明石 洋子:著 本の種出版 定価:1800円+税 (2017.11)
私のお薦め度:★★★★☆
今年(2017年)、息子の徹之さんと一緒に「糸賀一雄記念賞」を受賞された明石洋子さんの久しぶりの著書です。
ぶどう社から出版された以前の「自閉症の息子と共に」の3部作、「ありのままの子育て」、「自立への子育て」、「お仕事がんばります」は、自閉症児を育てる親の方なら誰もが一度は手にとったことがあるのではないでしょうか。特に知的障害を伴うカナータイプの子どもを持つ親にとっては、まだ自閉症への理解も支援も乏しかった頃に、公務員として川崎市に一般枠で採用され、元気に働く徹之さんの姿はみんなの希望であり、目標でした。
ぶどう社から出版された以前の「自閉症の息子と共に」の3部作、「ありのままの子育て」、「自立への子育て」、「お仕事がんばります」は、自閉症児を育てる親の方なら誰もが一度は手にとったことがあるのではないでしょうか。特に知的障害を伴うカナータイプの子どもを持つ親にとっては、まだ自閉症への理解も支援も乏しかった頃に、公務員として川崎市に一般枠で採用され、元気に働く徹之さんの姿はみんなの希望であり、目標でした。
育てる会でも平成17年から、徹之さんといっしょに何度も講演に来ていただき、自立に向けての話やきょうだい児の子育ての話などたくさんお聞かせいただきました。感謝です。
さて、本書ですが本の種出版社の 『発達障害の子の子育て相談 シリーズ』の第1期の1、トップバッターとして企画された、明石さんが先輩のお母さんとして、子育ての質問に一つずつ丁寧に答えていくという構成です。
まだ、「合理的配慮」ということばのなかった時代、それどころか「自閉症は母親の育て方のせい」などという誤解が大手をふって歩いていた頃、周りの方に働きかけ地域を耕してこられた明石さんです。その言葉には励まされることばかりです。今で言うペアレントメンターの大先輩ですね。
また、実際に徹之さんが公務員となり、25年が経った今も明るく元気に川崎市職員として働いておられる様子から、安心してアドバイスが受けられる次第です。
もちろん、明石さんも専門家ではないので、系統だった理論や指導法に基づく話ではないですが、一つ一つの悩みに、経験を元にしたアドバイスがつけられ、一言でいえば「助けになる本」と言えると思います。
帯にも「子育てを今より少し楽に、スムーズに」とあるように、楽になるヒント、気持ちのもち方が込められた本です。
前置きはこれぐらいにして、本題の内容ですが、時代が変わっても自閉症児の子育ての悩みは今も昔も変わらないですね。だからこそ、明石さんの相談の答えが今のお母さんたちの助けになるのでしょう。
「夫と子どもの祖父母が障害と認めず、受診に反対します」
「知的障害が重いのですが、施設に入れるしかないのでしょうか」
「障害のある子のせいで、きょうだいが不利益を被らないかと心配です」
「どんなに誘ってもトイレで排泄ができません」
“ 先輩、相談です。” と寄せられた質問は、自閉症児を育ててきたお母さんたち、みんなが一度は経験する悩みかもしれません。
「仲間が欲しい、悩みを聞いてほしい・・・」
子どものためならがんばれると、あちこちに話をつけ、頭を下げ、だいぶ強くなったつもりです。でも、近くには親の会のようなものがなく、孤軍奮闘は正直きついです。
仲間が欲しい、誰かに悩みをきいてほしい、と、ないものねだりもしたくなります。
子どものためならがんばれると、あちこちに話をつけ、頭を下げ、だいぶ強くなったつもりです。でも、近くには親の会のようなものがなく、孤軍奮闘は正直きついです。
仲間が欲しい、誰かに悩みをきいてほしい、と、ないものねだりもしたくなります。
そんな相談者(小3 男子、ASD +ADHD、特別支援学級在籍児の保護者)への明石さんからのアドバイスです。
「近くに会がなければ、つくればいい」
私たち親子がテレビに出るようになって、「近くに会がない。仲間がいない。仲間づくりはどうしたらできるか」との相談を受けるようになりました。
私は「欲しいものがなければ、自分でつくればいいじゃないの」と伝え、地域の人集めの講演会の講師を引き受けるなど、頼まれればその土地に行って、支援するようにしています。日本各地で会ができ、もう10年、20年と活発に活動し、法人格を取得して事業をするところも出てきました。「棚からぼた餅(棚ぼた)」は落ちてきません。仲間づくりは自分から。「この指とまれ」と、指を出すことからスタートです。
私たち親子がテレビに出るようになって、「近くに会がない。仲間がいない。仲間づくりはどうしたらできるか」との相談を受けるようになりました。
