「発達障害」だけで子どもを見ないで その子の「不可解」を理解する | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

田中 康雄:著 SB新書 定価:850円+税 (2019.12)

 

              私のお薦め度:★★★★☆

 

これまで私たちは、自閉症の子どもたちへの支援を考えるとき、「早期発見、早期療育」を大切にしてきました。
また支援を始める前のアセスメントにおいても「まず自閉症から考える」ということで、知的障害の有無にかかわらず、自閉症の特性から引き起こされる行動を抽出、考察してきたように思います。


それはそれで間違っているとは思わないのですが、本書の中で田中先生は「自閉症のA君、発達障害を持つBさん」という見方ではなく、一人の子どもとしてのA君、Bさんをしっかりと見て、そのA君、Bさんが困っていることを助けてあげるためには医者として何ができるか・・・そんな視点で書かれています。

 

本書では乳児期から学童期までの、12人のお子さんのユニークなストーリーが紹介され、その行動をどう捉えて、どう接していくかが描かれています。

 

ストーリーの中では、発達障害に特化したアドバイスというよりも、「その子と楽しく生きて行くためにはどうしたら?」ということを考えていきます。
お父さん、お母さんがその子とつき合って、子育てしていくことを楽しいと思ってもらいたい、元気になってもらいたいというのが一番の願いです。
子どもの行動を「不可解」と感じ、途方に暮れている親御さんに、「こんなふうに想像してみたらどうでしょうか?」「あるいはこんな思いかもしれませんよね」という提案をすることで、親御さんが「わが子の気持ちを理解できない」と自分を責めたり、落ち込んだり、育児を放棄すらしたくなるような事態を、ほんの少し踏みとどまることができればよいなと思います。 

 

専門家が大切にしたいのは、親が笑顔を取り戻すことができるようなかかわりを続けること。幻想ではなく希望を処方することだと、僕は思っています。

 

例をあげると、トンボを追いかけて何時間でも原っぱを走り回っていたり、ミニカーをきちんと並べて素敵な笑顔を見せている我が子をとてもかわいいと思っていたお母さん。
そんな様子を「自閉症によるこだわり行動」と宣告されたとたん、180度見方が変わって、そのかわいかった行動が“症状”に変わり、治さなければいけない悩みに変わったそうです。


「好きでトンボを追いかけて、好きでミニカーを律儀に並べる。それでいいと思いますよ。問題ありませんよ」
そんなふうに僕の意見を伝えると、
「先生、うちの子のこと、トンボが好きで鳥が好きで、走り回ることが好きで、ミニカーが好きで・・・そういうことが好きな子なんだって思っていてもいいですか?」 と、逆に問い返されました。
「もちろんです!」
僕はそう答えながらも、考え込んでしまいました。医学の診断名というのは、ある意味で、その子の興味関心すらも「症状化」してしまうことがあるのか、と。しかし、診断を受けた側が「症状化」された部分をコントロールしなくてはいけない、と考えてしまうのは、無理もないことかもしれません。

 

これが、田中先生が本書を書かなければいけない、と思ったきっかけかもしれませんね。


私たちは医者ではなく、ただの支援者ですが、症状として行動を見ていくのではなく、ユニークな子育てを保護者の方と一緒に楽しんでいくという姿勢も忘れないようにしないといけませんね。せっかく親御さんたちの希望で始めた「ぐんぐん」の療育ですから、保護者の想いや願いに応えていきたいと思っています。

 

また、療育といえば、本書の中で新しい概念として「神経多様性(ニューロダイバシティ)」と合わせて
「早期兆候症候群(ESSENCE)」についても紹介されています。
多様性を意味するニューロダイバシティについては最近耳にすることも増えてきましたが、個人的にはここで紹介されているESSENCE(エッセンス)の方に共感を覚えました。

 

また、もう一つ、スウェーデンのクリストファー・ギルバーグ教授(小児精神科医)が提唱している早期兆候症候群 「ESSENCE(Early Symptomatic Syndromes Elicting Neuropsychiatric/ Neurodevelppmental Clinical Examinations)」という概念も注目されています。
これは、幼い子どもたちは早期に確定診断することは難しいけれど、早くからその子の状態に沿った丁寧な支援は行える、という考え方です。例えば発達の早い段階で、動きがとても多い、言葉が出にくい、偏食が激しい・・・といった姿が見えてくる子どもがいたら、発達障害の有無の判断や診断の命名を急がずに、その心配な面にじっくりと丁寧にかかわっていきましょう、という考え方です。


