発達障害児の思春期と二次障害予防のシナリオ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

小栗 正幸:著  ぎょうせい  定価:1905円+税 (2010.3)


       私のお薦め度:★★★★☆


今月は、来年3月に講演をお願いしている小栗正幸先生の本を紹介します。


小栗先生については、セミナーのチラシ等で改めて紹介させていただきますが、思春期から青年期の逸脱行動への対応を専門とされ、宮川医療少年院の院長も勤められていた方です。
その小栗先生が最初に書かれています。


本書は発達障害に関する解説書ではない。発達障害というより、二次障害に焦点を当てており、それも思春期への対応を中心に述べている。
さらに、二次障害についても、精神症状を軸にした(内在化した)二次障害ではなく、行動面の問題を軸にした(外在化した)二次障害を取り扱っている。


本書のタイトルに二次障害予防のシナリオとあるように、ここで取り上げられているのは二次障害に対する具体的予防の話です。そして最初にことわられている通り、発達障害児へのいじめなどによるうつ状態によるひきこもりなどの内在化ではなく、非行や反抗、粗暴性などとして現れる外在化した二次障害への予防と対応です。
この問題については、育てる会では意識してあまり触れないようにしてきた課題でもあります。それは、今でも猟奇的事件においてマスコミ等でアスペルガー症候群などがセンセーショナルに取り上げられるケースがあり、自閉症に対して家族や周囲の方がマイナスなイメージを持つことを心配したからです。

もちろん、それに対して反論していくことはできますが、それよりも育てる会としては、そうならないように、本人の周りの環境を整えたり、お互いがコミュニケーションできるようにして、自閉症を持ったままでも自分を肯定的にとらえて育ってくれることを優先してきたからです。


それでも、いわゆる非行少年の中に一定程度発達障害の子どもたちが含まれるのも事実です。ある調査では、一つの少年鑑別所に入所した子どものうち、広汎性発達障害を持つ者は3.4%で、ADHDを持つ者との合計で9%ほどだったそうです。多いようにも思いますが、今では、発達障害を持つ児童の割合は普通学校でも10%ほどといわれていますので、多すぎることもないとも言えるでしょう。


そして、小栗先生は非行少年が非行化するプロセスと発達障害を持つ子が二次障害を発症するプロセスは驚くほど似ており、非行化のメカニズムを知れば二次障害のメカニズムがわかり、二次障害のメカニズムが明確になれば、予防の手立てや指導の方法も具体化できる、とおっしゃられます。


それを聞けば、私たちもこれまでのTEACCHプログラムなどの勉強と並行して、二次障害による不適応行動に対してもおそれずに向き合っていった方がいいのかもしれませんね。
もちろん、子ども達が二次障害に陥らずに、自信をもって成長してくれればそれに越したことはないのですが、二次障害を起こしそうになったとき、また起こしてしまったとき、それに対する対処法を知っていれば慌てないで対応できると、小栗先生の講演会を企画し、本書を紹介する次第です。


非行化と二次障害のメカニズムについては、本書の第3章と第4章を通して詳しく述べられています。
その中で専門機関との関わりについても触れられています。


そもそも非行少年については、専門機関への受診歴のある子ども自体が少数派である。仮に専門機関へ受診し、そこで発達障害を指摘されている場合でも、それは子どもに親を困らせるる行動が出現した後での受診である場合がほとんどなのだ。


さらに少数派になるが、実は幼児期から発達障害に気づかれている非行少年もいないことはない。しかしながら、そうした場合であっても、継続的な支援の機会に恵まれた子どもはほとんどいないのである。
それには、前項で触れた保護者の否認が大なり小なり関与しているものだが、ときにはもう少し複雑な家庭内の事情が絡んでいることもある。例えば、母親は問題に気づいても、父親が頑としてそれを否定し、結局支援を受ける機会を逸してしまった事例を私はたくさん見てきた。これがあると、救いようのないストレスを一身に被ってしまうのが母親である。その結果として、子どもが実質的な被害者になってしまうのは、余りにも明らかであろう。


なお、百歩譲って早期からの支援に恵まれた子どもがいたとしても、その後に何らかの理由で支援を中断していることが多い。そうした支援中断の主な理由は、思春期になった子どもが、支援の場へ通うことを嫌がるようになったとか、子どもが高校や大学に進学したり、就職したりして、保護者が安心したのか、せっかく受けてきた支援を途中で中断してしまうといったものがほとんどである。
ともかく、せっかく受けてきた支援を中断し、その後非行化したような事例については、残念という以外に適当な言葉が見当たらないのである。


