ケーキの切れない非行少年たち | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

宮口 幸治:著 新潮新書 定価:720円 + 税 (2019.7)

 

         私のお薦め度:★★★☆☆

 

今月は発達障害についての専門書ではないのですが、新書版のベストセラーとなり、私も気になって手に取った「ケーキの切れない非行少年たち」を紹介します。


筆者は児童精神科医で、公立病院で発達障害や知的障害を持つ子ども達の診療や支援に係わった後、医療少年院で法務技官として非行少年達の指導を行ってきた経験をお持ちです。
認知機能の強化トレーニングをはかる「コグトレ」の提案者としてご存知の方もおられると思います。


コグトレについては、筆者による実際の教本もたくさん出されていますので、興味のある方はお読みいただくとして、本書はその宮口先生が、少年院で出会った認知能力に弱みのある少年達の話です。

タイトルの「ケーキの切れない」というのは、ケーキを3等分するという課題において、表紙についている帯の図のように、ナイフで切ろうとしてしまう子どもたちの話です。

筆者は病院と少年院という、環境の異なった施設で診察にあたってこられたわけですが、その根っこは同じであると感じられていました。

 

同じ発達障害の子でも病院とは全く違う(少年院)ことが問題になっていたこと、病院を受診する児童・青年は比較的恵まれた子どもたちであることなども知りました。もちろん虐待を受けた子どもたちもいましたが、基本、病院には保護者や支援者がいるからこそ連れてこられるわけです。

問題があっても病院には連れてこられず、障害に気づかれず、学校でイジメに遭い、非行に走って加害者になり、警察に逮捕され、更に少年鑑別所に回され、そこで初めてその子に「障害があった」と気づかれる、という現状があったのです。現在の特別支援教育を含めた学校教育がうまく機能していなかったのです。(「はじめに」より)

 

病院で告知を受け、その後の療育に繋げることができた子ども達は恵まれていたのですね。
一歩間違えば、別の道に陥ったかもしれなかったわけですから・・・これからも大切に子育てしていきましょう。

 

そんな子育て、私たちは発達障害を持つ子どもたちの療育にあたり、特性に配慮し苦手なところに無理に働きかけるのではなく、得意なところを認めて、褒めて伸ばしていこうというのを基本にしてきたと思います。

苦手なところは、環境調整などにより補って、本人が無理をしなくてすむよう、生きやすいようにしていこうという姿勢だと思います。


一方で、本書では認知機能が発達していない子ども達には、それだけでは不十分ではないかと指摘しています。

 

例えば、週に1回忘れ物をしてくる子どもがいるとします。これを「いつも忘れ物をしてくる」と見るか、逆に「週のうち4日は忘れ物をしてこない」と見るかで子どもへの対応は変わってきます。現代の「褒める教育」は忘れ物を注意するのではなく、ほとんど忘れていない点に注目してそこを褒めて強化するスタイルです。確かに褒めてよくなることはあります。しかし、それでも週に1回忘れ物をするという状況が何も変わらないとしたら、褒めることよりも、忘れ物をしないような注意・集中力をつけさせないと問題は根本的に解決しないのです。こうした問題が発生している場合の「褒める教育」は、問題の先送りにしかなりません。

 

そして、認知機能を伸ばすためのトレーニングが必要だと述べられています。
結論から言えば、それができるのが「点つなぎ」や「形さがし」、「記号探し」など、ゲーム感覚で、抵抗なく行える「コグトレ」ということになるのですが、注意してほしいのは、ここでいう認知機能を高めるための訓練の対象児は、発達障害というよりも、むしろ診断名のつかない、境界児が中心であるということです。筆者曰くの「クラスの下から5人」の子ども達です。


確かに、「忘れ物をしないような注意・集中力をつけさせないと」というのは、ADHDなどの発達障害をもつ子どもにとっては酷な話で、それよりは忘れ物をしないですむような、本人にも分かるような工夫をして助けてあげるのが親としての役割のように思えます。
一方で、忘れてきてしまった後の、学校の先生にとっては、認知機能を高めることで忘れ物をする子が減るのなら、教育の成果ですから、学校で「コグトレ」の人気があるのは分かる気がします。

 

クラスで下から5人程度は、かつての定義なら知的障害に相当していた可能性もあったのです。もちろん話はそんな単純ではありませんが、現在の学校では、このようにクラスで下から5人の子どもたちは、周囲から気付かれずに様々なSOSのサインを出している可能性があるのです。
通常、クラスの中にはADHD(注意欠陥多動症)やASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)といった診断がついている子どもたちがいることがあります。診断があれば周囲からの理解はまだ得られやすいのですが、クラスで下から5人は困っているにもかかわらず診断がつくことはありません。病院に行って色々検査を受けても、IQが70以上あれば「知的には問題ありません。様子をみましょう」と言われ、何らかの支援を受ける機会を逃しているのです。
ただ、そもそも知的障害自体は病院の治療対象ではありませんので、軽度知的障害であっても気づかれる場合は少なく、診断がつくことも少ないのです。

 

ただし、だったら本書は「境界知能」の子ども達が対象で、ASDの診断をもらっている我が子には関係ないから、読む必要はない・・・と安心するのも、少し早いと思います。
発達障害児にとっても、認知機能に弱さなどをもつのは特性の一つだからです。
ここで筆者は「非行少年の特徴5点セット +1」として、特徴をまとめられています。

