気になる子の体育  ~授業で生かせる実例 52~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

阿部 利彦:監修 学研 定価:1800円 + 税 (2015年8月)
 
                私のお薦め度:★★★☆☆
 
今月は、いつもの自閉症への理解や子育ての話とは少し離れて、実践書の紹介です。
この分野では、隠れた名著(と、私は思っているのですが・・・)「フープとびなわでなわとびは誰でも跳ばせられる(高畑 庄蔵:著、 明治図書)」などがありますが、手と足の協調運動などが苦手な子も多い自閉症児たちです。なわとびや器械体操などでは不器用さが目立ちますし、チーム競技ではルールの理解が難しかったり、相手チームの意図が読めなかったり・・・体育を苦手としているお子さんも多いのではないでしょうか。
 
確かに、体育は授業の中では一つの科目に過ぎないですし、学校卒業後は苦手であれば、やらなくてもいい科目かもしれません。時計や文字を覚える方が、将来の生活には役立つようにも思えます。
 
でも、見方を変えれば、テストなどでしか結果がはっきりとは表にでない国語や算数などに比べ、いやがおうでも周りに“見えて”しまう体育は、子ども達、特に小学校時代には学校生活には大きなウェイトを占めているとも言えるでしょう。
スポーツの得意な子はクラスのヒーローにもなれますが、苦手な子ども達は周りからからかわれたり、チームが負けた原因となじられたり・・・失敗体験や自己否定感にとらわれてしまうことも考えられます。
そこで、本書の登場です。個別の課題で、なぜつまずいてしまうのか、自閉症スペクトラム、ADHD、LD、発達性協調運動障害など、それぞれの障害の抱える苦手な部分を氷山モデルとして捉え、改善策をスモールステップで提案されています。
 
「鉄棒運動=逆上がり」と言っても過言ではないほど、なぜか日本では逆上がりをさせたがります。体育の授業では練習をさせられて、失敗の連続を経験することで諦めてしまう子がいます。そのような子は、鉄棒を握ることすらしなくなります。
失敗を続けることは、子どもがやる気をなくすことへつながり、マイナス以外のなにものでもありません。類似の運動を豊富に経験させてあげることで、頑張ったらできるようになるという成果を感じられるように指導していきましょう。
 
私の子ども時代には、ひたすら「全員、出来るまで練習!」で、放課後もできない子は居残りで鉄棒に向かわさせられていた記憶があります。
 
逆上がりができるようになるには、体幹や四肢の締め感覚と後方への回転感覚が必要です。
体幹や四肢の締め感覚と後方への回転感覚を培う易しい運動をいくつか紹介します。
① 登り棒
② ダンゴムシ
③ ゆっくり前回り
④ にょろ転
⑤ 足抜き回り
⑥ 宙返り
⑦ ジャングルジム回り
⑧ 登り棒回り          
⑨ ふとん干しからの起き上がり
 
言葉だけの項目では分からないと思いますが、本書の中では、逆上がりが出来るまでのウォーミングアップ作戦として、基礎感覚を培うための易しい運動を解説とイラスト入りで、アドバイスも交えながら詳しく紹介されています。
昔も、こんな風に指導してもらえれば、運動の苦手な子も、みんなが楽しく逆上がりができるようになったのでは・・・と思います。
 
そして本書の基礎にあるのは、なにより楽しく運動に取り組むことです。
 
発達のつまずきのある子どもたちの中には、姿勢の保持や運動に苦手さのある、いわゆる「不器用」な子がいます。また、運動は全般的に得意なのに、自分の順番を待つことが難しかったり、相手の気持ちを考えるのが苦手だったりするために、叱られる体験を積み重ねてしまっている子もいます。
本書は、そうした体育の授業でおきがちな「うまくいかなさ」に寄り添い、今までよりもたのしく運動ができるようになることをめざしています。
 
そのため本書ではアチコチに、楽しく取り組むためのアイデアやコツがあふれています。
例えば「コースをまっすぐに走れない子」には、「人はまっすぐ前を見ずに走ると、曲がってしまう」ことを体感させるために、みんなでラインに沿ってジョギングを始め、ゴールの先で先生が「あっち向いてホイ」と言う指で示したほうと反対側を向きながら走るゲームの紹介もあります。
ご親切にも「同じ方向に2回向かせると曲がりやすい」などとアドバイスまであるように、しっかり前を見ていないと曲がってしまうことを楽しく分かってもらうための練習です。
 
