太田ステージによる 自閉症療育の宝石箱 | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

永井洋子・太田昌孝:編 日本文化科学者 定価:2800円+税 (2011.9)
 
            私のお薦め度:★★★★☆
 
「太田ステージ」という言葉を初めて聞いたのは、息子が自閉症と告知されてから間もない頃でしたから、もう四半世紀前になります。
本書の編者でもある太田昌孝先生と永井洋子先生による「自閉症治療の到達点」と同じく「認知発達治療の実践マニュアル」(2冊とも今でも実践に活きる名著だと思います)を書店で見かけ、“自閉症も治療することができるのだ”と、それこそ宝石を見つけたように手にとったのを今でも覚えています。

各冊6000円と、2冊セットで当時の私の小遣いの半月分ほどもしたのですが、思い切ってその場で購入して帰り、読み始めました。その感想は、昔「会報45号」などにも書いたのですが、本書と重なる部分も多いので、改めて紹介させていただきます。

   『 自閉症治療の到達点』 (2002.1)
 
 
さて、それから20年ほどを経ての本書です。
もちろん、前著に書いてあったように“発達の障害に働きかけて自閉症児自身に少しでも柔軟に適応できる力をつけていくこと”を目指す方向とか、認知段階に基づくステージ分け、とかの基本的部分は変わっていません。
 
太田ステージに基づいて行う療育(治療教育)を、私たちは「認知発達治療」と呼んでいます。根本治療を目指した治療法ではなく、自閉症の子どもの認知発達を促すことを目的としています。自閉症は原因も治療法も明らかになっていませんので、障害そのものを克服することは非常に困難なものです。しかし自閉症の子どもは、課題が適切であれば、つまり子どもの認知発達の段階に合った課題であれば、集中して自発的に学ぶことができます。発達に合った課題は、生活の中へも広がりやすく、コミュニケーションや生活の質を上げていくことが可能です。
 
これまでの表現に比べてずいぶん柔らかくなり、TEACCHとも一緒に取り組められるようになったのでは、という印象です。
また、前著の2作と比べると、2色カラーでイラストも多く、とても読みやすくなっています。そして、ステージごとの特徴や療育目標を丁寧に説明し、その目標ごとに実際の課題が一目でみられるようになっていてありがたい構成です。(前著では、課題は別冊の実践マニュアルにまとめられていました)

ですから、本書は太田ステージの入門編、あるいはエッセンス版という印象ですね。
本書を読んで、もっと詳しく知りたいと思われた方は、前著を大幅に改訂した 「自閉症治療の到達点 第2版」(2015年10月)も発刊されているそうですので、お買い求めください。
 
さて、本書に戻ると、薬物療法などについては、最新の情報もつけ加えられていますし、行動障害の予防では「氷山モデル」ならぬ、「火山モデル」の紹介も載っています。
 
「火山モデル」(永井、2002)は、自閉症の子どもの行動障害を火山の噴火に例えています。下の図(図略:火山の断面図)の中心部分a、b、cは、自閉症の障害の特徴を示しています。子どもの基礎の部分には(a)発達の遅れと不均衡さがあり、これは火山のマグマに該当します。
この山は、(b)強迫性・衝動性・感覚の異常などの障害に起因した脆弱性(脆さ)があり、外からの刺激や働きかけによって、(c)行動障害として噴火しやすい状態にあることを意味しています。
そのため療育者は、噴火した行動障害への直接的対応だけでなく、噴火の原因のそれぞれの段階に応じた働きかけが必要になってきます。
 
認知発達治療によりマグマの噴火(行動障害の爆発)を鎮めようとする太田ステージの火山モデルと、不適切な関わりを減らし、適切な支援に変えることにより海水の塩分濃度を下げ氷山水面への突出(問題行動の表面化)を減らそうとする氷山モデル(新・氷山モデル:門先生)・・・二者択一ではなく、子ども達のためにはどちらも取り入れていきたいと思っています。
 
蛇足ですが、せっかくStage Ⅳの療育課題の中にキャロル・グレイ女史の「ソーシャルストーリー」なども取り上げていただいているのに、訳者が“腹巻”智子訳(後出の文献欄も含めて)となっているのは、毎年、先生に講演をお願いしている“服巻”先生ファンの当会にとっては笑うに笑えない誤植でしたね。
本書も版を重ねていくと思いますので、今年の講演会、11月23日(木・祝)までには訂正されていることを願っています (^o^)
 
                              (「育てる会会報 231号」 2017.7 より)
 
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目次

 

はじめに
 
第1章 自閉症とは
 
  自閉症とはどんな障害か
  自閉性障害の診断基準
  自閉症の障害モデル
  自閉症に見られる異常行動
     多動
     こだわり
     パニック
     極端な偏食
     常同運動
     奇声
     独語
     自傷
     攻撃行動(他害・器物破損) 
   自閉症に併存する症状・障害
   発達のために必要な条件
     ことばの基礎となるコミュニケーション機能の発達
     諸機能の発達から見た自閉症の心の特徴
   自閉症の発達の不均衡さと感覚の異常
     発達の不均衡さ
     認知発達の個人差
     感覚の異常
   障害の気づきと受診
     自閉症の子どもの初期の状態
     専門機関の受診
 
