夕陽のあたる坂道 | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

『 聞く、書く。 第4号 』  吉備人出版 定価:500円 + 税 ~より~

話し手:鳥羽 美千子・鳥羽 俊郎、 聞き手:佐藤 伸隆
 
                 私のお薦め度:★★★★★ (手前味噌な評価です (^_^;) )

みなさん「聞き書き」って言葉をご存知でしたか?
正直、私も今回の話を「聞き書き人」の佐藤さんよりお聞きするまで知りませんでした。
世代を超えて人や地域の歴史を聞き書きを通して後世に伝えることを目的とする、のだそうです。
確かに、この「聞く、書く。 第4号」でも、私たち以外の話は「満州ばなし」「煉瓦と語る」「女学生のころ、戦争があった」など、それぞれの方の人生と歴史を感じられるものばかりであり、後世まで語り継がれていくようなものでしょう。

そんな中に、なぜに我が家の話や、自閉症児を育てる会の話が載ってしまったのかは、少々疑問の残るところではありますが、まあ育てる会も来年20周年を迎えることになりますので、すでに岡山の歴史の一部になっているということでしょうか。
ただし、現在進行形の、今も走り続けている歴史ですが (^_^.)
 
本書の中で、私たちの話は「聞き書き」の一番最後の話として、26ページほどを頂いて載っています。
聞き手の佐藤さんが育てる会の事務局に来てくださり、4~5時間お話しした内容を、聞き書きとしてまとめていただきました。
 
家族の思い出ですか? そうやねぇ、今でも一番思い出すのは、仕事が終わって会社を出る前に、この人(俊郎)が「帰るコール」をするんですよ。いつも「帰るよ」っていう意味で2回電話を鳴らすんです。そうしたら、だいたい何時着のバスだなって分かるので、そろそろやなと思うと哲平を乳母車に乗せて、後、お姉ちゃんとお兄ちゃんを連れて、家の前のゆるい坂道を下りながら一緒に迎えに行くんです。
反対にこの人はバスを降りて下の方から登ってくるんですよ。

そしたらねぇ、この人を見つけた子どもたちが「わぁい」って駈けよって行って、その後ろを私が乳母車を押しながら哲平と一緒についていくって感じでねぇ。 夕方やから子どもたちの影も長~く伸びて、うわぁ、こういうのが「幸せ」っていうのかな。 族みんなが一つになって、ほんとうに絵に描いたような幸せな家族やなぁって思いました。

   その少し後かな、哲平の障がいのことが気になり始めたのは・・・・・・。

こんな感じで始まり、哲平の障害がわかってからの話や、育てる会を作ったいきさつや、現在の活動内容についても話が広がっていきます。
気楽におしゃべりした内容ですが、本になって改めて読み返してみると、あれからもう四半世紀以上、結構いろいろありましたね。

周りからは、「障害を持つお子さんを育てていて大変ですね」「ご苦労ですね」などと見られることも多いですが、・・・たしかに自閉症児の子育て、大変は大変で間違いないのですが、それを「苦労」と思うかどうかはこちらの気持ち次第ですね。

本書の中で妻も言っています。
 
なんか、不幸っていうものは自分で作り出すものじゃないのって。 私ね、自分はもともと明るい性格の人なのに、あの診断の日から私の人生は変わったっていう風に思ったけれど、変わってなんかいない。 全然変わってないっていうことに気づいたんです。
風の涼しさとか、食べ物(の美味しさ)とか漫才(の面白さ)なんかも、ちっとも変ってないやん。何も変わっていない。世の中何も変わってない、空は青いし、お日さまは照っているし、何も変わってないんよ。ただ、私一人辛い辛いと思っているけど、変わってないんじゃないのって。

そう、気持ちの持ち方ちゃうのんって思って、暗くなっている暇はないよって、気持ちを切り替えて行った訳ですよ。だから、しんどくなったら一瞬、いやしばらく待つ。そうしたらちゃんとまた元の私に戻っていくんやって。元気なの好きだもの。明るくなきゃ育てられませんしね。前向きにいかないとやってられないですよ。
 
こんな感じで、障害児を育てている家族らしく(?)なく、哲平を真ん中にして、結構楽しく、幸せを感じながら暮らしてきました。
「お気楽すぎる」と反発を受けることもありましたが、我が家も含め、育てる会では会員のみなさんが前向きに明るくやってきたからこそ会も20年続き、頑張ってこられたように思います。

だって、自閉症の子ども達って、自分の殻に引きこもって教室の隅でみんなに背を向けているような子ども達(・・・いまだに世間では、そんなイメージを持っている方もいるようです)ではなく、みんながしかめっつらしている通勤電車の中でも、ひとりニコニコ幸せそうにしている青年たちが多いように思います。
大阪に通勤している頃は、地下鉄のそれぞれの車両に一人ぐらいは、そんな息子、哲平の「お仲間」の姿を見かけていたように思います・・・大げさな話しではなく。

そう言えば、大阪への通勤を辞めて岡山だけで暮らしはじめてからは、幸せそうな自閉症の子ども達、青年達を見かける機会が少し減ったようにも思います。
自閉症の人の社会参加をもっと増やすためには、岡山でも自閉症の人が一人で気軽に使える公共交通機関の整備も必要なのかもしれませんね。 ・・・それはさておき。
 
なんか、こんなふうに思い返してみるといろいろあったねぇ。でもずっと昔に子どもたちと夕陽の坂道を歩いてこの人を迎えに行ったときと一緒ね、ずっと・・・・・。ほんとうに。
子どもたちはみんな大きくなってしまいましたけどね。みんないい子たちです。一生懸命生きてますしね。いいですよ、ほんとうに。 今も夕陽の中にいるね、私たちみんな・・・・・・。
 
今も昔も、坂道は同じ夕陽に染まっています
変わっていると言えば、あの頃子どもたちが迎えに駈けよってくれたその坂道に、今は「おひさまハウス」があって「岡山県自閉症児を育てる会」の看板が建っていることぐらいでしょうか (^_^.)
 
私たちの話だけなら15分~20分ほどで読めますので、書店で立ち読みしていただいても結構なのですが、あまり店頭には並んでいないと思いますので、ネットでも購入できますのでよろしくお願いします。
事務局にも何冊か置いておりますのでよろしければどうぞ。
 
                     (「育てる会会報 214号) 2016.2より)
 
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