 

・認知機能の弱さ・・・見たり聞いたり想像する力が弱い
・感情統制の弱さ・・・感情をコントロールするのが苦手。すぐにキレる
・融通の利かなさ・・・何でも思いつきでやってしまう。予想外のことに弱い
・不適切な自己評価・・・自分の問題点が分からない。自信があり過ぎる、なさ過ぎる
・対人スキルの乏しさ・・・人とのコミュニケーションが苦手
+1 身体的不器用さ・・・力加減ができない、身体の使い方が不器用


以降、この「5点セット +1」それぞれについて説明していきます。
なお「+1」の身体的不器用さについては、小さい頃からスポーツ等を経験し身体能力が優れ、不器用さが当てはまらないケースもあるためあえて「+1」としています。

 

これが5点セットで揃ってしまえば非行への入り口となってしまうのかもしれませんが、この内、2~3点の特徴だったら、我が子達にもあてはまるのではないでしょうか。


そして本書では、それぞれの特徴の詳しい解説と、対処の方法について具体的に述べられていますので、非行や二次障害への予防的な意味で一読しておくのもお薦めしたい一冊となっています。 

 

            (「育てる会会報 269号」(2020.9)より)

 

-------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-------------------------------------------------------

目次

 

  はじめに

 

第1章 「反省以前」の子どもたち

 

  「凶暴で手に負えない少年」の真実
  世の中のすべてが歪んで見えている?
  面接と検査から浮かび上がってきた実態
  学校で気づかれない子どもたち
  褒める教育だけでは問題は解決しない
  1日5分で日本が変わる

 

第2章 「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年

 

  ケーキを切れない非行少年たち
  計算ができず、漢字も読めない
  計画が立てられない、見通しがもてない
  そもそも反省ができず、葛藤すらもてない
  自分はやさしいと言う殺人少年
  人を殺してみたい気持ちが消えない少年
  幼児ばかり狙う性非行少年

 

第3章 非行少年に共通する特徴

 

  非行少年に共通する特徴5点セット+1


  【認知機能の弱さ】見たり聞いたり想像する力が弱い
  「不真面目な生徒」「やる気がない生徒」の背景にあるもの
  想像力が弱ければ努力できない
  悪いことをしても反省できない


  【感情統制の弱さ】感情を統制できないと認知機能も働かない
  ストレス発散のために性非行
  “怒り”の背景を知らねばならない
  “怒り”は冷静な思考を止める
  感情は多くの行動の動機づけである


  【融通の利かなさ】頭が硬いとどうなるのか?
  BADS(遂行機能障害症候群の行動評価)
  学校にも多い「融通の利かない子」
  融通の利かなさが被害感につながる


  【不適切な自己評価】自分のことを知らないとどうなるのか?
  なぜ自己評価が不適切になるのか?


  【対人スキルの乏しさ】対人スキルが弱いとどうなるのか?
  嫌われないために非行に走る?
  性の問題行動につながることも


  【身体的不器用さ】身体が不器用だったらどうなるのか?
  不器用さは周りにバレる
  身体的不器用さの特徴と背景

 

第4章 気づかれない子どもたち

 

  子どもたちが発しているサイン
  サインの「出し始め」は小学2年生から
  保護者にも気づかれない
  社会でも気づかれない
  「クラスの下から5人」の子どもたち
  病名のつかない子どもたち
  非行化も懸念される子どもたち
  気づかれないから警察に逮捕される

 

第5章 忘れられた人々

 

  どうしてそんなことをするのか理解不能な人々
  かつての「軽度知的障害」は人口の14%いた?
  大人になると忘れられてしまう厄介な人々
  健常人と見分けがつきにくい
  「軽度」という誤解
  虐待も知的なハンディが原因の場合も
  本来は保護しなければならない障害者が犯罪者に
  刑務所にかなりの割合でいる忘れられた人々
  少年院にもいた「忘れられた少年たち」
  被害者が被害者を生む

 

第6章 褒める教育だけでは問題は解決しない

 

  褒める教育で本当に改善するのか?
  「この子は自尊感情が低い」という紋切り型フレーズ
  教科教育以外はないがしろにされている
  全ての学習の基礎となる認知機能への支援を
  医療・心理分野からは救えないもの
  知能検査だけではなぜダメなのか?
  「知的には問題ない」が新たな障害を生む
  ソーシャルスキルが身につかない訳
  司法分野にないもの
  欧米の受け売りでは通用しない

 

第7章 ではどうすれば? 1日5分で日本を変える

 

  非行少年から学ぶ子どもの教育
  共通するのは「自己への気づき」と「自己評価の向上」
  やる気のない非行少年たちが劇的に変わった瞬間
  子どもへの社会面、学習面、身体面の三支援
  認知機能に着目した新しい治療教育
  学習の土台にある認知機能をターゲットにせよ
  新しいブレーキをつける方法
  子どもの心を傷つけないトレーニング
  朝の会の1日5分でできる
  お金をかけないでもできる
  脳機能と犯罪との関係
  性犯罪者を治すための認知機能トレーニング
  被虐待児童の治療にも
  犯罪者を納税者に

 

  おわりに