『 写真で教える ソーシャル・スキル・アルバム 』
ジェド・ベイカー:著 門 眞一郎/禮子 カースルズ:訳 明石書店 定価:2000円+税 (2007.7)
『 写真で教える ソーシャル・スキル・アルバム 青年期編 』
ジェド・ベイカー:著 門 眞一郎/佐々木 欣子:訳 明石書店 定価:2000円+税 (2010.7)
私のお薦め度:★★★★☆
今月は2冊まとめての紹介です。
先に出版された「ソーシャル・スキル・アルバム」は、「自閉症のある子どもに教えるコミュニケーション、遊び、感情表現」とあるように、子ども向けの、基礎的なソーシャルスキルを教えるための本です。
「青年期編」 の方は、「自閉症のある人に教えるコミュニケーション、交友関係、学校・職場での対応」 の通り、青年となった子どもたちに、少し高度になった人間関係をうまくやりとりするためのスキルや、就活の際の面談のやり方などについてもアドバイスが行われています。
構成は2冊とも同じで、「よいやりかた」と「よくないやりかた」をそれぞれ “写真で教える” 形で、それぞれの写真に「実際に口に出したことば」と「心の中だけで思っていること」を吹き出し(形や色を変えて)で書き込んでいます。キャロル・グレイ女史のコミック会話と同じような書き方です。
コミック会話が線画を使っているのに対し、アルバムの方は写真ですからよりリアリティーはあると思います。ただ、写真の場合は余分な情報も写り込みますので、そちらの細部が気になるタイプのお子さんだとコミック会話で指導していく方が向いているかもしれませんね。
今月号の「ぐんぐんだより」の「赤磐ぐんぐん」のページにもあるように、お子さんの特性に合わせて選んでいただければと思います。
ほとんどのソーシャル・スキルは、他者の観点に心を合わせる能力に左右されます。
例えば、誰かにあいさつするとき、なぜ「こんにちは」と言うのがよいのかがわかるためには、もし、あいさつせずに無視したら相手はどう思ったり感じたりするかが理解できていなければなりません。
いつ話をやめるべきか、順番を交替すべきか、他者の話しかけに応えるべきか、妥協すべきか、手伝うべきか、分かち合うべきかなど、これらすべてのことは、他者の観点が容易にわかれば、自然にできることです。
しかし、これらのソーシャル・スキルは、自閉症の人にとっては自然に身につくことではなく、きちんと教わらなくてはならないことなのです。
「心の理論」にもあるように、相手にも感情や意志があることに気づかないことがあるような自閉症児たちで、しかも「暗黙の了解」には縁遠い特性を持っているために、一見当たり前と思われるスキルについても、丁寧に教えていくことが子どものころから必要になってくるのでしょうね。
普通(非自閉圏)の子どもなら、友だち同士のつきあいの中で自然に覚えていくようなスキルでも、「よいやりかた」と「よくないやりかた」をきちんと教えていかないと、「わがまま」「自分勝手」「空気が読めない」と周囲から敬遠され、やがてはいじめにもつながっていきかねません。それは、彼らが悪いのではなく、彼らのやりかたが少数派だからで、多数派(非自閉圏)の多い学校や社会で生きていくためには、学んでおかなければいけない“知識”なのだと思います。
彼らに苦手なソーシャル・スキル(そもそも社会性に躓きがあるから自閉症と診断されている彼らです・・・)を頑張って教えるよりも、ライフ・スキルを身につける方が大切なのではということを聞くこともあります。
でも、学んで身につく程度のものなら、ライフ・スキルと合わせて、ソーシャル・スキルでも多数派のやりかたを知っておいた方が、学校や社会で生きやすくなるのではないでしょうか。
そして、ソーシャル・スキルは年齢が大きくなるにつれ、次第に高度になっていきます。
本書のように、子どもの頃はあいさつや遊びの中でのルールなどであったものが、[青年期編]になると、デートの誘い方や授業での討論、就労面接での応対など、より社会性が求められるようになってきます。
ソーシャル・スキル・アルバムを読むことは、実際にスキルを使うことの代わりにはなりません。しかし、スキルを最初に学ぶには効果的な道具です。そのうえで、そのスキルが必要となる場面で、実際にスキルの練習をするべきです。特定の場面でスキルが使えるようになることを目的とするなら、最終的にはその特定の場面で、そのスキルを何度も繰り返し練習する必要があるでしょう。
しかし、実際に体を使ってスキルを練習する前に、どのようにすればよいのかを本人自身がある程度理解しておく必要があります。ソーシャル・スキル・アルバムを使うことで、その最初の理解を促すことができます。