私は「欲しいものがなければ、自分でつくればいいじゃないの」と伝え、地域の人集めの講演会の講師を引き受けるなど、頼まれればその土地に行って、支援するようにしています。日本各地で会ができ、もう10年、20年と活発に活動し、法人格を取得して事業をするところも出てきました。「棚からぼた餅(棚ぼた)」は落ちてきません。仲間づくりは自分から。「この指とまれ」と、指を出すことからスタートです。
20年前に、私たちが育てる会を作ったときも同じ思いでした。棚からぼた餅を待っていても、その間に子どもたちはどんどん大きくなっていきます。「ぼた餅は落ちてこないと覚悟して、ないものはみんなで作っていきましょう」と岡山でも、「この指とまれ」と挙げた手に、県内からあっという間に多くのお母さんたちが集まってくれて育てる会ができました。
明石さんから直接支援をいただいたわけではありませんが、岡山と川崎、遠く離れた地でしたが、偶然にも全く同じフレーズをモットーにして頑張っていたのですね。
そして育てる会がようやく軌道にのり始めた平成17年には明石さんを岡山にお招きし、その精神とバイタリティーを見習ってここまできたようにも思います。
さて、そんな明石さんですが、相談を離れて「コラム」の欄では母としての思いも書かれていて、その暖かさに思わずクスッとしてしまいます。
この大人宣言(注:20歳の誕生日に出した「明石徹之は今日から大人です。てっちゃんと呼ばないでください。今日からお酒とタバコをのみます」との宣言)に続いて出したのが、グループホームを退去するにあたっての「結婚宣言」です。「本人の意思に寄り添う」はずの私は、この宣言には焦りましたね。
「お母さん、結婚がんばります」という息子に対し、講演会等では「徹之のお嫁さん募集中。どなたかお見合いしませんか? 前後15歳ほどを対象にしますので、ご紹介ください」と彼のスピーチに続けてお話ししていますが、「がんばってほしくないなぁ」という私の本音があります。「私の寂しさ」が彼の「人権侵害」をしているのです。
また、彼の自己決定にはプログラムを作って一つひとつ実践してきましたが、結婚に関しては相手のことも知らないと先に進みません。「結婚がんばります」は、二人の人となりや特性や結婚への理解度がわからないと、プログラムが作れません。
「お母さん、結婚がんばります」という息子に対し、講演会等では「徹之のお嫁さん募集中。どなたかお見合いしませんか? 前後15歳ほどを対象にしますので、ご紹介ください」と彼のスピーチに続けてお話ししていますが、「がんばってほしくないなぁ」という私の本音があります。「私の寂しさ」が彼の「人権侵害」をしているのです。
また、彼の自己決定にはプログラムを作って一つひとつ実践してきましたが、結婚に関しては相手のことも知らないと先に進みません。「結婚がんばります」は、二人の人となりや特性や結婚への理解度がわからないと、プログラムが作れません。
「応援してください」と言ってもなかなか実現しないので、彼は最後のフレーズを、たとえば慶応大学での講演会など若い学生さんの前では「応募してください」と変えて言ったのです。残念ながら、応募者は皆無でしたが・・・・・。
結婚は難しい。今、彼のまわりに独身の人が多くいますので、「結婚だけが人生ではない」と覚悟したかな? フレーズは「結婚は未定です」に変りました。
結婚は難しい。今、彼のまわりに独身の人が多くいますので、「結婚だけが人生ではない」と覚悟したかな? フレーズは「結婚は未定です」に変りました。
いくつになっても、なかなか気持ちのうえで子離れができにくいのが障害児の子育てですね。
大先輩といえども、同じ親ですね、とホッとするエピソードです。
大先輩といえども、同じ親ですね、とホッとするエピソードです。
もちろん、一人ひとり大きく違うのも自閉症の障害特性の一つですから、本書のアドバイスが、そのままみんなにあてはまるかどうかは分かりません。
でも、目標を見失わないで子育てすることの大切さは同じだと思わせていただける本です。
本書のタイトル「思いを育てる、自立を助ける」将来の自立に向けて自己決定する力をつけていくにはどうすればいいか、それをアドバイスしてくれるお薦めの一冊です。
(「育てる会会報 236号」 2017.12 より)
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目次
はじめに
先輩、相談です。 ありのままに地域で生きる
1 障害があるのに、実り多い人生をと願っていいのでしょうか
2 夫と子どもの祖父母が障害と認めず、受診に反対します
3 子どものためには自分の人生をあきらめるべき?
