藤家 寛子:著 花風社 定価:1600円+税 (2012年9月)
私のお薦め度:★★★★★
これまでも、藤家さんの本は会報でも何冊か紹介してきました。
小説「あの扉のむこうへ ~自閉の少女と家族、成長の物語」、手記「他の誰かになりたかった」、ニキさんや浅見さんとの対談集「自閉っ子、こういう風にできてます!」などです。
どれも、当事者としての立場から、アスペルガー症候群の方のユニークな感じ方や考え方を私たちに教えていただき、なんとか工夫してこの世に生きていこうとする、自閉っ子の健気(けなげ)さを感じさせてもらえた本でした。
小説「あの扉のむこうへ ~自閉の少女と家族、成長の物語」、手記「他の誰かになりたかった」、ニキさんや浅見さんとの対談集「自閉っ子、こういう風にできてます!」などです。
どれも、当事者としての立場から、アスペルガー症候群の方のユニークな感じ方や考え方を私たちに教えていただき、なんとか工夫してこの世に生きていこうとする、自閉っ子の健気(けなげ)さを感じさせてもらえた本でした。
一方で、私のブログなどではお薦め本としているのですが、あえて会報では紹介しなかった本もありました。「自閉っ子 心身安定生活!」「自閉っ子は、早期診断がお好き」などです。
それは、やはりこの社会はアスペルガー症候群や自閉症(特に高機能自閉症)の人に対する理解がまだ乏しく、藤家さんたち当事者の方が自立していくには、ハードルの高い部分が多いことを痛感させられた本だったからです。
それは、やはりこの社会はアスペルガー症候群や自閉症(特に高機能自閉症)の人に対する理解がまだ乏しく、藤家さんたち当事者の方が自立していくには、ハードルの高い部分が多いことを痛感させられた本だったからです。
藤家さんも東京生活で、うつ状態という二次障害に陥り、佐賀に撤退されたわけです。
そこでサポートを受けながら、生活の立て直しを図るわけですが、日本で一番と言われる佐賀での支援プログラムにしても、高機能で成人の藤家さんにとっては、“支援される人”とでもいうような束縛を感じ、本当に満足を得られるものではなくなっていったようです。
そんな、ある意味痛ましさも感じるリアルタイムの本でしたので、まだ小さい子の保護者の方が多い育てる会のお母さん方には・・・・と思い、紹介は控えさせていただいていました。
そんな藤家さんからの、新刊本です。
パンパカパーン! 藤家さんが30歳にして、社会人デビューです。
「おめでとう、大変だったね」 佐賀での作業所での軋轢からも抜け出し、ハローワークでの無理解に押しつぶされることもなく、自ら見つけ出した仕事で、“普通の”社会人として働き始められました。
今度は、間違いなくみなさんにお薦めできる本です。当事者の方や保護者の方に読んでいただきたい本です。
パンパカパーン! 藤家さんが30歳にして、社会人デビューです。
「おめでとう、大変だったね」 佐賀での作業所での軋轢からも抜け出し、ハローワークでの無理解に押しつぶされることもなく、自ら見つけ出した仕事で、“普通の”社会人として働き始められました。
今度は、間違いなくみなさんにお薦めできる本です。当事者の方や保護者の方に読んでいただきたい本です。
もちろん、障害をもったままですから、順風満帆だったわけではありません。生まれて初めてのシュウカツで見つけてきた職場は、いい人間関係に恵まれていたのですが、それまでの買い物依存症に陥っていた頃の浪費癖のツケで継続を断念。次の雑貨店では、お客の顔を覚えられない(相貌失認)とラッピングの不器用さから、試験採用の段階で不採用となります。
このあたりは私も同じですね。手先が不器用なうえ、人の顔を覚えるのは苦手なため、カードなどを預かる際には、もっぱら髪型や服装で記憶していました。私も試験採用だったら、おそらく不合格、百貨店勤めはできなかったでしょう・・・ね。
雑貨屋さんでの三ヶ月で学んだのは、レジ操作と接客。
それから、何が自分に向かないかということ。
そして、どんなに頑張っても無理なことだ。
それから、何が自分に向かないかということ。
そして、どんなに頑張っても無理なことだ。
それをふまえて、私はまた仕事探しを始めた。
お客様の顔を判別できないなら、覚える必要がないところを探せばいい。
そうアドバイスをしてくれたのは彼だった。
「スーパーのレジはどうだろう?」 彼はそうメールをくれた。
そして、そういう求人は店に直接掲示してあることや、職安のホームページではなく求人情報誌のホームページを探せばいいということも教えてくれた。
それから、新聞の折り込み広告を欠かさずチェックするように言われた。
お客様の顔を判別できないなら、覚える必要がないところを探せばいい。
そうアドバイスをしてくれたのは彼だった。
「スーパーのレジはどうだろう?」 彼はそうメールをくれた。
