小栗 正幸:著 講談社 定価:1300円 + 税 (2017.11)
私のお薦め度:★★★★★
来年、平成31年3月23日(土)に育てる会で講演をお願いしている小栗正幸先生の著書です。
先日の会報245号で『発達障害児の思春期と二次障害予防のシナリオ』も紹介させていただいたのですが、本書は講談社の「健康ライブラリー イラスト版」のシリーズの1冊ですので、とてもわかりやすく、またすぐに今日からでも役に立つ1冊となっています。
ただし、本書の場合は、発達障害だけにとどまらず、支援・指導のむずかしい子全般に焦点をあてたアドバイス集となっています。
もっとも小栗先生がコラムで、『「むずかしい子」への対応は、「普通の子」にも有効』と書かれているように、発達障害をもたないきょうだい児の子育てにも活かせると思いますので、広くお薦めさせていただきます。
これまで、自閉症児の子育てにおいては、環境を本人に分かりやすく整え、コミュニケーションもお互いが分かる形で伝え合い、本人の特性を配慮して強みを伸ばしていくというTEACCHプログラムなどを基本とした療育をお勧めしてきました。
いわば、予防的に、二次障害や問題行動に陥らせないという方法です。もちろんそれでうまくいけば、それに越したことはないと思うのですが、周りがいくら気をつけていても引きこもりや不登校になってしまったり、暴言・暴力など加害行動を起こしてしまうケースもあると思います。
そんな時、彼らや彼女たちを抜け出させるための「魔法の言葉」集です。
よく聞く言葉に、「問題行動が起こったとき、本当に困っているのは、教師や保護者ではなく、本人です」というのがあります。中には「困り感」という表現まであります。
思わず納得してしまう言葉ですが、これまで宮川医療少年院の院長など、問題行動を起こしてしまった本人の支援にあたられてきた小栗先生によると、少し違ってきます。
子どもは段階をふみながら徐々に育っていきます。周囲を困らせ続ける子どもは、成長していく過程のどこかでつまずき、育ちに「ゆがみ」がみられる子でもあります。
しかし、育ちの過程の途中にいる子どもには、柔軟性があります。周囲を困らせるふるまいがあれば、その都度、周りの大人が適切な対応をしていくことで、育てのゆがみは修正され、望ましい方向へと進んでいける可能性が高まります。
とくに子ども自身が、目の前の状況に「困っている」場合には、支援・指導を素直に受け入れ、行動は変わっていくと期待できます。
問題は、子ども自身が「とくに困っていない」という場合です。
ただ、タイプが違う以上、支援のしかたは違って当然です。
同じような対応で、同じ反応が返ってくるものと期待すること自体が、無理な話なのです。
つまり、子ども自身が「何とかしたい」と「困っている子」ならいろいろ対応する方法もあるのですが、問題はうまくいかない状況があっても、本人が「困っている」と思っていない子には、これまで常識と考えている支援が通用しない、むしろ逆効果になることさえあるということです。
たとえば、間違っていることに「こんなふうにも考えられるよね?」「イヤ、そうかな?」というふうに教え正しい道に導こうとする反論や説諭では、本人は攻撃された、否定されたと反発して暴言・暴力をエスカレートさせてしまうこともあります。また、子どもの気持ちを受け止めて「それは苦しいね」「なるほどね」とかじっくり耳を傾ける傾聴や受容の方法では、やっぱり私はだめなんだと余計に落ち込ませてしまうこともあるそうです。
もちろん、説諭や受容は「困っている子」には有効な方法の一つなので、要は相手の見極めですね。
小栗先生は支援が難しい子には、大きな視点から自分を客観的に見る「メタ認知」が育っていないのではと考えられています。「あなた」と「私」が捉える世界は違っていることの理解が難しいということです。
そしてその要因として考えられるのは、発達障害、失敗体験、虐待の3つに大別され、その3つの要因が重なって複雑に絡み合うことも少なくないそうです。
そう考えてみると、私たちの子どもはみんな発達障害を持っており、虐待はないにしろ、成功体験を積み重ねることが難しい一面もあるので、間違いなく本書の「支援・指導のむずかしい子」に該当してしまうかもしれませんね。
さて、ここからが本題の「魔法の言葉」の紹介や使い方にはいっていくのですが、著作権の問題もありますので、詳しくは本書を買っていただくか(正会員の方は貸し出しもOKです)、来年のセミナーに来ていただくか、にしていただいて、ここでは簡単な紹介にとどめさせていただきます。
まず、魔法の言葉の基本は、「的外し」(的外れではありません!)と「肯定」のフィードバックだそうです。
【的外しの魔法】 訴えの内容から、あえて少し的を外したフィードバックをおこなうと、話し合えるポイントが見出しやすくなる
【肯定の魔法】 頭ごなしに否定しない。受け止めるだけでなく、肯定できる点を見つけて、ポジティブなフィードバックをくり返すうちに、子どもが発信する内容は変わってくる
具体的な魔法の言葉については、とりあえず「目次」だけでも紹介しておきますので、実際にこの魔法を使ってみようと思われる方は、本書を手に取ってお読みください。
(※ 詳しい目次は、下に載せています)
「困っていたんだね」・・・汎用性の高い的外しの魔法
「あなたもわかっているように」・・・ものわかりをよくする魔法
(他者批判をする子に)「そこに気がつくきみはすごい!」・・・視点を変える魔法
(虚言癖がある子に)「あ、きみ○○に興味があるの?」・・・ウソを終わらせる魔法
また各ページには、「魔法の言葉」と対比して、子どもたちをより悪い状態に追い込んでしまうかもしれない「呪いの言葉」についてもイラスト付きで載っています。その中には、私たちが普段つい使ってしまいがちな言葉も多いです。要注意ですね。
たとえば、暴言・暴力が多い子への「気づき」を促す魔法
「がまんしていることが多いよね」に関する「呪いの言葉」と「魔法の言葉」の例です。
【反抗的な態度を誘う 呪いの言葉】
「そういう口のきき方はないだろう」
「なんだ、その態度は!」「いい加減にしなさい」
「そういうことを言ってはダメ!」
【気づきを促す 魔法の言葉】
「(悪態をつかれたら)また心にもないことを!」
「ねえ、あなたはふだん、がまんしていることが多いように私には見えるのだけど、違うかな?」
「そういうときは、大声を出したりする前に、私にこっそり教えてよ?」
本書には、他にも加害行為に対する毅然とした対処法や、「非行のある子の保護者」や「愛情がもてないという保護者」「クレーム多い保護者」などへの魔法の言葉も載っていますので、先生方にもお勧め一冊だと思います。
本書を読んで、ますます来年の小栗先生の講演会が楽しみになりました。
(「育てる会会報 247号
」(2018.11)より)
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目次
【まえがき】
【悩んでいませんか?】 学校生活で起きやすい子どもの困ったふるまい
1 「話せばわかる」が通じない!