発達障害を持った子どもたちが非行化したり二次障害を起こさないためには、早期発見・早期療育とともに、生涯にわたる継続した支援が必要であるということですね。
本当に、マスコミなどで事件を知るたびに、幼児期から学童期への療育に関わるものとしては悔やまれる思いがあります。
とは言え、私たちに支援できる子どもたちには限りがあります。育てる会の会員の方や、ぐんぐんに通ってくる間の子どもたちにしか関わっていけません。
私たちにできることは、少しでも多くの方に支援の大切さを知って欲しくて、こうして講演会を企画したり、本書を紹介したりと地道な方法しかないですね。


小栗先生は法務省に所属する心理学の専門家(法務技官)として、現場で発達障害児を含む少年たちの支援にあたってこられました。
その専門家として本書の最初のシナリオです。


私が受理する相談には、発達障害のある子どもの盗癖に関するものがかなり含まれている。保護者も、教師も、ときには専門家までもが、「この子には盗癖があって・・・」と困っておられる。しかし私は「それは盗んだのではなく、無断借用したのと違いますか?」と問い返すことがある。
要するに、友達が素敵なものを持っている。自分も欲しいと思った。それを勝手に持ち帰った。この行動を「盗み」と見るか「無断借用」と見るかの問題だ。


つまり、同じように見てしまいがちの行動が、「盗み」なのか「借用行動のエラー」なのかによって、その後の対応や支援が大きく違ってくるということです。
もし借用行動のエラーだとすると、対応は道徳的・心理学的・社会学的からのアプローチではなく、これまで自然には学んでこれなかった正しい借用行動の学習ということになるわけです。
こんな風に専門家の視点からの支援のシナリオが描かれています。


そして支援者がシナリオとして取り組んでいかなければならないのは、まず学習支援、そして生活支援、最後に自己制御の力を育てる支援の3領域であると述べられています。


また本書の最後には、保護者支援についても書かれています。


また、別のお母さんは、「私は子どもに愛情を感じることができない」と語られた。その子どもには広汎性発達障害があった。しかし、子どもへの接し方をだれもお母さんに教えていなかった。子育てをしようとしても、うまくいかない経験ばかりを積み重ねると、母親は無力感と自責の念にさいなまれる。これは愛情の問題ではなく、「学習性子育て無気力症候群」とでも呼べる状態である。
なすべきことは子育てへの動機付けだ。動機付け戦略については繰り返し述べてきたとおりであるが、要するに「愛情」をキーワードにすると見えにくくなるものが、子育てスキルとか、コミュニケーション・スキルに視点を変換すると、その日からやらなければならないことが「いっぱい具体的に見えてくる」ということである。そのヒントは、本書をここまでお読みいただいた読者であればおわかりだろう。


しっかり本書からヒントをえて、二次障害に陥らないような子育てに活かしていただきたいと思っています。


小栗先生には、もっと簡単に、そしてすぐにとりくめるように、わかりやすくイラスト入りで書かれた「支援・指導のむずかしい子を支える 魔法の言葉」(講談社)という著書もありますので、こちらもまた改めて会報で紹介させていただきたいと思っています。

          (「育てる会会報 245号 」(2018.9)より)

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目次


  はじめに


第1章 発達障害児の思春期


  育ちのニーズ
  容貌
  恋心
  正論
  不安


第2章 発達障害と二次障害


  困った行動
  連続性
  隠ぺい性
  メッセージ性
  周囲の反撃
  誤解
  失礼な言辞
  距離感
  他者認知
  安定性
  その他の症状
  二次障害の本態


第3章 非行少年


  外見
  男性
  経済的余裕
  価値感
  不適切な養育
  学業不振
  大人の真似事
  背水の陣
  親に頼らない自分
  ファンタジー
  高校進学
  変化
  少女
  早すぎる自立
  非行少年の本質
  
第4章 二次障害としての非行化


  頻度
  非行化事例
  実態把握の遅れ
  複雑な理由


第5章 二次障害の予防


  学習支援
  生活支援
  自己制御


第6章 実際場面での指導


  指導する場所
  個別指導
  ほめ方
  無気力
  こだわり
  約束指導
  禁止事項
  保護者支援


  おわりに