そして、そういう求人は店に直接掲示してあることや、職安のホームページではなく求人情報誌のホームページを探せばいいということも教えてくれた。
それから、新聞の折り込み広告を欠かさずチェックするように言われた。
やっぱり親身になって考えてくれる、頼りになる“彼”の存在は大きいですね。
心身安定生活のためにも、これからもうまくいくといいですね。
心身安定生活のためにも、これからもうまくいくといいですね。
また、社会生活へのハードルという面では、ハローワークなど公的機関の方や身近な支援者の理解が不可欠なのに、実際にはそれが逆に大きな壁になっていることが多いという現実です。意を決した藤家さんが、初めて職安に仕事を探す相談に訪れた時の話です。
機械的なやり取りのあと、話は進んでいった。
私はこれまで一度も就職したことがないことを告げた。
私はこれまで一度も就職したことがないことを告げた。
そのあたりから、雲行きが怪しくなってきた。
相談は尋問のようになり、相談員さんの態度も高圧的になってきた。
相談は尋問のようになり、相談員さんの態度も高圧的になってきた。
「休まない自信はありますか」
「休まないっていうのは基礎中の基礎ですよ」
「社会体験が積みたいから仕事を探すっていうのはどうでしょう?」
「紹介するっていうのは相手に手間を取らせるということです」
「自分を過信しすぎていませんか?」
「そんなに甘いものではないんですよ」
相談員さんの言葉は滝のように私に降り注いだ。
「休まないっていうのは基礎中の基礎ですよ」
「社会体験が積みたいから仕事を探すっていうのはどうでしょう?」
「紹介するっていうのは相手に手間を取らせるということです」
「自分を過信しすぎていませんか?」
「そんなに甘いものではないんですよ」
相談員さんの言葉は滝のように私に降り注いだ。
絶対に休まないなんて自信は持てなかった。
でも、絶対に休んだことのない人っているのかどうか分からなかった。
それに仕事を探す動機にいちいち文句をつけられるのは心外だった。
相手に手間を取らせるって、どういうことだろう。
でも、絶対に休んだことのない人っているのかどうか分からなかった。
それに仕事を探す動機にいちいち文句をつけられるのは心外だった。
相手に手間を取らせるって、どういうことだろう。
手間をかけられたくないのはあなたなんじゃないの、と思った。
おまけに、自分を過信しているってどういう意味なんだろう?
就職活動が甘くないことぐらい百も承知だった。
おまけに、自分を過信しているってどういう意味なんだろう?
就職活動が甘くないことぐらい百も承知だった。
だけど、私は文句ひとつ言えなかった。
泣きそうになりながら、とぼとぼと家に帰ってきた。
後日、作業所に職安から電話が入った。
支援員さんは、相談員さんからそっくりそのまま同じことを言われていた。
悔しかったのは、そのときの支援員さんの答えだった。
「職安の人の言うとおりだと思った」
泣きそうになりながら、とぼとぼと家に帰ってきた。
後日、作業所に職安から電話が入った。
支援員さんは、相談員さんからそっくりそのまま同じことを言われていた。
悔しかったのは、そのときの支援員さんの答えだった。
「職安の人の言うとおりだと思った」
それにつけても、本書を読んで感じたのは、当事者の方の、作家の部分と実生活とのギャップの存在でした。
これは大江光さんの時にも感じたのですが、すばらしい音楽を作曲される光さんが、実生活では知的障害の作業所で支援を受けながら、一人の通所生として働いておられました。
藤家さんも、作家やエッセイストとして、この業界(?)では有名なのですが、実生活では新しく採用されたドラッグストアのレジ係りとして働いておられます。
どちらも、藤家さんにとって大切なものだと思います。
これは大江光さんの時にも感じたのですが、すばらしい音楽を作曲される光さんが、実生活では知的障害の作業所で支援を受けながら、一人の通所生として働いておられました。
藤家さんも、作家やエッセイストとして、この業界(?)では有名なのですが、実生活では新しく採用されたドラッグストアのレジ係りとして働いておられます。
どちらも、藤家さんにとって大切なものだと思います。
そして、もしハローワークの職員が、藤家さんが著名人だと知っていれば、あれほど不遜な対応はしなかったようにも思いますが、でも、それは相手が有名人・知識人などに関係なく、職務としては障害をもつ全ての方に丁寧に対応してほしいですね。
しかし同時に、その後、フォローしてくれて、社会人デビューまでの道筋を後押ししてくれたのは、障害に理解のある支援センターの先生や、藤家さんに理解のある彼だったようです。
本当の意味での、理解のある支援の大切さも感じさせられました。
