立石流 子どもも親も幸せになる発達障害の子の育て方 | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

立石 美津子:著 市川 宏伸:監修 すばる舎:発行 定価:1400円+税 (2016年10月)
 
                 私のお薦め度:★★★☆☆
 
これまでも育児書をたくさん出版されたり、幼児教室の経営などをされていた、シングルマザーの立石 美津子さん、「実は16年、自閉症の親をやってます」と初めて明かして書かれた本です。

でもこの本は、子育ての専門家、という視点からではなく、本当の一人のお母さんが、アッチで悩み、コッチで壁に当たりながら、やっとつかんだ親子の物語です。
この物語は、こんな書き出しで始まります。
 
どんなに医学が進歩しても、障害児はいつの時代でも一定の割合で生まれます。
医師から「お母さん、自閉症は生まれつきの脳の障害で一生治ることはないですよ」と言われました。 正直な気持ちを書きます。
私の未来予想図のなかには“障害児の母になる”などという計画はまったくありませんでした。
 
落ち込んでいる私をママ友が慰めてくれました。
「子どもは親を選んでやってくるのよ。神様がくださった天使なのよ。立石さんなら育てられるからやってきたのよ」
私は当時、幼児教室を経営し、特別支援学校の教員免許も持ち、子育てのプロだと思われていたので、こう励ましてくれたのでしょう。
けれども、私は心の中で「きれいごとを言わないでよ。神様に選ばれたくなんかなかったわよ。ああ、クジ運悪い・・・・!」と叫んでいました。
 
どこかで聞いたような、言われたようなフレーズですね。
そう、自閉症児を育てているお母さんなら、誰でも一度は最初に通った道だと思います。
そして著者の立石さんも悩みながら、少し回り道をしたかもしれませんが、やがては「たくさん悩んだけれど今は幸せです」と、この本を出版されています。通り抜ければ、笑い話になるエピソードは、みなさんたくさん持たれていると思いますが、“当事者”だった頃は大変だったはずですね。
本書は、今そんなトンネルの中にいるお母さんたちに、道に迷わずトンネルの出口に向かって歩いていけるように、と書かれた本だと思います。
 
書かれている内容自体は、とりたてて目新しいものではなく、育てる会の会員のみなさんからは一度は聞いたことのあるような話かもしれません。それは勉強会で先輩のお母さんから聞いたり、講演会でたくさんの先生、佐々木正美先生や吉田友子先生、服巻智子先生などなど(次の岩永先生のセミナーでもう90回目です)のお話しを聴いてこられたからなのでしょう。

でも改めて本書を読んでみると、わかったつもりでいても、子育ての中でいつのまにかつい忘れてしまいがちな親の心構えも多いように思えます。
 
療育施設のスタッフから「どの子にも必ず秘めた才能がありますから、お母さん、夢を諦めないで」と励まされている人をよく目にします。その言葉を支えにすごくがんばっているママもいます。
たしかに幼児期に「一生このままだ」と思ったら絶望しか残りません。これらの励ましの言葉は希望になることもあります。
でも、親の心の奥には「あなたが障害さえ克服してくれたら、ママは幸せになれるのに・・・」という気持ちがあるのかもしれません。「きっと伸びる、才能がある」の言葉を隠れ蓑にして、“今、目の前にいるわが子の障害受容ができない親自身の姿”がそこにあるのかもしれません。
 
伸びると信じて夢や希望を持つことはよいことです。でも伸びない子どもを受け容れて初めて、受容になるのだと思います。
もしかして、障害の受容って、子どもの障害を受け容れるというよりは、親が「障害を受け容れたくない自分」を受け容れることかもしれません。
 
そうですね。「子どもも親も幸せになる」ためには、まずは親がまず「優れた才能を発揮しなくても、どんなに小さなことでも、昨日よりもできたことを喜ぶ」ことから始めることが大切だということですね。
まして、これまで一人で頑張ってこられたようなお母さんにとっては、見落としがちな視点ともいえるでしょう。
では、スタッフとしてはどんなアドドバイスがいいのでしょう。

