「地域に生きて」 親亡きあとの支援を考える ~看取りまでできるか~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

明石 邦彦・明石 洋子:著 ぶどう社 定価:1800円+税   (2020.2)
 
       私のお薦め度:★★★☆☆
 
育てる会でも何度も講演をお願いしてきた明石洋子さんと、ご主人で「社会福祉法人 あおぞら共生会」理事長の明石邦彦氏による、これまでの歩みと、これから私たちが進んでいく道を示していただける1冊です。
 
明石さんと息子の徹之さん(自閉症でありながら、公務員試験に合格し、今も川崎市の職員として元気に働かれています)を初めて岡山にお呼びしたのは平成15年ですから、もう17年も前のことです。その後も何度も講演をお願いし、同じ「てっちゃん」ということで哲平の働いている様子を見ていただいたり、事務所にもお寄りいただいたりと、家族ぐるみ親しくさせていただいています。

本書の中にも出てきますが、明石さんが「あおぞら共生会」を立ち上げて、ちょうど30年だそうです。
私たち育てる会が20周年記念パーティーを開いたのが3年前ですから、大先輩ですね。
あおぞら共生会のモットーは「欲しいサービスがないなら、自分で作ろう」、私たちが会報の創刊号で訴えたのは「ないものは作っていこう!」、まさに私たちが目標としていることと想いは同じ、前を走っていただいている、目標としている先輩です。
 
本書の第1部は「あおぞら共生会」の過去30年、未来10年というテーマで、それぞれの事業所でこれまで行ってこられたことや、将来への展望について述べられています。
その中で、親の意識も変わってきました。私たちも親の会である「育てる会」と療育事業の「ぐんぐん」を運営してきて感じるところです。
 
今、親の世代を、70才代をパイオニア世代、60才代は拡充の世代、50才代は整備の世代、そして40才以下はサービス消費世代と言われています。現在、制度やサービスが充実してきたことは嬉しいことです。
親の運動の歴史の中で、サービスが勝ち取られてきました。親たちは、「苦労に勝る充実感」をもらいました。しかし、福祉がサービスとなった今、親はサービスの消費者、職員は福祉労働者という構図ができてしまったように感じます。福祉活動家は、過去の産物となってしまったのでしょうか・・・・。福祉は、労働だけでなく活動でもあると思うのですが・・・・。
 
明石さんたちご夫婦がパイオニア世代、私たちが拡充世代・・・そして、ぐんぐんに通われている保護者の方たちがサービス消費世代ということになるのでしょうか。

確かに「ないものは作っていこう!」と私たちが育てる会を立ち上げたころには、岡山にも自閉症児たちの社会資源と呼べるようなものは、ほとんどありませんでした。それが今では、サービスはあって当たり前、福祉は無料(あるいは低額)で利用できるもの・・・そんな時代になってきているようですね。
 
しかし、「欲しいサービスがないなら、自ら作ろう」の心意気で出発した以上、施設が地域支援に移って、地域資源が選択できるほど多くなるまでは、頑張るしかありませんでした。
土地も建物も市が用意し、補助金がいっぱいついている大きな法人が本気で地域支援して、地域資源が豊富になれば、「あおぞら共生会」の役目は終わるのかもしれない、むしろ私たちの理念を大型法人が受け継いでくれれば、親が運営することもないのに、と思ったりもしました。
設立時に「あおぞらハウス」を就労の拠点としたとき、「10人の利用者が就労して作業所に在籍しなくなれば、基準に満たなくなるので認可を取り消しますよ」と行政から言われ、「皆が就労できたら嬉しいです。つぶれることを目指して就労支援します」と答えたのを思い出しました。
 
そんな頑張ってきた明石さんたちが、これから取り組もうとされているのが、第2部の「親の支援なき後を考える」です。一生涯本人の思いや人権を大切にして、親亡き後も看取りまで支援することができるか。すでに明石さんたちは、グループホームでそれを実践されておられます。
育てる会のグループホーム「ほっぷ 1」は、会員の子どもたちが利用者となっているため、みんなまだ若く元気なのですが、「あおぞら共生会」のグループホームでは、広く高齢者まで引き受け、看取りまでを行われています。