しかし同時に、その後、フォローしてくれて、社会人デビューまでの道筋を後押ししてくれたのは、障害に理解のある支援センターの先生や、藤家さんに理解のある彼だったようです。
本当の意味での、理解のある支援の大切さも感じさせられました。
それでは最後にうつ状態を抜け出し、社会人となった藤家さんからのメッセージです。
今はこう思う。
どんな障害を抱えていようと、自分が満足できる生き方を送れるようになりたい、と。
生きにくさを抱えていても、多くの定型発達の人のように、人生を満喫する方法がある。
どんなにどん底からでも、這い上がりさえすれば、キラキラと輝く太陽の下で生活できることを伝える。
それが、私に与えられた新しい使命なのではないかと考えるようになった。
私が回復したのは、それを多くの人に伝えるためかもしれないのだ。
どんな障害を抱えていようと、自分が満足できる生き方を送れるようになりたい、と。
生きにくさを抱えていても、多くの定型発達の人のように、人生を満喫する方法がある。
どんなにどん底からでも、這い上がりさえすれば、キラキラと輝く太陽の下で生活できることを伝える。
それが、私に与えられた新しい使命なのではないかと考えるようになった。
私が回復したのは、それを多くの人に伝えるためかもしれないのだ。
そんな藤家さんが、ニキ・リンコさんや、花風社の浅見さんと一緒に、10月に岡山に来てくださることになりました。
元気になられた藤家さんからのお話し、楽しみにしています。
(「育てる会会報 184号」 2013.8より)
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目次
第1章 アスペルガーと診断されて八年でわかったこと。
― 幸せとは、自らつかむもの
― 幸せとは、自らつかむもの
企業で働き始めた年、夏を迎えて
挑戦しない不幸
頑張ることが嫌いだった子ども時代
頑張ることができるようになった理由
歩み寄る必要性に気づいていく
回復は動くことから始まる
頑張ることと無理することの違い
回復しても動き続ける
作業所で学んだ日々
恋愛
修行という言葉
作業所ってこれでいいの? 悩み始める。
挑戦しない不幸
頑張ることが嫌いだった子ども時代
頑張ることができるようになった理由
歩み寄る必要性に気づいていく
回復は動くことから始まる
頑張ることと無理することの違い
回復しても動き続ける
作業所で学んだ日々
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修行という言葉
作業所ってこれでいいの? 悩み始める。
第2章 人生初めてのシューカツ
怖い職安
突破口を探す
職場見学
<その1>
<その2>
<その3>
職場実習
仕事の効率向上に挑む
高い評価をもらう
合格!
努力との折り合い
世界
突破口を探す
職場見学
<その1>
<その2>
<その3>
職場実習
仕事の効率向上に挑む
高い評価をもらう
合格!
努力との折り合い
世界
第3章 青春の闇は暗くても
私の育った環境
二次障害と呼ばれるもの
解離の瞬間と「記憶」
二度の引きこもり
「診断告知」について考える
「現実世界」を把握しないと、回復はない
引きこもりからの脱出
就労支援現場の限界を知る
二次障害から心を守る生き方のトレーニング
二次障害と呼ばれるもの
解離の瞬間と「記憶」
二度の引きこもり
「診断告知」について考える
「現実世界」を把握しないと、回復はない
引きこもりからの脱出
就労支援現場の限界を知る
二次障害から心を守る生き方のトレーニング
第4章 自立は一日にしてならず
頑張る必要性がわかっていなかった
なぜ頑張る必要があるかは教えてあげたほうがいい
ひとり暮らしを成功させるために
ボディイメージのトレーニング
就労支援の理想と現実
一般枠での就労で経験したこと
浪費癖
与えられた道を歩む
退職を切り出す
受かった!
新しいスタート
思いがけないカミングアウト
これからの修行
残念な結果
私はあきらめない!
なぜ頑張る必要があるかは教えてあげたほうがいい
ひとり暮らしを成功させるために
ボディイメージのトレーニング
就労支援の理想と現実
一般枠での就労で経験したこと
浪費癖
与えられた道を歩む
退職を切り出す
受かった!
新しいスタート
思いがけないカミングアウト
これからの修行
残念な結果
私はあきらめない!
第5章 一人の社会人として、現在と未来を生きる
毎日精進
生きがいをもつ
異変
踏ん張りどころ
新しい人間関係
人生を好転させるために
生きがいをもつ
異変
踏ん張りどころ
新しい人間関係
人生を好転させるために
あとがきにかえて 次世代の人たちへ
主治医インタビュー 『人間化が進んでいる、とご本人はうれしそうです(笑)』