それは次回のセミナーをお願いしている岩永竜一郎先生も語られています。
「自閉症を完全に治すことはできないですが、適応をよくすることはできます」
前回のセミナーで服巻智子先生もおっしゃられました。自閉症や発達障害を持つ子どもたちも、「人は必ず成長する」。
事実は事実として伝えて、でも適切な支援があれば大きく伸びていきますよ、と希望を持って伝えてあげることだと思います。
 
また、これまで悩みながら、工夫しながら子育てをしてこられた立石さんですから、本書をノウハウ本として読んでも、ヒントになるような話もたくさんあります。
 
パニックへの対応に疲れ切っていたある日、渋谷で息子が迷子になりました。必死で探しながら、頭の片隅では「永遠に見つからなければいいのに・・・」とまで思っていました。
療育の先生や医師は、生徒や患者に対して“仕事”と割り切れるでしょう。でも私は24時間年中無休で向きあっていなくてはならず、こっちの頭がおかしくなりそうでした。
そんなとき助けてくれたツールが耳栓。聴覚過敏のある息子もしていましたが、私も息子の奇声を聞くのに耐えられず、つけていました。
その頃、息子は自傷行為が激しかったので、抗精神病薬を処方してもらっていました。私も抗鬱薬を飲み続けていて、親子そろって同じような感じになっていました。
大変な時期は、自分一人の努力や気合や精神力で乗り越えようとしないで、SOSを出して医師から薬をもらったり、耳栓をするのも必要悪ではないでしょうか。それで少しでもラクになれたら親子ともにプラスになります。
 
聴覚過敏な我が子に耳栓やイアーマフをつけてあげることはあっても、その子の奇声や同じ質問の繰り返しが耐えられなくなった時、自分がつけるという発想はなかなかでてこないですね。
立石さんが書かれているように必要「悪」だと感じてしまい、自分が子どもを拒否しているような、やましい思いになるからかもしれません。
でもそれによって、お互いの気持ちが平穏に保たれるとしたら、試してみる価値はありそうですね。
 
また、立石さん自身がまわりの方からヒントをもらって子育てに生かしてこられています。
 
簡単な買いものを一人でできるようにと、私が息子にオリジナルプリントをやらせ、コンビニでも買いものの練習をしていることを伝えると、担任の先生は「お金をそんなに躍起になって教えなくてもいい」とまで言いました。そしてこう続けました。
①  ・・・
②  日本は治安がいい国である。お金の計算なんてできなくても、お店の人がやってくれる。もし買いものをして、どれだけ出したらいいかわからなくても、財布を広げて「わからないので取ってください」と言えば、店の人が多めにとることはしない。お釣りだって「この人、馬鹿だから」と判断して、わざと少なく渡す悪人はいない。
③ ・・・ 等々
 
確かに、我が家でも育てる会のAAO活動 (街の中にボランティアさんと一緒にでかけて、いろいろ体験する活動) などで、初めて買いものの練習をした頃には、まだお金のやりとりができなかったので、財布を出してお店の人にとってもらうよう、ボランティアさんにお願いしていました。

でもそう言われてみると、あれは治安のいい日本だからできたのでしょう。最近の中国などの様子をニュースで見ていると、生き馬の目まで抜きかねないような国では、怖くてできないですね。
見せた財布ごと取り上げられてしまいそうです。欧米に比べて、日本では自閉症の理解がなかなか進まないことを嘆いていましたが、日本人の国民性の良さ、治安の良さを再認識できたアドバイスでした (^_^)
 