このように、あくまでこのアルバムは、ソーシャル・スキルを身につけるための第一歩、予行演習でしょう。
ただし、翻訳本であるため使われている写真や用語、スキルもアメリカのものが使われています。
それについては、訳者の門 眞一郎 先生たちが、日本の子どもや青年たちに合わせて注釈やアドバイスを丁寧に書いてくださっていますので、親子で話し合いながら読んでいただきたいと思います。
例えば、本書の最初の課題は 「スペース・インベーダーにならないようにしよう」です。
これにももちろん、訳者の「ご注意」が解説として枠内に書かれています。
※ご注意 「スペース・インベーダーのスペースとは、宇宙や空間(場所)という意味です。インベーダーは侵入者(強引に入りこんでくる者)という意味ですから、スペース・インベーダーは宇宙の侵入者という意味になります。でも、ここでは宇宙ではなく、人間のまわりの空間の侵入者という意味になります。つまり、人に近づきすぎる人という意味です。」 (訳者)
つまり、「人と話をするときは、少なくともうでの長さくらいは、はなれましょう。」「近づきすぎないようにしましょう。」(例外は、おとうさんやおかあさん、親しい人と話すときです。)ということなのです。
これが 「青年期編」 ではこんな感じの写真になります。
トイレの3つ並んだ便器の左端で男性が小用を足しています。真ん中も右端の便器も空いています。
「このトイレに入ったとして、あなたならどっちの便器をつかいますか」
この問いに答えるやり方が、写真で次のページに2枚載っています。
「トイレを使うとき、スペース・インベーダーにならないようにしよう。」
【よいやり方】 右の男性はほかの人が使っている便器から離れた便器を使っています。
【よくないやり方】 近寄りすぎです。右の男性は右端の便器が使えるのに、先に小便をしている人のすぐ横の便器を使っています。それに、となりの人の陰部をのぞきこんでいるみたいです。
思い返してみると、“のぞき込み” はしないですが、息子も “スペース” にはいつも無頓着です。
映画館で他に席が空いていても平気で座っている人のすぐ隣に座ったり、立ち話をしている二人の間を平気で通ったり、便器では間を一つ空けて用を足そうなどという気遣いはないようですね。
小さい頃からこんな風にソーシャル・スキル・アルバムを使って丁寧に教えてこなかったせいかもしれません。反省です。
また、本書にも作り方が詳しく書かれているように、「サポートブック」と同様に、自分用の「ソーシャル・スキル・アルバム」を親子で作ってみることをお勧めしたいと思っています。
現代では、デジタルカメラやスマートフォン、パソコンの画像処理ソフトなどを使えば、比較的簡単に自分たちで作れると思います。
なにより、写真のモデルになるのが本人ですから、よいやりかたとよくないやりかたを、それぞれ親子で話し合いながら写真を撮っているうちに、よいやりかたを理解できるようになると思います。
もしかすると、自分用の「ソーシャル・スキル・アルバム」が完成した頃には、そのスキルは本人がもうしっかり身につけているかもしれませんね。
それでは、「青年期編」 の最後のスキル、就職面接の場面のアドバイスです。
質問に答えましょう。そのとき、自分のよい点を言いましょう。
それからその職場についての褒めことばを添えましょう。
自分自身や相手のよくない点は言わないようにしましょう。
きわめて当たり前の注意ですが、アスペルガー症候群の青年の中には、自分の欠点や就職希望先の企業の気になることなども、全てを率直に話すことが、“誠実で 正しいやり方” だと思いこんでいる青年たちもいそうですね。
本書を活用して、みんなが無事に採用されるよう願っています。
(「育てる会会報 261号」(2020.1) より)
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『 写真で教える ソーシャル・スキル・アルバム 』
目次
訳者まえがき
第1部 自閉症スペクトラムとソーシャル・スキル
自閉症の特性
自閉症についての簡単な説明
ASDの子どもたちに教えるときの視覚的支援の重要性
ソーシャル・スキルの教え方
個別取り出し型指導(Discrete-Trial)
機会利用型指導(Incidental Teaching)
絵を用いた認知リハーサル(Cognitive Picture Rehearsal)
ソーシャル・ストーリーTMについて
構造化された学習
ソーシャル・スキル・アルバムについて
ソーシャル・スキル・アルバムとは何か
ソーシャル・スキル・アルバムは誰が使うべきか?