他にも、「長なわ跳びにうまく入れない子」や「プールで力が入って沈んでしまう子」「うまくボールをキャッチできない子」など、いかにもよくありそうな課題への対処について、それぞれ原因を説明しながら、その対応方法が載っています。
 
ただ、帯に 「通常学級の体育で気になる実例52 + 苦手・つまずきの解決に向けた応援プラン135」とあるように、対象はどちらかというと知的にあまり遅れがなく、先生からの指示の理解できる、通常学級での生徒の指導が中心のように思えます。
もちろん、知的に遅れがあっても使えるアイデアは多いのですが、支援学校などで応用するには、さらにひと工夫がいりそうです。

また、小学校の担任の先生や、体育を教えられている先生には、ぜひ手元に置いていただきたいお薦めの一冊ですが、一般の保護者にとっては、わが子のつまずいている所だけを抜き出して読んでいただいてもいいのかもしれません。また普段、いつもの体育の授業を参観していないお母さんにとっては、まずはわが子がつまずいているのか、いないのか、知るところから始めることが必要かもしれません。
 
本書は事務所の図書コーナーに置いておきますので、興味のある方はぜひご覧ください。
 
              (「育てる会会報 217号」 2016.5より)
 
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目次 CONTENTS
 
  はじめに 「できる」「楽しい」体育授業をより多くの子どもに ・・・ 阿部利彦
 
序章 苦手やつまずきを解決するために ・・・ 川上康則・清水 由・小島哲夫
 
1章 体つくり運動
 
  短なわ跳び(前回し)
    リズムよく前回しができない子 ・・・ 松川好孝
 
  短なわ跳び(あや跳び・交差跳び・二重跳び)
    腕を交差させたつもりの子、なわを速く回せない子 ・・・ 清水 由
 
  長なわ跳び
    長なわ跳びでうまく入れない子 ・・・ 小島哲夫
 
  鬼ごっこ①
    すぐに捕まってしまう子 ・・・ 川上康則
 
  鬼ごっこ②
    タッチされると怒る子 ・・・ 川上康則
 
  姿勢保持・身体操作
    すぐに姿勢が崩れたり、座り込んだりしてしまう子 ・・・ 清水 由
 
  力加減の調節
    力加減の調節が苦手な子 ・・・ 川上康則
 
  ◎ 固定遊具を使った遊び ・・・ 清水 由
 
  ● 体つくり運動と感覚 ・・・ 阿部利彦
 
2章 器械運動
 
  マット運動(前転)
    まっすぐ回れず、左右に曲がってしまう子 ・・・ 小島哲夫
 
  マット運動(後転)
    怖がって、勢いよく回れない子 ・・・ 川上康則
 
  マット運動(側方倒立回転)
    側転をしようとして、ひっくり返ってしまう子 ・・・ 清水 由
 
  マット運動(壁逆立ち)
    背中を打ったり、頭を打ったりしてしまう子 ・・・ 清水 由
 
  鉄棒運動(逆上がり)
    失敗ばかりして、諦めている子 ・・・ 清水 由
 
  鉄棒運動(前回り下り)
    前回りすると体が反り返ってしまう子 ・・・ 清水 由
 
  鉄棒運動(かかえ込み回り)
    痛くて回ることが楽しめない子 ・・・ 清水 由
 
  跳び箱運動(開脚跳び①)
    怖くて、どうしても飛び越せない子 ・・・ 清水 由
 
  跳び箱運動(開脚跳び②)
    リズムが合わず、力強く踏み切れない子 ・・・ 小島哲夫
 
  跳び箱運動(台上前転)
    すぐに頭を着けてしまい、うまく回れない子 ・・・ 小島哲夫
 
  跳び箱運動(シンクロ跳び箱)
    達成感が少なく、意欲が上がらない子 ・・・ 小島哲夫
 
  ● 運動とラテラリティ ・・・ 阿部利彦
 
3章 陸上運動
 
  かけっこ①
    コースをまっすぐ走れない子 ・・・ 渋谷 聡
 
  かけっこ②
    手足の動きがぎこちない子 ・・・ 渋谷 聡
