福島 尚:著 二見書房 定価:2200円+税 (2016年12月)
私のお薦め度:★★★★☆
この画集を手にとった方の第一声は、決まって「嘘でしょ?!」という感嘆の声です。
表紙の絵を見て、「これは写真でしょ」・・・私も同じでした。
細部まで丁寧に書き込まれた描写、まさに走っているような色使いや陰影。
縮小したイラストではわかりにくいかもしれませんが、本当に細かい所、線路の砂利やレールに反射する光まで見事にとらえています。
表紙の絵を見て、「これは写真でしょ」・・・私も同じでした。
細部まで丁寧に書き込まれた描写、まさに走っているような色使いや陰影。
縮小したイラストではわかりにくいかもしれませんが、本当に細かい所、線路の砂利やレールに反射する光まで見事にとらえています。
作者は福島 尚(ひさし)さん、1969年生まれの44才になられる方です。
もうみなさんが想像されたように、知的障害を伴う自閉症をお持ちの方です。
今、私たちのカフェ スプリング カムカムでも 「自閉症 才能きらり展」を開催していますが、自閉症の方の中には驚くような才能、感性をお持ちの方がいらっしゃいますね。
もうみなさんが想像されたように、知的障害を伴う自閉症をお持ちの方です。
今、私たちのカフェ スプリング カムカムでも 「自閉症 才能きらり展」を開催していますが、自閉症の方の中には驚くような才能、感性をお持ちの方がいらっしゃいますね。
絵を描くのは夜と休日だけで、昼間は福祉作業所で働く尚さんの生活は、とても規則正しいです。
朝9時頃に出発し、ひとりで自転車に乗って職場へ行き、夕方5時頃帰宅。家族でお茶とお菓子を楽しみ、夕方6時からお父さんとビール1缶を分け合って晩酌。夕ごはんを食べて、夜9時から11時まで絵を描く毎日。
この暮らしに至るまでには、友達や勉強、仕事になじめず、荒れたり叫んだりすることもあったそうです。そんなときも変わらず楽しみだったのが鉄道画でした。
朝9時頃に出発し、ひとりで自転車に乗って職場へ行き、夕方5時頃帰宅。家族でお茶とお菓子を楽しみ、夕方6時からお父さんとビール1缶を分け合って晩酌。夕ごはんを食べて、夜9時から11時まで絵を描く毎日。
この暮らしに至るまでには、友達や勉強、仕事になじめず、荒れたり叫んだりすることもあったそうです。そんなときも変わらず楽しみだったのが鉄道画でした。
いまでは様々な展覧会に絵を出品し、テレビ・新聞・各メディアで話題になり、全国から多くの人が尚さんの絵を見るために訪ねてくるようになりました。
尚さんは、絵によって、自分が輝ける場所を見出し、人や世界と、新しい出会いを重ねています。
(「はじめに」より)
尚さんは、絵によって、自分が輝ける場所を見出し、人や世界と、新しい出会いを重ねています。
(「はじめに」より)
福島さんのすごいところは、たとえば写真を撮ってきて、それをそのまま写実するというのではなく、頭の中や心の中で記憶に残っているイメージをふくらませて作品にされているところでしょう。
最初に紹介した表紙の絵、『首都圏 大宮駅』の作品の解説です。
中央が高崎線(115系)、左が京浜東北線(209系)、右が高崎線(EF65 1000番代)。奥が東京側となっています。ホームから見た光景ですが、3つの電車が揃っているところを実際に見たわけではなく、心の中で3つの電車を並べて描いています。
右奥に小さく黄色い電車が見えるのは、電車を改造、分解する工場です。
右奥に小さく黄色い電車が見えるのは、電車を改造、分解する工場です。
“115系”と言われても、鉄道に知識のない私には区別できませんが、よく見慣れた電車ではありますね。“右奥の黄色い電車”と言われて、目を凝らして高架下にようやく見つけました。もうすごいと感心するしかありませんね。
同じく印象に残っている「フレートエクスプレス」も心象画で、八戸駅で見かけた列車、ED75136を「青森へ向かって、これから青函連絡船に乗るのです!」と言って、雪の中を走らせたそうです。
そんな福島さんですが、ご家族はやはり私たちと同じように、苦労しながら、工夫しながらの障害児の子育てを体験されてきています。
母 : 相談学級に入っても、みんな面白がって尚を追い掛け回すわけです。それが嫌で、靴をはいたら一目散で走って帰ってくるのですが、家に着いたら、うわーっと私に飛びかかってくる。髪の毛をひっぱったり、ガラスを割ったり、壁に穴を開けたり、いろいろありました。
