自閉症の人の自立への力を育てる ~幼児期から成人期へ~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

篁 一誠:著  NPO法人東京都自閉症協会編  ぶどう社  定価:2000円 + 税 (2013年4月)
 
     私のお薦め度:★★★★★
 
山陽新聞 『読書三昧』 より
 
 自閉症と知的障害のある25歳の次男は2歳の時に診断を受け、小学校は地元の小学校の養護学級(現・特別支援学級)、中学、高校は養護学校(現・特別支援学校)で学びました。卒業後はベアリングメーカーに就職し8年目になります。

 息子のような自閉症をもつ人への、幼児期から、学齢期、思春期、青年期、成人期それぞれの特徴と関わり方を、実例を踏まえ実践的にアドバイスした本が本書。長期的な視野で、しっかりした大人に育てるための本と言えそうです。

 著者の篁(たかむら)さんは46年間、神奈川県の医療、福祉施設で当事者と家族に関わってきた経験豊富な臨床心理士。2010年度に行った東京都自閉症協会の連続講座の要旨を一冊にまとめました。岡山県自閉症児を育てる会でも07年、岡山に招き講演してもらいました。

 特に印象的なのが「10歳の夏休みから、10年計画で、家事のできる人に育てましょう」という提案。18歳で社会に出る時に、自立して生活していける力を育てていくためです。
 
 偶然ですが、我が家でも多動だった次男が少し指示が聞けるようになった、10歳の夏休み、家事を教え始めました。妻が、食事の片づけ、洗濯、掃除など一つひとつ教えていきました。自閉症のある人は一度でも学んだことは律儀に続けることができます。それだけに、最初に正しいやり方で、きちんと教えることが大切だと思います。
今では私より料理が上手で、忙しい妻に代わって唐揚げやトンカツ、おでんなどを作ってくれます。

 篁さんは、成人期に自立、安定した生活を送るには、それまでの療育、教育、支援を通じて「どのように意欲を引き出すかが大事」と指摘しています。これにも家事は有効でした。洗濯を干したら20円、食事を作ったら50円など、次男は働くことで報酬をもらい、そのお金を貯めて好きなものを買った体験が、今、働く意欲につながっていると思います。
 
 もう一つ、本書を読んで印象深かったのが、篁さんが自閉症を持つ人への支援を、マラソンの伴走者に例えて語っていること。実は息子が入社した会社で指導員の方に誘われて参加した、実際のマラソン大会でその大切さを実感しました。
シドニー五輪女子マラソンに出場された山口衛里さんや天満屋女子陸上部監督だった武富豊さんらが話を聞き、チームを組んで息子の伴走してくれました。私も一緒に走ろうとしたのですが、500メートルがせいぜい。あとはついていけなくて「行ってらっしゃい」と見送りました。
親はいつまでも一緒には走れないということを思い知らされました。

息子はその後、山口さんに誘われて入った地域スポーツクラブ・桃太郎夢クラブで毎週、楽しそうに走っています。クラブで知り合った市民ランナーの方に誘われ、来年は備前市の「えびす駅伝」にもチームの一員として参加するそうです。
 
親はいつまでも子どもを見守れません。社会に出たら次第に子離れをし、若い伴走者の方を探して、親亡き後も息子が幸せに暮らしていけるよう、お願いしていくことが大切だと思っています。 (談) =聞き手・中浜隆宏
 
        (山陽新聞 夕刊 「読書三昧」 2014.1.14付け :「育てる会会報 189号」 2014.1より)
 
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目次
 
  はじめに
 
序章 自閉症の人たちに学びながら
 
1章 自閉症の人は、どんな人たちか
 
  1 こんな生き方をしている
      人に頼らないで生きる
      自分の感性に正直で律義
      なぜそういう行動をするのか、考える
 
  2 〈自閉症の特性〉 を見直す
      生理的な特徴に気づいてあげたい
      あまり病気にならない、ケガも少ない
      本当に理解するための関わりを
      自閉症の人の言葉と私たちの関わり方
 
  3 関わるときは、こんなことを大事に
      〈いいところを見つけて伸ばす〉 が基本
      言葉かけはこんなふうに
      たくさん褒めて、自信や意欲を育てる
      しっかり観察して、正確に記録をとる
 
2章 幼児期の特徴と関わり方
 
  1 幼児期には、どんなことがあるか
      この時期の3つの特徴
      言葉はどんなふうに変化するか
      人とどんなふうに関わっているか
 
  2 幼児期には、こんな関わり方を
      言葉のかけ方を変えましょう
      距離感をはかりながら関わる
      予定変更をどう伝えればいいか
 
  3 家庭での学習をどう進めるか
      人から教わる気持ちを育てる
      家庭で学習するときのヒント
 
3章 学齢期の特徴と関わり方
 
  1 学齢期には、どんなことがあるか
      生活圏が家庭・学校・地域と広がる
      自己主張をうまく言葉で表現できない
      感情表現の仕方が変わってくる
 
  2 学齢期には、こんな関わり方を
      受け入れてくれるまで働きかけ続ける
      学んだことを生活の中で使えるように
      褒めるとは、認め、励ますこと
      叱るのではなく、こんなふうに
 
4章 思春期の特徴と関わり方
 
  1 思春期には、どんなことがあるか
      体と心のバランスが変わってくる
      自己主張があらわれてくる
 
  2 家事のできる人になりましょう
      家事のやり方を一つひとつ教える
      家事から広がっていくこと
      将来社会に出て働くときのちからに
 
  3 思春期には、こんな関わり方を
      排泄、入浴、就寝が自分でできるように
      最後までやり通す力を育てる
      興味や関心を広げていくには
      働きに対して報酬を支払う
      社会の中で居場所を広げるために
 
5章 青年期の特徴と関わり方
 
  1 青年期には、どんなことがあるか
      2つのタイプに分かれていく
      自分で行動できる範囲を広げていく
      コミュニケーションの可能性を広げる
      感情をコントロールできるように
 
  2 青年期には、こんな関わり方を
      学校生活から社会生活へ切り換え
      就労に向けて準備を始める
      失敗しても修復できる力を
      仕事が充実してこそ余暇も充実する
      仕事に必要な力を育てる
 
6章 成人期の特徴と関わり方
 
  1 生活スタイル ・・・・・・・・ 3つのタイプ
      積極的で自立した生活をしている人たち
      消極的だけど安定して暮らしている人たち
      不安定で医療的支援が必要な人たち
 
  2 この差はなぜ出てくるのか
      療育・教育・支援に問題があったのでは
      意欲をどうやって引き出すか
      気になるいくつかのこと
 
  3 成人期には、こんな関わり方を
      人を意識し、人から教わる
      感覚の過敏さをどう乗り越えるか
      自立を考えた関わり方を
 
  4 30歳からの再チャレンジ
      自立とは一人で生きることではない
      一人の人として生活していく挑戦を
 
終章 人生の伴走者として走り続ける