  リレー

    足の速さで勝負が決まり、リレーを楽しめていない子 ・・・ 渋谷 聡
 
  ハードル走
    リズムやタイミングの取り方が苦手な子 ・・・ 渋谷 聡
 
  走り幅跳び
    両足で踏み切ったり、低く跳んでしまったりする子 ・・・ 松川好孝
 
  走り高跳び
    記録が伸びず、意欲が上がらない子 ・・・ 山下大晃
 
  ◎ 「走る運動」の指導アイデアを考える ・・・ 渋谷 聡
 
  ● 体育における指導の工夫 ・・・ 阿部利彦
 
4章 水泳
 
  水慣れ(顔つけ)
    水に顔をつけられない子、目を開けられない子 ・・・ 川上康則
 
  水慣れ(浮く)
    プールの底から足を離すのが怖い子 ・・・ 清水 由
 
  水慣れ(背浮き)
    力が入って沈んでしまう子 ・・・ 川上康則
 
  水慣れ(呼吸)
    水中でうまく息が吐けない子 ・・・ 小島哲夫
 
  クロール(キック)
    ばた足がうまくならない子 ・・・ 川上康則
 
  クロール(手のかき)
    手のかきが横に流れてうまく進めない子 ・・・ 小島哲夫
 
  クロール(呼吸)
    顔を前に上げて呼吸しようとする子 ・・・ 小島哲夫
 
  平泳ぎ(キック①)
    キックの感覚がつかめない子 ・・・ 川上康則
 
  平泳ぎ(キック②)
    浮けない不安からかえる足が習得できない子 ・・・ 結城光紀
 
  ● 体育におけるリフレーミング的指導 ・・・ 阿部利彦
 
5章 ボール運動
 
  すべてのボール運動に必要な基礎的な動き
    最初から「無理!」と決めてしまう子・・・ 清水 由
 
  投げる
    同じ側の手と足が同時に出てしまう子 ・・・ 小島哲夫
 
  捕る
    うまくボールをキャッチできない子 ・・・ 小島哲夫
 
  ゴール型(めちゃサッカー)
    ゲームに熱中できていない子 ・・・ 小島哲夫
 
  ゴール型(I型ゴールサッカー)
    サッカーで活躍できず、すねてしまう子 ・・・ 北村尚人
 
  ネット型(ソフトバレーボール①)
    ラリーが続かず、ゲームを楽しめていない子 ・・・ 小島哲夫
 
  ネット型(ソフトバレーボール②)
    ルールや状況がわからず、ゲームに参加できない子 ・・・ 結城光紀
 
  ベースボール型(ティーボール)
    技術やルールが難しくて、ゲームを楽しめていない子 ・・・ 小島哲夫
 
  ◎ 「ボール運動」領域の授業をシンプルな学びに ・・・ 清水 由
 
  ● ボール運動とビジョントレーニング ・・・ 阿部利彦
 
6章 表現運動
 
  表現①
    動きの模倣が苦手な子 ・・・ 川上康則
 
  表現②
    恥ずかしがる子、動き方がわからず戸惑う子 ・・・ 松川好孝
 
  ● 表現運動とさまざまな機能 ・・・ 阿部利彦
 
7章 ソーシャルスキル
 
  ルール
    ルールを守れない子 ・・・ 川上康則
 
  人のせい
    人のせいにする子 ・・・ 川上康則
 
  勝ち負けへのこだわり
    勝ち負けにこだわりが強すぎる子 ・・・ 清水 由
 
  結果を引きずる
    結果をずーっと引きずる子 ・・・ 川上康則
 
  自己肯定感
    自己肯定感が低い子 ・・・ 山下大晃
 
  自己有能感/自己有用感
    動き方がわからず、迷惑をかけていると悩む子 ・・・ 北村尚人
 
  ● 体育の授業で「ソーシャルスキルトレーニング」 ・・・ 阿部利彦
 
8章 体力テスト/運動会/応援
 
  体力テスト
    順番を待っていられない子、行い方がわからない子 ・・・ 川上康則
 
  運動会
    運動会シーズンになると不安が強くなる子 ・・・ 川上康則
 
  応援
    仲間にきつい言葉をかけてしまう子 ・・・ 清水 由
 
おわりに 体育と発達障害 子どもの特性を踏まえて  ・・・ 阿部利彦