ただ最後に、本書で少し気になったのは、各ページの中で強調したい箇所がゴシック体で表記されている体裁・・・。わかりやすいといえばわかりやすいのですが、私にはその表現の部分が、ちょっぴり断定的過ぎて押し付けがましいようにも感じられました。
気にしなければいいようなものですが、できましたら次の版では考慮(そのまま前後と同じフォントで記載するような形で)していただければ、もっと自然な形で気持ちよく読めるように思えます。今の形では、誰か前に読んだ人がラッションペンでアンダーラインを引いた後の本を読んでいるような感じでした。

それ以外は、内容については問題ないと思いますので、もし周りに障害告知を受けたばかりの方がいましたらお薦めしてください。
 
                (「育てる会会報 225号」 2017.1 より)
 
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目次
 
  はじめに
 
第1章 自閉症児を16年間育てて見えたこと
 
  後ろ向きでガチガチ頭だった私
    自己肯定感の低い「いい子」で育った
    出産時に抱いた違和感
 
  理想通り育てたいのに、うちの子どこか変・・・?
    0歳から英才教育をしても、人に無関心のまま
    保育園で明らかに他の子と違う
 
  まさかの自閉症の告知
    どうして、うちの子が・・・・
    食物アレルギーだけでも大変なのに!
    1年間の病院巡り
 
  暗闇から救い出してくれた先輩ママ達の存在
    「自閉症協会親の会」に入る
    手づかみ食べの悩みに「世界では普通よ」
 
  小学校はあえて「支援学校」を選びました
    認められる回数を増やしてやりたい
    対応がきめ細かい支援学校
 
  小3で転入した「支援学級」はこんなところ
    無理やり転校させられる
    自立のためのトレーニングはしてくれない

     【コラム】面接で転校先の学校から釘を刺される
 
  高校では就労訓練を受けられる幸運
    中学ではビりでした
    作業、作業の連続
    
第2章 発達障害の子をのびのび育てるための心がまえ
 
  障害を受け容れても葛藤するのが当たり前
    健常児の姿を見ることがストレスに
    保育園での特別扱いにも被害妄想・・・・
    「比べる病」はなかなか消えない
 
  療育選びは慎重に
    苦手を克服させる療育施設もある
    施設によって方針は180度違う
 
  「二次障害」だけは絶対に避けたい
    入院病棟で鉄格子のなかにいた子
    親が障害を認めないことで起こること
    不登校や鬱に陥らせないために
 
  「健常児に近づける」ことを目標にしない
    「1日も早く〇〇できますように」
    親の期待に応えようと子どもが苦しくなる
    いい意味で開き直る
 
  「才能の温泉」を掘り当てられる人はごくわずか
    もしかしたらギフテッドかも?
    「今がんばれば未来が開ける」の罠
    天才ピアニストを目指すも1年で挫折
    脚光を浴びる人は一握り
 
  周りから傷つく言葉を言われたら
    水泳教室で入会を断られる
    「他のお子さんに迷惑なので」
    初めから障害者枠を希望すればよかった・・・・
 
  無表情であっても、ちゃんと心で感じています 
    自分の意思をうまく伝えられない
    お別れが悲しくて出た涙
 
  叱りたくなるところは、本当はその子の強み
    「騒がしい」は「元気」に、「しつこい」は「粘り強い」
    見方を変えるだけでラクになる
    子どもの持ち味をどう生かす?

     【コラム】言葉だけを変えても本質は変わらない
 
第3章 日常生活はこうサポートして「できる」を増やす!
 
  パニックは時間が解決してくれる
    頭を打ちつけたり腕を噛んだり、凄まじい破壊力
    親が巻き込まれてはいけない
    薬と耳栓に助けられる
    嵐は必ず過ぎ去ります
 
