不器用です。食べこぼしの多さも気になります
    大きな音や特定の音をいやがります
    何度注意しても水を出しっぱなしにします
    少しでも濡れたり、汚れたりすると着替えたがります
    なくしものが多く、忘れ物も多いです
    勉強がわからないようです

  コラム 遅刻をくり返してしまうときは・・・

4章 園や学校とつながり合うためにできること

    園や学校での子どもの様子を知るにはどうしたら?
    先生と連携し合うためには・・・
    子どもが園や学校で理解されていないと感じたら・・・
    お友だちとトラブルを起こしてしまったときは・・・
    園や学校に行くのをしぶりはじめたときは・・・
    いじめられているようです
    子ども本人が自分の思いを伝えるためには・・・

  寄り添い続けるお家の人へのエール
    お家の人が十分に休息でき、ねぎらわれることが必要です
    その子の成長をゆっくりと待つことも大切です
    気持ちを切り替えられるスイッチを複数もちましよう

  さくいん