僕自身、「発達障害」を診立てたいのではなく、さまざまな背景で育ってきた子どもや親に対して発達促進的な環境づくりを一緒に行うことを心がけているので、ESSENCEという視点は非常に有益な考え方であると思っています。この視点によって、その子にどんな診断名が付くかというよりも、「その子の状態に合わせて丁寧に対応していきましょうね」という発想で支援のポイントを明らかにし、今必要な応援を選択して日々の生活を工夫するアイデアを探っていくことができます。

 

これは、「確定診断の前であっても、地元の小児科医が認定すれば、暫定的に受給者証が発行され、療育が開始できる」という赤磐市のシステムと同じ発想だと思います。


なにしろ岡山では児童精神科医などの専門医による発達障害の初診の場合、何ヶ月も待ちとなり、その間保護者の方は療育にも通えず、不安の中で親子で過ごすこととなってしまいます。もちろん、療育開始後であっても専門医の確定診断は必要となりますが、小児科医の先生方もしっかり勉強されておられるので、ほぼ全員がそのまま受給者証が継続となっています。要は診断名よりも、その子に合った療育を考えていくということです。
早期療育を始められるのはもちろん有効ですが、それ以上にこのシステムがありがたいのは、同じ年代の若いお母さん同士が一緒に集まって療育に取り組める“安心感”が、「一人じゃない」という心の落ち着きにつながっているように思います。
日本でもこのESSENCEの考え方が広まり、各地で早期療育が始められるよう願っています。

 

このように、本書の田中先生の考え方、私たちの会のこれまでの想いと、少し視点は違いますが、目指している方向はほぼ同じようにと思えます。
もし大きく違っていると思われる方がおられるとしたら、本書の書名が少し長すぎるせいかもしれません (^_^)
たしかに、『「発達障害」だけで子どもを見ないで!』の箇所で切ってしまうと、「障害があってもなくても、子どもはみんな同じ! 難しい障害理解は、教育には必要ではありません」というような、昔の「仲良し学級」にいたような、ある意味教育熱心な先生風の主張と同じというような印象を持たれるかもしれませんね。
そうではなくて、『・・・見ないで、その子の「不可解」を理解する』と“理解する”を全体の述語として読んでいただければと思います。

 

もちろん、本書では、「発達障害」という言葉や診断が一人歩きしてしまいがちなことへの警鐘は鳴らされていますが(これが「見ないで!」の部分)、保護者の味方となり、子育てを一緒に考える中で発達障害への配慮した手立てはしっかり「見ていく」ことに変わりはないと思います。

 

「あのときこうしなかったから・・・」「早く相談に行けばよかった」といった後悔を抱えているお母さんやご家族には、僕は「子どもとのかかわりに手遅れはない」と断言します。

各時期それぞれのストーリーに登場する奮闘する親子の姿から、一緒に考えてくれる人と「今」から始めていくので大丈夫、どの段階からでも手立てがある、ということを感じてもらえたらと思います。
大丈夫です。

 

                  (「育てる会会報 268号」(2020.8)より)

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目次

 

  はじめに

 

第1部 子どもの心と行動を理解したい!

 

  僕が診療で心がけていること
  心と行動の理解とは?
  ライフステージごとに生じるさまざまなことを眺めてみよう

 

 乳児期(0~3歳ごろ) 1歳半ごろから心配が表面化

 

    ストーリー1 かんしゃくが激しい、ひろゆきくん(1歳6か月)
        キーワード:かんしゃくの理解と対応、安心を提供するかかわり、
              1歳半健診、専門機関にかかるタイミング
       解説1 激しいかんしゃくはコミュニケーション手段、信頼できる人へのSOS
    
    ストーリー2 寝ない、食べない、けんたくん(2歳1か月)
        キーワード:定着しない睡眠リズム、母親の疲労、偏食
       解説2 入眠を妨げるさまざまな要因