本書で実例として挙げたEさん、知的障害と統合失調症をもち、障害程度区分5、要介護度2だったそうです。
 
長年大阪で日雇い生活をして、失業後川崎に戻りホームレス状態の生活をしていたようで、実家との交流が長期間ありませんでした。
Eさんは、突然実家を訪ねたようです。その時、長兄は認知症で、介護中の甥が、叔父(Eさん)の来訪に困って、役所に相談したようです。
区役所から「GHあおぞら」を紹介され、GH運営委員会で検討後、Eさんが50才の時入居しました。それから亡くなるまでの28年間、住民票の住所はGHにありました。
 
そんなEさん、晩年は末期癌で余命3ヶ月の宣告を受けましたが、その後緩和ケア病院やケアホスピスに入院しながら、10ヶ月ほど闘病をし、亡くなられたそうです。
 
「あおぞら共生会」では、入院中にEさんの荷物を置いたまま部屋を確保していたので、他の人が入居できず、GH支援費が入りませんでした。人件費等400万円の赤字が出ていました
(この課題を解消しないとGH利用者全員の看取りは難しいですね)。
 
Eさんの事例については、GHの経済的負担が大きくなったのは、「あおぞら共生会」が、「入院した場合3ヶ月を過ぎたら、GHを退去する」という規約を、実行しなかったからです。
入院してもその後の受け入れ先がない場合や、自宅に戻りたくない(戻れない)、「GHに帰りたい」と本人が言う以上、退去を言うわけにはいきませんでした。
 
これが「障害者も地域に生きて」と福祉に関わる支援者たちと、「福祉はもうかる」と新たに参入してくる人たちとの、思いの差なのでしょうね。
事業者が営利を目的とする株式会社などであれば、当然ながら契約通り退去させてしまいます。またそうしなければ、株主から訴えられかねないという、資本主義のもとでは正しいやり方なのでしょう。

とは言え、今の私たち育てる会に、「あおぞら共生会」と同様のことができるか、と問われると、一人の利用者に赤字400万円の出費は、法人としての体力的に難しい、と言わざるをえないのも事実です。
それでも、考えてみると、今「ほっぷ 1」に入居している利用者たちの平均余命が50年ほど、そして親たちの平均余命は20年ほどと思うと、決して他人事でもないですね。

NPO法人として、自閉症児・者への福祉を将来にわたり実現していくためには、そして看取りまで保障していくためには、しっかり基盤を充実させていかなければいけませんね。
そんなことを感じさせられた本書の実践事例でした。
 
          (「育てる会会報 262号」(2020.2) より)
 
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目次
 
  はじめに 明石 洋子
  はじめに 明石 邦彦

第1部 「あおぞら共生会」の事業運営
       ~過去30年、未来10年~
 
 1章 「あおぞら共生会」の歴史と思いを振り返って
 
   1 「あおぞら共生会」の歴史を簡単に
   2 「あおぞら共生会」の分析
   3 「あおぞら共生会」の中長期経営目標

   役員一覧
 
 2章 日中活動の場 作業所運営
 
   1 「あおぞらハウス」
     「あおぞらハウス」の現在と未来の展望
   2 「ぞうさん」
     「ぞうさん」の現在と未来の展望
   3 「ブルチェロ」
     「ブルチェロ」の現在と未来の展望
 
   コラム 囲うのではなく、地域に出して生きる
 
 3章 暮らしの場 グループホーム(共同生活援助)事業
 
     「グループホーム」
     「グループホーム」の現在と未来の展望
     事業所一覧
 
 4章 地域生活支援 ヘルパー事業・相談事業と人材育成
 
   1 「サポートセンターあおぞらの街」
     「サポートセンターあおぞらの街」の現在と未来の展望
   2 「地域相談支援センターいっしょ」
     「地域相談支援センターいっしょ」の現在と未来の展望
   3 人材育成
     人材育成の現在と未来の展望
  
第2部 親の支援なき後を考える
 
 5章 地域の中で一生涯本人の人権を擁護できるか?
 
   1 リスクが大の地域に親はわが子を残せるのか
   2 「WAM」の実践研究 ~4つのモデルで検証~
   3 親の支援なき後の伴走者は?
   4 グループホームでの看取りまでを実践
   5 「地域で一生涯暮らすこと」の検証
 
   コラム グループホーム旅行
 
 6章 親亡き後の支援を考える 徹之の子育てと共に
 
   1 「利用者の環境」と「支援者の質」
   2 適切な支援で課題を解決する
   3 「合理的配慮」とは
   4 「意思決定支援」とは
 
   コラム 人権を尊重する
 
 終章 ~あとがきに代えて~ 明石邦彦
 
 あとがき 明石洋子