4 ご近所に迷惑をかけてばかり。いっそ家に閉じ込めてしまいたい・・・
5 知的障害が重いのですが、施設に入れるしかないのでしょうか
6 本当に地域で幸せになれる? 何かよりどころとなるものが欲しい・・・
7 親亡きあとの生活、たとえば住まいをどのように考えたらいいのでしょう
8 強がりでなく 「ありのままでいい」と言える日が来るのでしょうか
9 親も障害のことを熱心に学ぶべきでしょうね
10 障害のある子のせいで、きょうだいが不利益を被らないかと心配です
11 仲間が欲しい、悩みを聞いてほしい・・・
12 よりよい人生を送らせるため、何を身につけさせればいい?
13 地域で多くの人の理解を望むのは間違いでしょうか
コラム
ICF(国際生活機能分類)
「僕は明石徹之。どうぞよろしく」
医学モデルから社会モデルへ
息子の「結婚宣言」と親の本心
「障害者の権利宣言」がさせてくれた決心
2 夫と子どもの祖父母が障害と認めず、受診に反対します
3 子どものためには自分の人生をあきらめるべき?
4 ご近所に迷惑をかけてばかり。いっそ家に閉じ込めてしまいたい・・・
5 知的障害が重いのですが、施設に入れるしかないのでしょうか
6 本当に地域で幸せになれる? 何かよりどころとなるものが欲しい・・・
7 親亡きあとの生活、たとえば住まいをどのように考えたらいいのでしょう
8 強がりでなく 「ありのままでいい」と言える日が来るのでしょうか
9 親も障害のことを熱心に学ぶべきでしょうね
10 障害のある子のせいで、きょうだいが不利益を被らないかと心配です
11 仲間が欲しい、悩みを聞いてほしい・・・
12 よりよい人生を送らせるため、何を身につけさせればいい?
13 地域で多くの人の理解を望むのは間違いでしょうか
コラム
ICF(国際生活機能分類)
「僕は明石徹之。どうぞよろしく」
医学モデルから社会モデルへ
息子の「結婚宣言」と親の本心
「障害者の権利宣言」がさせてくれた決心
先輩、相談です。 思いとスキルを育てる
14 自分から人の輪に入ろうとはしないけど、人とかかわる心地よさを教えたい
15 せめて、何が欲しいのか言わせたい・・・
16 パニックは障害のせいで仕方ないのでしょうか
17 ほめて育てろとよくいわれますが、できないところばかり目につきます
18 どんなに誘ってもトイレで排泄ができません
19 将来もさまざまに支援を受けていくし、トイレのしつけはそこそこでいい?
20 「自分の体を清潔に保つ」を教えるにはどうしたら?
21 性のしつけの一つ「人前で裸にならない」を教えるには?
22 偏食がひどくなりました!
23 食べられるものがごく少なく、給食が苦痛なようです
24 「食事中は席を立たない」を教えたい
25 毎日同じ服を着ています。将来TPOに合った服装ができるようにさせるには?
26 お手伝いをさせるのは面倒だし、かわいそうにも思います・・・
27 独り言など、その場にふさわしくない行動をやめさせるには?
28 「なぜ」「どうして」がなかなか言えるようになりません
29 父親を避けるので、子育てにかかわってもらうことができません
30 下の子を物のように扱うのではないかと心配です
31 つい、障害のあるこの子を優先してしまいます
32 お金の価値がわからず、破いたり捨てたりしてしまいます
33 一人で外出させることができる?
34 どうしたらお金が得られるか、働くということを教えるには?
15 せめて、何が欲しいのか言わせたい・・・
16 パニックは障害のせいで仕方ないのでしょうか
17 ほめて育てろとよくいわれますが、できないところばかり目につきます
18 どんなに誘ってもトイレで排泄ができません
19 将来もさまざまに支援を受けていくし、トイレのしつけはそこそこでいい?
20 「自分の体を清潔に保つ」を教えるにはどうしたら?
21 性のしつけの一つ「人前で裸にならない」を教えるには?
22 偏食がひどくなりました!
23 食べられるものがごく少なく、給食が苦痛なようです
24 「食事中は席を立たない」を教えたい
25 毎日同じ服を着ています。将来TPOに合った服装ができるようにさせるには?
26 お手伝いをさせるのは面倒だし、かわいそうにも思います・・・
27 独り言など、その場にふさわしくない行動をやめさせるには?
28 「なぜ」「どうして」がなかなか言えるようになりません
29 父親を避けるので、子育てにかかわってもらうことができません
30 下の子を物のように扱うのではないかと心配です
31 つい、障害のあるこの子を優先してしまいます
32 お金の価値がわからず、破いたり捨てたりしてしまいます
33 一人で外出させることができる?
34 どうしたらお金が得られるか、働くということを教えるには?
コラム
料理が算数の勉強にも!?
食べる量をどう考えるか
最初は怒鳴り込んできた店主が支援者に
料理が算数の勉強にも!?
食べる量をどう考えるか
最初は怒鳴り込んできた店主が支援者に
おわりに