この本の使い方
最初の指導
スキルを練習するときに、よくないやり方も教えるべきか?
スキルのロールプレイ
スキルの見直し/修正フィードバック
スキルの般化
自分用のソーシャル・スキル・アルバムの作り方
考えておくべきこと
別のスキルについてのステップの例
参考文献
第2部 ソーシャル・スキル・アルバム
コミュニケーションについてのスキル
スペース・インベーダーにならないようにしよう
聞くときのたいど
中断させるⅠ- フタを開けるのを手つだってもらう
中断させるⅡ- チャックをしめるのを手つだってもらう
中断させるⅢ- 友だちにオモチャをかしてもらう
あいさつ
話を聞くこと(会話のとき)
会話を始め、会話をつづけることⅠ(今のことについて)
会話を始め、会話をつづけることⅡ(前にあったことについて)
会話を終わらせること
自己紹介
いつ話をやめるとよいかを知ること(てみじかに話す)
遊びについてのスキル
だれかを遊びにさそうこと
遊びにくわわること
分け合うこと
ゆずり合うこと
交たいで遊ぶこと
ゲームで遊ぶ
負けたときに、どうすればよいか
感情についてのスキル
落ち着くこと
人の気持ちがわかっていることをしめすこと
「だめ」という返答を受け入れること
まちがったときのこと
はじめてのことをしてみること
からかわれたときのこと
課題がむずかしくても、やってみること
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『 写真で教える ソーシャル・スキル・アルバム 青年期編 』
目次
訳者まえがき
序文
第1部 予備知識
自閉症スペクトラムと視覚的支援の重要性
ソーシャル・スキル・アルバムについて
スキルの般化
参考文献
第2部 ソーシャル・スキル・アルバム
ことば以外の手がかりや身体言語に関係するスキル
「喜ばれる」」対「嫌がられる」
話をいつやめるかを知る
話を聞く姿勢
スペース・インベーダーにならないようにする
会話に関係するスキル
あいさつ
会話を中断すること
授業を中断させること
仕事を中断すること
知っている人と会話を始めること
初めて会う人について知ること
ふざけるのを、いつやめるかを知ること
会話をやめること
友人関係を築き、維持することに関係するスキル
友だちを独り占めしないこと
要注意の話題を持ち出さないことと、相手を侮辱しないこと
相手への理解と共感を示すこと
規則違反を警察のように取り締まってはいけません
自分の気持ちを表現すること
人を批判すること
争いの解決
からかいに対処すること
デートに誘うこと
学校や職場での対応に関係するスキル
初めてのことをするときの不安への対処
難しい課題への挑戦
「だめ」という返答を受け入れたり、ほしいものがあっても待ったりすること
間違えたときの対応
人と一緒に課題に取り組むこと - 歩み寄ること
就職面接