しょうがないから2階へ連れていって、マットを敷いてプロレス状態になって、「痛ててて、やられた」って私が芝居をする。そしたら、すっきりした顔になるんです。私をやっつけて、自分を追い掛け回した子に飛びかかったような気持ちになるのでしょう。そしたら今度は、くすぐってやるんです。ニコニコしてきたら、最後に体の力を抜く体操をします。
クラスの友達にいじめないようお願いするときは、逆にいじめる子にお願いしました。優しい子に頼むより効果的なときがあるんです。「この子はかまうと面白いんだよ」なんて言ってる子にお願いする。そうすると「うん、おばさんわかった!」と、そういう逆手を使ったり(笑)、そのうち、だんだん友達も理解してくれるようになってきたんです。
福島さんが、電車の絵に興味を持ち始めたのは4歳頃からだったそうで、画集に載っている5歳の時の西武池袋線の電車にはパンタグラフや踏切の信号機なども描かれています、
お父さんからの当時のエピソードの紹介です。
父 : 小学3年生の頃、デパートで私の手をつかんで引っ張って、鉄道模型を欲しがったんです。1つ数千円もする高価なものだったし、マニアのための本格的なものだったので買い与えませんでした。
そうしたら自分で厚紙とセロテープを使って一生懸命作り出したんです。
あのとき買い与えて満足させていたら、現在のように鉄道の紙工作に熱中することはなかったと思いますね。
その紙工作、現在では厚い画用紙やワイシャツの襟に入っているプラスティック、爪楊枝、ボタンなどで作られるそうですが、絵と同じで細部まで作りこまれて、どれもすでに数千円の商品をはるかに超える出来栄えです。何が幸いするか分かりませんね。
最初は鉛筆や水彩で描かれていたのですが、今はアクリル絵の具を使われているそうです。
お母さんによると「油絵具もありますけど、油は乾くまで時間がかかるから、尚は待っていられない。本人は、アクリルは乾くのが早いところが気に入った」そうです。
確かに、待つことが苦手な自閉症の方にとっては、絵具選びも大切ですね。
お母さんによると「油絵具もありますけど、油は乾くまで時間がかかるから、尚は待っていられない。本人は、アクリルは乾くのが早いところが気に入った」そうです。
確かに、待つことが苦手な自閉症の方にとっては、絵具選びも大切ですね。
その福島さん、こんなにすごい絵を描かれるの ですが、「はじめに」にあったように、職業は職業画家という訳ではなく、毎日作業所に通われ お仕事をされています。
中学卒業後電気製品の基盤を作る会社に就職 したのですが、10年ほどして仕事自体が海外生産に移ったので、その会社の社長さんが立ち上げた福祉作業所で働くようになられました。
最初は農作業、次がリサイクル班、現在はパン屋で働かれています。
中学卒業後電気製品の基盤を作る会社に就職 したのですが、10年ほどして仕事自体が海外生産に移ったので、その会社の社長さんが立ち上げた福祉作業所で働くようになられました。
最初は農作業、次がリサイクル班、現在はパン屋で働かれています。
そのため、絵を描くのは夜や休みの日だけなので、作品の完成には3ヶ月ほどかかっているそうです。福島さんにとっては、絵を描くというのは生活のためではなく、楽しみのためのようです。
考えてみると、人生という大きな流れの中ではその方が幸せだと言えるように私も思います。
ご両親からのメッセージです。
父 : カラオケも好きです。演歌をよく歌いますが、これは話す言葉を滑らかにするのに効果がありました。文字にも最近、興味が沸いてきたようで、私に「これはなんて書くか?」「なんて読むか?」と質問してきます。
学校に行く年齢がとっくに終わって、なんでいまごろ? と思いますが、いくつになったっていいんです。何かに目覚めて進歩がまだ続いているんです。
母 : 尚は何十年もずっと変われなかったけど、福祉作業所で突然配属されたパン屋さんにすんなり変われた。20歳頃、知的には6歳半と言われましたが、いまちょうど中学生くらいなんじゃないかと思うんです。中学生ってわりと冒険心が出てきますよね。
最近、何にでも興味を持ち出しましたし、これからまた、尚はどういうふうに生きていくのか。親はどんどん年をとりますから。なんでも手伝ってくれて、いまは尚に助けられています。逆に。
「人は必ず成長する」とは服巻智子先生の言葉ですが、「自閉症児はいつまでも成長し続ける」そんな想いも抱かせていただける画集でした。
最後に裏表紙にも載っている「川越の動脈」を紹介します。
