高山 恵子:著 合同出版 定価:1800円+税 (2019.8)
私のお薦め度:★★★☆☆
発達障害をもつ子どもたちが苦手としている実行機能、本書の定義では「目標に向かって行動するために必要な考えや行動、感情をコントロールする機能」なのですが、その実行機能をサポートするためのヒント集です。
作者はNPO法人えじそんくらぶ代表の高山恵子氏で、日本にADHD(注意欠陥多動性障害:注意欠如多動症)の概念をわかりやすく紹介していただいた当事者の先生です(現:昭和大学薬学部兼任講師)。
本書のいいところは、本文の中ではとりたてて “障害” という視点ではなく、実行機能、つまり “ものごとを計画通りに進めていくのが苦手な人” に、ヒントやアドバイスをするという書き方になっていることだと思います。
苦手な例と解決へのヒントをあげて、それに対する自分なりの対策をワークの形で記入するようになっていますので、子どもたちも抵抗なく取り組めるのではないでしょうか。
また本書は副題に「10歳から始める ゲーム依存予防 お金の管理 のサポートブック」とあるように、課題を 「起動(やる気スイッチ)」 「計画立案」 「時間の管理」 「空間や情報の管理」 「お金の管理」 「切り替え」 「ワーキングメモリ」 「集中と制御」 の8項目とし、最初に各課題ごとにチェックリストで自己判定して、自分のレーダーチャートを作るところから始まります。
この自分で作った八角形のレーダーチャートを見れば、ざっくりですが自分の苦手なところが一目で分かり、頑張ってみようという意欲を引き出せると思います。
例えば「切り替え」の項目では
■ 一度決めたら予定を変更するのはいやだ
■ 最後まで終わらないと次の作業に移りたくない
■ 自分のやり方で最後までやりたい
■ 相手に合わせて行動することがむずかしい
■ 急な変更があったときに優先順位を変えることができない
この5項目が全部あてはまれば、レーダーチャートでは5点となり、一番外側の線の位置になってしまいます。
これは、私たちの子どもたちにとっては、かなりの割合であてはまるのではないでしょうか・・・と言うより、これらの項目はもともと自閉症の特性のようにも思えてしまいます。
そして、書き終えたレーダーチャートを見ながら、本文のワークに入っていく次第です。
この「切り替え」の章では、最初に『「予定は未定」と割り切る気持ち』のワークからスタートです。
先ほど “特性のよう” と言ったように、発達障害の中でも、自閉スペクトラム症の人の中にはこの「切り替え」が苦手なケースが多いので、ワークにも力が入ります。
楽しみにしていた遠足が雨で中止になったり、友だちとライブにいく予定が台風で中止になったり、思い通りにいかないことがよくあります。
急な予定の変更は、日常的にあることです。野外でバーベキューをするときなどは、晴れの日の計画と雨の日の計画を2パターンつくっておくと、当日雨でも、雨の日のイベントを楽しもうとプラスに考えられるようになるでしょう。
いつでも予定どおりにいくわけではないことを覚悟した上で、他の選択肢を予定しておくと、気持ちが楽になります。「予定は未定」と割り切って、そのときどきの状況を受け入れていくことがとても大切です。
とくに、地震や火事、水害などがあったときのことをたまに考えておくと、実際に災害が起こったときに、より落ち着いて行動することができます。
ワークでは、まずキャンプが雨になったときの予定の例をあげ、次に本人の予定を2パターンでつくり、予定が変更になっても切り替えられるように準備しておくようにアドバイスしています。そういえば、以前育てる会で行っていた「のびのびキャンプ」でも、次の日の行事を示すとき、必ず「晴れた場合」「雨の場合」の2パターンの予定表を張りだしていましたね。
ただし、学校行事などでは、雨天の場合の予定も当然ながら事前に示されていますが、家族や友人同士の約束ではそこまで話が決まっていないこともあります。
そんな時、頭の中で別の案を考えておいたり、その場で臨機応変に予定変更に対応できたりすれば楽なのですが、それが苦手な子どもたちですので、いろんなケースであらかじめ予定表を複数用意しておいた方がお互いスムーズに過ごせると思います。
こんな風に「やる気スイッチ」や「お金の管理」など、先に挙げた8つの項目ごとに、それぞれのワークが全部で37個続いています。
特に最後の4つは「実行機能を使いこなして、失敗を生かそう」のテーマで、「ゲーム依存を予防しよう」「マイ防災プランを立てよう」など、生活に密着したワークになっています。ぜひ目を通しておいていただきたいワークです。
バークレー博士(注:実行機能の研究で第一人者のアメリカの心理学者)は実行機能をシンプルに「実行機能とは、いつどちらを実行するかの決断力」とも定義しています。
勉強する、しない。学校に行く、行かない。ゲームをする、しない。すべて本人の決断次第です。
中でも、ゲーム依存に対してかなり危機感を持っているサポーターは多いことでしょう。
ギャンブル依存症に関する予防教育が2022年度から高校で必修になります。ゲームにハマることは、学童期前でも起こりうることなので、この本を参考に、ぜひ予防に力を入れてください。
「今、ここ」の決断があなたの未来をつくります。未来のことを考えて、今それを自分でやるかやらないかを決断することが少しでも増えたら、この本のワークをやった価値があるのです!
これが、読者のみなさんにお伝えしたいメッセージです。 (「あとがきにかえて」より)
この37のワークにチャレンジすることにより、子どもたちの学校生活、家庭生活が少しでも楽なものになることを願って本書をお薦めします。
(「育てる会会報 260号」(2019.12) より)
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目次
この本を手にしたみなさまへ
実行機能チェックリスト
この本の使い方(PDCAサイクル)
① ワークで実行機能を高めよう
やる気スイッチ
1 よく眠って朝食をとろう
2 よく眠るために大切なこと
3 いやなことをやるスイッチを見つける
4 一番合った勉強法はどれ?
計画立案
5 お弁当をつくろう(サンドイッチ)
6 WANT TO DOリスト
7 自分に合った部活を決めよう
8 わからないことは相談しよう
時間の管理
9 1日の時間を上手に使おう
10 やりたいとおりにできない理由
11 何分でできるかな?
12 遅刻の原因を考える
13 逆算のプランニング
空間や情報の管理
14 これは捨てる? とっておく?
15 決めたところに置こう
16 分類して置く場所を決める
17 置く場所を決めて、目印をつけよう
18 きれいな部屋を保つ工夫
お金の管理
19「自分のお金の流れ」を把握する
20「お金は有限」を実感する
21 計画的にお金を使う
切り替え
22「予定は未定」と割り切る気持ち
23 予定通りにいかないときは?
24 話し合いのコツを学ぼう
25 何かがないときはどうする?
ワーキングメモリ
26 ワーキングメモリーをチェックする
27 うっかり忘れはありませんか
28 カレンダーとリマインダーの活用
集中と制御
29 集中タイムを探してみよう
30 目標時間を明確にしよう
31 イライラ・ドキドキをカームダウンしよう
32 リラックスタイムをしっかりとろう
33 やめるスイッチ2つの入れ方
② 実行機能を使いこなして、失敗を生かそう
1 朝眠坊した! どうする?
2 遅刻しちゃった! どうする?
3 ゲーム依存を予防しよう
4 マイ防災プランを立てよう
③ 発達障害と実行機能
実行機能とは
実行機能と発達障害の関係
本人×サポーターの実行機能タイプ別相性
マシュマロテスト
レザック博士の実行機能の定義
実行機能をONにするために
参考文献と情報
あとがきにかえて