 

     コラム 1 こどもの睡眠

 

    ストーリー3 言葉がなかなk出ない、たかしくん(3歳0か月)
        キーワード:言葉の遅れ、3歳児健診、ことばの教室
       解説3 「たかしくんの言葉」に注目して

 

    ストーリー4 頑固な、ゆかりちゃん(3歳4か月)
        キーワード:生活の切り替え場面で激しく抵抗、
              生活の進まなさ、神経質、入園の不安
       解説4 年中無休のお母さんの苦悩  
       
 幼児期(3~6歳ごろ) 初めての集団生活への不安

 

    ストーリー5 クラスにいららない、かなちゃん(3歳10か月・年少児)
        キーワード:コミュニケーション面での育ち、3歳児健診、
              自閉スペクトラム症の疑い、加配、感覚の過敏さ、
              パニック、安心できるかかわりや環境調整
       解説5 幼稚園での過ごし方に戸惑っている?

 

    ストーリー6 友達に手が出てしまう、さとしくん(4歳6か月・年中児)
        キーワード:注意欠陥・多動症、友達とのトラブル、
              ママ友とのやりにくさ、周囲へのカミングアウト
       解説6 今一度、「さとしくんの思い」に立ち返ってみる

 

    ストーリー7 生活習慣がなかなか身につかない、みきちゃん(5歳5か月・年長児)
        キーワード:生活習慣の自立の遅れ、不器用さ、協調運動、
              専門家との連携、シングルマザー、就学に向けて
       解説7 みきちゃんへのかかわりを課題にする前に

 

 就学期(6~7歳ごろ) 就学先選択という一大テーマ

 

    ストーリー8 就学先に迷う、かいとくん(6歳半・年長児)
        キーワード:言葉の育ち、見通しのもちづらさ、自閉傾向、
              就学相談、きょうだいの気持ち
       解説8 「未来予想図」をよい方向にむけていく力

 

    ストーリー9 授業中座っていられない、たいきくん(7歳・1年生)
        キーワード:注意欠陥・多動症、就学相談、親の付き添い、
              薬の服用、学級の変更希望
       解説9 どの親も悩み、不安定な思いの中で揺れ続けている

 

 学童期(6~12歳ごろ) 小学校生活の3つのステージ

 

    ストーリー10 計算が極端に苦手な、みのるくん(9歳・3年生)
        キーワード:算数が苦手、限局性学習症、支援学級、
              厳しい父親の指導、父親の単身赴任
       解説10 ベースとなる4つの力の育ち「聞く」「話す」「読む」「書く」

 

    ストーリー11 不登校気味の、ゆうきくん(11歳・5年生)
        キーワード:注意欠陥・多動症と限局性学習症、いきすぎた親のかかわり、
              SST、不登校、通院・薬物治療をやめたい
       解説11 ゆうきくんの「本当の気持ち」は?

 

     コラム2 いきすぎた親のかかわり
 

    ストーリー12 人間関係がうまくいかない、ゆいちゃん(12歳・6年生)
        キーワード:コミュニケーションが苦手、人間関係がうまくいかず孤立、
              家庭での暴言、中学進学
       解説12 正直で人一倍正義感の強いゆいちゃん

 

 おまけ
 思春期(12~17歳ごろ) 親との距離感が大事な時期

 

第2部 医療の役割―「診断名」を超えてその子に近づく

 

 発達の診立て

 

  1 子どもの発達の診立て
      発達障害とは
      濃淡・変容・重なり合いの世界
      この世界の新しいとらえ方

 

  2 家族の診立て
      親自身がどういう育ちをしてきたか
      今、家族が医師に対して確認したいことを推し測りながら
      親子が向き合う中で紡がれていく家族のストーリー

 

  3 これまでの整理とこれからの見通し
      その子の生活の質を上げていくプランを
      「様子を見ましょう」というとき

 

 「診断」について


      時間をかけてその子を診ていく
       「診断名」がもたらすプラス面、心配な面
      診断名を超えて、その子に近づきたい
      わが子の豊かな世界を一緒に楽しんで

 

   おわりに