残念ながら、会報に載せた絵では色までは分から ないとは思いますが、空は見事な あかね色に染まっています。
この絵も実際に福島さんが見られた 風景は夕方ではなかったそうですが、 暖かい家路に向かう電車や車の姿に、 おだやかな日常を過ごせるように なったご家族の様子が重なって見え、 幸せのおすそ分けをいただいたよう でホッとするような1枚です。
残念ながら、会報に載せた絵では色までは分から ないとは思いますが、空は見事な あかね色に染まっています。
この絵も実際に福島さんが見られた 風景は夕方ではなかったそうですが、 暖かい家路に向かう電車や車の姿に、 おだやかな日常を過ごせるように なったご家族の様子が重なって見え、 幸せのおすそ分けをいただいたよう でホッとするような1枚です。
この画集、事務局に置いておくよりも、広くみなさんに見ていただきたいと思い、「自閉症 才能きらり展」が行われているスプリングカムカムのカウンターに置いておきますので、お昼のランチの際にでも、ぜひ一度ご覧ください。
(「育てる会会報 228号) 2017.4 より)
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福島尚鉄道画集 ~線路は続くよ~
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目次
はじめに
Part.1 Prologue
首都圏大宮
赤電黄色電のヒーロー 西武新宿線 所沢駅
追憶 宇都宮機関区
特急レッドアロー 飯能駅
線路は続くよ
フレートエクスプレス (心象画)
停旦切替信号機 高麗川駅
未来へ線路は続く
赤電黄色電のヒーロー 西武新宿線 所沢駅
追憶 宇都宮機関区
特急レッドアロー 飯能駅
線路は続くよ
フレートエクスプレス (心象画)
停旦切替信号機 高麗川駅
未来へ線路は続く
Part.2 特殊車・貨物車
石灰石列車DD51 八高線 旧東飯能駅
太平洋セメント引込線
動力車
碓氷峠の力持ち
ホッパ車 青梅線
東海道貨物列車(近江長岡‐柏原)
EF重連・上越線
セメント貨車 西武鉄道
奥羽本線 津軽湯の沢駅
東北本線 EF57 郵便荷物列車
故郷便り 十和田号
太平洋セメント引込線
動力車
碓氷峠の力持ち
ホッパ車 青梅線
東海道貨物列車(近江長岡‐柏原)
EF重連・上越線
セメント貨車 西武鉄道
奥羽本線 津軽湯の沢駅
東北本線 EF57 郵便荷物列車
故郷便り 十和田号
Part.3 東北旅行
旅先
潮風 JR八戸線
春よ来い(三陸鉄道)
三陸鉄道復興の旅Ⅱ
潮風 JR八戸線
春よ来い(三陸鉄道)
三陸鉄道復興の旅Ⅱ
Part.4 東京
首都の目覚め 新宿駅
東京駅
京浜東北線 鶯谷駅
あきがわ号 五日市線 拝島駅
ニューレッドアロー小江戸号 小平駅
西武池袋線 椎名町‐池袋駅間
東京メトロ銀座線 和光本館
東京メトロ銀座線
東京駅
京浜東北線 鶯谷駅
あきがわ号 五日市線 拝島駅
ニューレッドアロー小江戸号 小平駅
西武池袋線 椎名町‐池袋駅間
東京メトロ銀座線 和光本館
東京メトロ銀座線
Part.5 いろいろな土地の鉄道
峠越え
銀河への旅へ 鉄道文化むら
ブルートレイン能登号 大宮駅
黒部峡谷鉄道 トロッコ列車
城端線
再会 久留里線・木更津
古利根川鉄橋 東北本線
運転体験車 鉄道文化むら
そよかぜ 信越線
風覧望 会津鉄道
会津川口駅 只見線
夜行列車 八甲田号(心象画)
凍てる鉄路 急行ニセコ
岩見沢駅
銀河への旅へ 鉄道文化むら
ブルートレイン能登号 大宮駅
黒部峡谷鉄道 トロッコ列車
城端線
再会 久留里線・木更津
古利根川鉄橋 東北本線
運転体験車 鉄道文化むら
そよかぜ 信越線
風覧望 会津鉄道
会津川口駅 只見線
夜行列車 八甲田号(心象画)
凍てる鉄路 急行ニセコ
岩見沢駅
Part.6 故郷
車窓の風 八高線
八高線 高麗川駅
通勤 八高南線
高麗川鉄橋 八高線
日が暮れる 八高南線
八高線 毛呂駅
八高北線 秋
川風 西武線 入間川橋梁
パレオエクスプレス 秩父鉄道
残響 八高線
武蔵高萩駅旧駅舎
川越線 高麗川駅へ入線
川越の動脈
八高線 高麗川駅
通勤 八高南線
高麗川鉄橋 八高線
日が暮れる 八高南線
八高線 毛呂駅
八高北線 秋
川風 西武線 入間川橋梁
パレオエクスプレス 秩父鉄道
残響 八高線
武蔵高萩駅旧駅舎
川越線 高麗川駅へ入線
川越の動脈
ペーパークラフト
父母が語る尚さんの生いたち