 第2章 太田ステージとは
 
  子どもの認知発達と太田ステージ
   LDT-Rによる太田ステージの評価
     LDT-Rの実施に必要な用具
     LDT-Rの実施の仕方
     LDT-Rの留意点
  太田ステージによる療育
 
 第3章 太田ステージによる療育の実践
 
  ライフステージを踏まえた療育の実践
  3次元からの療育の実践
     第1次元:認知・情緒の発達を促す
     第2次元:適応行動の形成を促す
     第3次元:異常行動の予防と減弱
   太田ステージによる療育実践の進め方
 
 StageⅠの療育
   StageⅠの子どもの特徴
     対人関係
     コミュニケーション・要求手段
     行動・興味・活動
     その他
   StageⅠの療育目標と日常の関わり
     〔療育目標1〕 人との愛着を高め、意欲を育てる
     〔療育目標2〕 言葉をはじめとするシンボル機能の芽生えを促す
     〔療育目標3〕 日常生活での基本的な適応行動がとれるようにする
   StageⅠの療育の留意点
 
 StageⅡの療育
   StageⅡの子どもの特徴
     対人関係
     コミュニケーション・要求手段
     行動・興味・活動     
   StageⅡの療育目標と日常の関わり
     〔療育目標1〕 言葉だけでなく、模倣、指さしなど多くの側面からシンボル機能の芽生えを促し、
              確実にする
     〔療育目標2〕 人への関心の芽生えをよい方向に育てる
     〔療育目標3〕 日常生活の範囲での適応行動を身につけさせる
   StageⅡの療育の留意点
 
 StageⅢ-1の療育
   StageⅢ-1の子どもの特徴
     対人関係
     コミュニケーション・要求手段
     行動・興味・活動  
   StageⅢ-1の療育目標と日常の関わり
     〔療育目標1〕 シンボル機能を育て、語彙や言葉の意味を広げる
     〔療育目標2〕 コミュニケーション能力や対人関係への意欲を育てる
     〔療育目標3〕 日常生活を自立的にできるようにする
   StageⅢ-1の療育の留意点

 StageⅢ-2の療育
   StageⅢ-2の子どもの特徴
     対人関係
     コミュニケーション・要求手段
     行動・興味・活動
   StageⅢ-2 の療育目標と日常の関わり
     [療育目標1]芽生えた関係の理解を基に思考の柔軟性を培う
     [療育目標2]対人関係・コミュニケーションを豊かにし、自発性や自我形成を促す
     [療育目標3]集団や社会場面での適応行動を形成する
  StageⅢ-2の療育の留意点
 
 StageⅣの療育
   StageⅣの子どもの特徴
     対人関係
     コミュニケーション・要求手段
     行動・興味・活動
     その他
   StageⅣの療育目標と日常の関わり
     [療育目標1]理解の普遍性を高め、因果関係の理解を伸ばす
     [療育目標2]自分以外の視点から考えたり思いやれるようにする
     [療育目標3]自己マネジメント力と自己肯定感を育て、よりよい社会適応を目指す
  StageⅣの療育の留意点
 
 第4章 行動障害の予防と対応

   行動障害への対応
   「火山モデル」から予防を考える
     A:長期予防のための働きかけ(基礎づくり)
     B:障害特性による予防的働きかけ
     C:予測される行動への予防的対処
     D:行動障害への直接的対処
     E:行動障害の分析
   「火山モデル」の活用事例
     ケンタ君の概略
     それまでの対応
     「火山モデル」の活用
   まとめ
 
第5章 自閉症に関する薬 ~向精神薬を中心として~
 
   この章を読むにあたって
   薬物療法の意義と留意点
     向精神薬による薬物療法
     薬物療法の一般的留意点
     自閉症の子どもたちへの薬物療法の留意点
   向精神薬の作用の概略
     抗精神病薬
     抗不安薬
     抗うつ薬
     気分安定薬
     中枢刺激薬
     睡眠薬
     抗てんかん薬
   自閉症の症状ならびに併存症への薬
     脳機能障害の改善を目的にする薬
     自閉症の異常行動や情緒の症状への薬
     ADHD が併存する場合の薬
     てんかんが併存する場合の薬
     トゥレット症候群が併存する場合の薬
     強迫性障害が併存する場合の薬
     気分障害が併存する場合の薬
     心因反応や神経症様状態が併存する場合の薬
     統合失調症が併存する場合の薬
     カタトニアが併存する場合の薬

   まとめ
 
 付録
   LDT-R1 図版
   LDT-R2 図版
   LDT-R3 図版
   LDT-R4 で用いる道具とサイズ
   LDT-R 記録票
 
  文献
 
  おわりに