【みんなの悩み】 支援・指導が行き詰まるパターンはいろいろ
【支援・指導が必要な子①】 周囲を困らせる子には2つのタイプがある
【支援・指導が必要な子②】 「困っていない子」の支援・指導はむずかしい
【なぜ話しが通じない?①】 支援・指導のしにくさの裏に「メタ認知」の不調あり
【なぜ話しが通じない?②】 「メタ認知」を獲得しにくくする3つの要因
【なぜ話しが通じない?③】 「説諭」「受容」は、困っていない子には逆効果
【どうすればいい??】 困っていない子にこそ必要な「対話」でのやりとり
コラム 支援・指導に発達障害の診断は必ずしも必要ない
2 子どもに伝わる! 魔法の言葉
【子どもとの対話の基本】 「的外し」と「肯定」のフィードバックで魔法がかかる!
【対話のきっかけをつくる】 困っていたんだね ― 汎用性の高い的外しの魔法
【メッセージを伝えやすくする】 あなたもわかっているように ― ものわかりをよくする魔法
【暴言・暴力が多い子に】 がまんしていることが多いよね ― 「気づき」を促す魔法
【他者批判をする子に】 そこに気がつくきみはすごい! ― 視点を変える魔法
【でたらめを言う子に】 よくそんなこと!ある意味うらやましいよ ― 皮肉の魔法
【虚言壁がある子に】 あ、きみ○○に興味があるの? ― ウソを終わらせる魔法
【「死にたい」という訴えに】 相談してくれて、うれしいよ ― 安全圏に導く魔法
コラム 「むずかしい子」への対応は「普通の子」にも有効
3 困った場面でこそ「言葉の力」が重要
【教室全体が騒がしいとき】 静かにしろ!・・・って言うと思った? ― 笑いを活用
【加害行為】 理由ではなく事実を聞いています ― わかりやすい対応を
【いじめ】 あなたのしていることは犯罪です ― 加害性を見逃さない
【パニック】 ここにいたの?探してたんだよ ― 「モードの切り替え」を
【盗癖が疑われる子に】 だれも疑いたくはないけれど ― 犯人探しより今後の抑止を
【SNSトラブル】 「親のせい」にしてもいいよ? ― 第三者の介入が必要
【不登校①】 自分の考えをもつのは大切だ ― 「こだわり」にこだわらない
【不登校②】 きみの話は楽しいね! ― 好きなことを突破口に
【対人トラブルの訴え】 だれも「みんな」とはうまくいかない ― 大前提への疑いを
【恋愛・性非行①】 恋ってやつはけっこう面倒くさい ― 「なぜ?」につなぐ誘い水
【恋愛・性非行②】 「秘め事」って言葉を知ってる? ― 本気の対話を始めよう
コラム 本人の「がんばり」は期待しないほうがいい
4 「これから」につながる支援・指導のために
【支援・指導の目標①】 「当たり前のこと」でつまずかないようにする
【支援・指導の目標②】 究極の目標は「自分で生きていける力」を養うこと
【発達障害がある場合①】 「感じる」と「わかる」のバランスの悪さを理解しよう
【発達障害がある場合②】 「反省してない!」と非難しても解決しない
【望ましい方向へ進むために①】 「損得」を考える練習が「これから」につながる
【望ましい方向へ進むために②】 「お手伝い」「頼みごと」をどんどん取り入れる
【学業不振への対応①】 学校生活では学力をつける取り組みが不可欠
【学業不振への対応②】 まずは「学力アップ」より「やる気アップ」を!
コラム 「勉強はできる子」でも支援が必要なことも
5 保護者との対話がうまくいく魔法の言葉
【保護者との対話の基本①】 「親のせい」にしない。「子どもが変われば親も変わる」
【保護者との対話の基本②】 「さわやかな自己主張」のスキルが対話力を上げる
【クレームの多い保護者に】 教えてほしいのですが ― 「苦情」から「対話」へ
【暴力的な保護者に】 お子さんのためとはいえ、つらいでしょう ― 利害の一致を導く
【「愛情がもてない」という保護者に】 そこまで心配だったのですね ― 「承認」が力になる
【非行のある子の保護者に】 がんばりすぎなくてもいいのでは? ― 緊張をやわらげる
コラム 一致しない点が多くとも理解し合うことはできる