  こだわりには「とことんつきあう」覚悟で
    「わがまま」と「こだわり」の線引きは難しい
 
  食べられるものが5種類だけ
    「他のメニューを作らずにすんでラク」と考えて
    「これがないなら、あれ」と絶対に流せない
 
  パズルは同じものを3セット買い置き
    1ピースなくなるだけでパニックに
    同じ色やデザインの服にこだわる
    衣替えは数日かけて少しずつ
 
  3000系の各駅停車しか乗れない
    ムリに他の電車に乗せて大暴れ
    2年かけて克服
 
  言葉の練習の前に「話したい」気持ちが大切
    5歳になってもしゃべらない・・・・
    言葉を真似ても、ただのオウム返し
    店員に「まだ食べる!」と叫ぶ
 
  「暗黙の社会ルール」を教えるのは難しい
    「あの人太ってるね」「痴漢は犯罪」を大声で・・・・
    消火器の「引き抜く」に反応してしまう
    8年続いているトイレへの執着
    趣味を禁止するのはかわいそう
 
  こうすれば外出先でも落ち着いて過ごせる
    予防接種は何日も前から予告
    スーパーでの買い物は毎回一苦労
    周囲の理解が得やすくなる「愛のワッペン」

     【コラム】療育手帳とは
 
  家の中を療育の場にしないで
    おやつを封筒に入れてハサミの練習
    家庭は安全基地であるべき
    ハードルの低いことからコツコツと
 
  一人でできることは確実に増えていきます
    定期を忘れて財布からお金を出せた!
      
第4章 子どもがベストな環境で過ごせる学校選び
 
  「自信を失わずいられる場所」を与えてあげたい
    教室内でお客様状態
    成功体験を毎日味わえるかどうか
 
  「自由のびのび保育」の園があうとは限らない
    「クラスが勝てないから運動会休んで」
    「何をしてもいい」は「何をしたらいいかわからない」

      【コラム】園から「専門機関」を勧められたら・・・
 
  どうする? 先生や他の親子へのカミングアウト
    担任に自作の「息子カルテ」を渡す
    ほとんどのママ達が好意的だった
    園児達には工夫して伝える
    どんどんSOSを出そう
 
  小学校の選択肢は3つ。どれがベスト?
    通常学級に入れるかどうかは親次第
    支援学級と支援学校
    「這い上がれない」という噂

      【コラム】就学時健診を受けずに隠れた人
 
  通常学級とはこんなところです
    40人単位で集団行動をする場所
    学級崩壊しているクラスもある
    「合理的配慮」が義務化されても・・・・
 
  グレーゾーンの子どもの行き場
    通常学級から「通級指導教室」に通う方法も
    担任に伝えておくといいこと
    なんでも障害のせいにする困った風潮
 
  わが子が「いじめ」にあったときは
    「あの子の母さん怖い」と思わせるのもアリ
    健常児と障害児がとみに学ぶ環境
    グレーゾーンの子の生きづらさ
    団体競技で足を引っ張ってしまう
    
第5章 この先、親子で幸せに生きていくために
 
  小学校卒業後の進路はどうなるの?
    中学の就学相談で判定結果が出る
    中学の支援学級は学力差が激しい
    生きる力をつけるのが目標
    難しい計算はできなくてもいい
    成長をしみじみ感じられる瞬間
 
  学歴か、就労訓練か
    支援学校高等部へ入学
    強力な就労サポートを受けられる環境

     【コラム】個性か障害か
 
  障害者枠で大手企業に入ることが「成功」なのか?
    「一般就労」は輝いて見えるけれど・・・・
    就労はゴールではなくスタート
    企業が求めるのは生産性やコミュニケーション能力

     【コラム】職を転々とする人
 
  単純作業を不憫と思うのは親のエゴかもしれない
    カッターで延々と同じ紙を切る
    授業参観でのカルチャーショック
    本人が楽しければ問題ない
 
  性問題には目をそらさず向きあって
    性の目覚めはやってくる
    異性との距離感などをひとつひとつ教える
    隠したり見て見ぬ振りはダメ

     【コラム】シングルマザーならではの悩み
 
  将来の「別れ」にそなえて今からできること
    親亡きあとも助けてもらえる関係作り
 
  さいごに